TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う   作:第616特別情報大隊

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海上作戦//作戦方針の転換

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 ──海上作戦//作戦方針の転換

 

 

 ガイウス将軍はこれまでの無理やりな西部連合への鎮圧作戦をやめた。

 クイントゥス将軍がやっていたように都市を落としては、そこで無差別に処刑を繰り広げるというやり方をやめたということ。

 

 彼は飴と鞭を使い分けることにした。

 帝国軍に協力した都市には経済的恩恵を約束し、そうでない都市は焼き払った。

 明確に対応を分けたことで、西部連合内にも意見の対立が生まれ始める。

 

「敵は動揺しているな」

 

 ソフィアは帝国軍に降った都市の様子を見てそう言う。

 西部連合の都市はこれまで戦わずして降伏することなどなかったが、ガイウス将軍が第3軍を指揮するようになってからは、大した戦闘もなく降伏することが増えた。

 

 増えたと言っても次々に都市が降伏しているわけではなく、あくまで守備隊が脆弱などの弱点を抱えた都市が玉砕覚悟で戦闘することがなくなっただけだが。

 守備隊が整っている都市は当然ながら帝国軍に抵抗している。

 

「動揺?」

 

「ああ。西部連合の政治基盤は都市にある。指導者たちは都市の商人たちだ。その都市がこうもあっさり降伏すると言うのは、敵もこちらが対応を変えてきたことに動揺している証拠だろう」

 

 私が首を傾げるのにソフィアはそう説明する。

 

 西部連合を牛耳るのはお金持ちの商人たち。

 前にもソフィアが言っていたように交易で栄えている彼らは、政争に明け暮れる帝国中央にうんざりして独立を目指している。

 

 そんな彼らは都市を支持基盤にしている。

 つまり都市を失えば、それだけ支持を失う。

 

「しかし、依然として帝国軍が有利になったわけではない。この戦争に先はない。帝国軍のやった()()というものがそれを示している」

 

 先の再編成によって帝国はガイウス将軍とティベリウス将軍の損耗したふたつの軍に増援を派遣してきた。

 しかし、兵力は極端に増えたわけでもなく、ガイウス将軍指揮下の第3軍に6000名、ティベリウス将軍指揮下の第2軍に7000名の兵士が満たされただけだ。

 これまでの戦いでその活躍が証明されている魔法使いにしても増援は乏しい。

 

「帝国はずるずると戦争を引き延ばせば、西部連合が音を上げるとでも思っているのか。連中は着々と兵力を増強しているのにな……」

 

 私たちがそんな話をしていたとき、ある人物が私たちの下を訪れた。

 

「やあ、おふた方。この戦争について議論されていたのですかな?」

 

 ガイウス将軍だ。

 将軍になって魔法使いのローブを紫から黒に変え、帝国の紋章を背中に金糸で刺繍したそれを纏った彼が颯爽と現れた。

 

「別に。議論はしていない」

 

「この戦争の勝機は薄いとお考えかな?」

 

「さあな」

 

 ガイウス将軍が尋ねるのにソフィアは明白に答えない。

 今や将軍になったガイウスに迂闊なことは言えないだろう。

 

「確かに我々は劣勢なままです。帝国中央はこの反乱の鎮圧を巡って言い争っている状況ですから」

 

「それを傭兵である私たちに明かしていいのか?」

 

「ええ。聞いておいてください。帝国中央はまず元老院が西部の独立を認めてしまえと言っています。そして、その責任は皇帝陛下が取るべきだと」

 

 帝国の派閥のひとつ元老院。

 彼らは西部連合の独立を認めるが、皇帝の責任を追及している。

 

「次に軍部は長期戦になれば不利だとして短期決戦を求めています。大兵力を一気呵成に同時展開させ、反乱を半年以内に終わらせるべきだと」

 

 帝国の派閥のひとつ軍部。

 彼らは短期決戦のために兵力増強を求めている。

 

「そして、皇帝陛下とその側近たちは西部連合を長期戦で締め上げようとしてる。この戦争は5年から6年がかりのものであり、そのような長期戦に備えるために皇帝大権を強化すべきだと」

 

 帝国の派閥のひとつ皇帝とその側近。

 彼らは戦争は長期戦であるとすると同時に戦時の皇帝の権限増強を求めている。

 

「お前はどれを支持しているんだ?」

 

「戦争は迅速に終わるに越したことはありません」

 

「つまりお前が所属している派閥は軍部か」

 

「それははっきりとは申しません」

 

 にこにこと線のように目を細めて笑うガイウス将軍。

 彼が所属しているのはソフィアが睨んだように軍部なのか、それともこれはブラフなのだろうか。

 

「現実的な問題です。現場の人間としてこの戦場に長くいたくはありません。そうでしょう? 私はやり方を変えましたが、私の前任者は随分と酷いことをやらかしました。そのせいで我々は西部の人間に恨まれています」

 

 下手に敗北すれば次は自分たちが虐殺されるとガイウス将軍は肩を竦めた。

 

「早いところ、この戦争終わらせて中央に戻りたい。私がここにいるのは私の本位ではないのですから。所詮は派閥のために送られただけで」

 

「……確かに戦場に長居はしたくないものだ。ましてこんな戦争ならば」

 

「同意していただけてよかった」

 

 ガイウス将軍は満足げだ。

 ふたりとも戦争は終わった方がいいと言うが、私はどうなのだろう……。

 私は今のところ戦うことでしか、その価値を示せていない。

 戦争が終わったらソフィアのために何ができるだろう……?

 

「というわけでして、我々は大きな作戦を計画中です」

 

「今ある戦力でか?」

 

「ええ。西部連合の首都ロンディウスは未だ遠いですか、彼らにとって価値ある都市はそれだけではない。ここから南に進んだ場所にあるアンドロポリスは西部の主要港のひとつであり、今も西部連合が交易のために使っている港です」

 

 ガイウス将軍がソフィアの問いにそう説明する。

 

「もし、港を閉鎖できれば西部連合にとって多少は打撃を与えられるでしょう。もしかすると西部連合は交渉のテーブルに着く気になるかもしれません」

 

「随分と楽観的な作戦だな」

 

「この状況で悲観的になってもいいことはありませんから」

 

 西部連合がそう簡単に音を上げてくれるならば、どうして最初からそのアンドロポリスを攻撃しなかったんだろう?

 

「あそこはすでにお前の前任者が無謀な攻撃を仕掛けて、逃げ散る羽目になったと聞いたぞ。守りは要塞のように固く、守備隊は海路で次々に補充されるとも」

 

 ソフィアはガイウス将軍にそう指摘。

 なるほど。これまで攻撃の対象にならなかったのは、単純に守りが固すぎるからか。

 そしてすでにクイントゥス将軍は攻略に失敗した。

 ガイウス将軍は前任者の二の轍を踏むつもりだろうか?

 

「私はそのときのことを知りませんが、状況は変わっています」

 

 彼は口元に笑みを浮かべてそう言う。

 

「あなた方という強力な魔法使いがいることです」

 

 

 * * * *

 

 

 ガイウス将軍の作戦はこうだった。

 

 まずは地上軍がアンドロポリスに向けて進軍する。

 だが、それは西部連合への牽制であり、主攻ではない。

 

 主攻は海上から進む艦隊だ。

 その艦隊が陸軍を海上輸送し、アンドロポリスへの強襲上陸作戦を試みる。

 同時に敵艦隊を撃破し、制海権を一時的にも確保するのである。

 

 そうすれば西部連合はアンドロポリスを失うと同時に西部連合の海上交易網を妨害することができるようになる、というわけだ。

 

 これだけ聞くと上手く行きそうな作戦だがリスクは大きい。

 海軍が敵艦隊に撃破されたら、陸軍部隊も失われる。

 さらに西部連合艦隊にフリーハンドを与えることになり、戦況はますます帝国にとって不利なものとなるだろう。

 

 今でこそ西部連合は海上交易路の護衛に艦隊を割いてるが、帝国海軍が壊滅すれば海上には僅かな海賊が出没するだけになるのだ。

 私たちがやろうとしている都市への強襲上陸作戦を、敵もやってくることに繋がるかもしれない。

 

 ただえさえ帝国本国からの補給が途絶えがち中で、港湾都市を失うのはリスクだ。

 

 そうソフィアは分析していた。

 

「ガイウスが自棄になったとは思えない。リスクはちゃんと承知の上だろう。だから、こうして私たちもここに送られたわけだしな……」

 

 彼女はそう言って、前を向く。

 私たちの前には巨大なガレー船が何隻も停泊していた。

 そう、私たちは地上部隊ではなく海軍に同行しろというのが命令だったのだ。

 

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