TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──海上作戦//接敵、敵艦隊
私たちの眼前に広がるガレー船。
大型のものでも、私が知る現代の軍艦に比べれば小さい。
何よりそれらの艦艇には砲がなかった。
「これでアンドロポリスを目指すんです?」
「そうだ。船旅は初めてだろう、リンクス。覚悟はしておけ」
ソフィアがどうして覚悟を求めたのか、この時点で私は分かっていなかった。
しかし、すぐにそのことを理解する羽目になった。
「……師匠。気分悪い……。吐きそう……」
ガレー船というのは酷く揺れる。
船自体が小さく、また喫水線が浅いため波に弱いのだ。
その上、人間が漕いで移動すると言う原始的な船であり、船内は男たちの汗と汚物の臭いで満ちている。
私は乗ってから3時間もしないうちに吐きそうになっていた。
私と同じようにガレー船に乗った帝国軍の将校はすでに海に向けて吐いている。
私たちは敵と戦う前から酷い状況だ。
「耐えるんだ。幸い、そう何日も乗っていなければいけないわけではない。あと数時間と言ったところだ」
ソフィアの方はこの手の船旅は初めてではないようで、この酷い揺れと悪臭にも耐えきっていた。
彼女は甲板で姿勢を保ち、帝国軍の提督と前を見据えている。
「アンドロポリスまでは順調に進めそうだ。風がいい」
海軍の提督はプブリウスという名の人で、もじゃもじゃした髭を伸ばし、力強い眉をした全体的に濃い人であった。
それから長く海にいるせいか、よく日焼けした褐色の肌をしている。
そんなプブリウス提督は同様のガレー船200隻と兵士8000名を指揮して、アンドロポリスを目指していた。
「もう少しアンドロポリスに近づいたら使い魔を放って偵察する」
「うむ。よろしく頼むよ、魔法使い」
ソフィアが言うのにプブリウス提督は柔和な笑みを浮かべて頷く。
それからソフィアは私の方に来て、青白い表情で吐き気を抱えている私の背中を優しく撫でてくれた。
そうすると少しだけ気分がよくなった。
「……リンクス。この戦闘では私たちが随分と当てにされている。恐らくこの艦隊だけでは、西部連合には勝てないと分かっているのだろう」
それからソフィアがそう私に告げる。
「だが、向こう側も魔法使いを使ってくる可能性がある。楽な戦いにはなるまい……」
西部連合の艦隊は400隻以上とも言われている。
アンドロポリスの防衛のために全戦力を投じてくることはないにしても、今の帝国軍より大規模な艦隊を投射してくる可能性はあるのだ。
だけど、ガイウス将軍は私たちを投入すれば勝てると思っている。
その考えの根拠はこれまでの戦闘における戦果からだろうが、私たちだって勝てない戦いはあると思う……。
事実、私はすでに船酔いにやられており、これからどう戦うのか見当もつかない。
本当に私たちは勝てるのだろうか……。
私はまだ胃がむかむかする中、甲板から青い海を見つめた。
アンドロポリスも敵艦隊も今はまだ見えない。
* * * *
「見えたぞ!」
アンドロポリスまで近いという報告が大声で叫ばれ、私はアンドロポリスの位置する方角を向いた。
その方向には白く太陽の光を反射する美しい建築様式の建物が連なり、岬には巨大な灯台を有する港町があった。
そこは私たちの乗るガレー船より大きな大型船が停泊している桟橋があり、沖では漁をしている小さな漁船が群れている、とても栄えた都市だ。
そして、あれこそが私たちが攻撃する目標である。
「西部連合の旗を掲げた軍船複数! 敵艦隊です!」
さらにマストの上にいる見張り員がそう叫ぶ。
その報告ののちに水平線の向こうから西部連合の軍旗を掲げた船が姿を見せる。
その数は明らかに私たちの艦隊より規模が大きい。
「いよいよか」
「魔法使い。すぐに偵察を。敵艦隊の陣形を知りたい」
「ああ」
十分に敵艦隊が近づいたところで、ソフィアが使い魔を上空に放った。
使い魔のワタリガラスは敵艦隊に向けて高度を維持して飛行していく。
「……敵艦隊は約300隻。楔型の陣形を作ってこちらに向かっている。どうする?」
「こちらもこのまま楔型の陣形で突っ込み、まずは先頭の船をバリスタや投石機で潰す。あとはいつものように移乗攻撃だよ。勇敢な帝国軍兵士が敵船へと乗り移り、そして制圧する」
「分かった。こちらはそれを支援する」
「期待している、魔法使い」
それからプブリウス提督との打ち合わせを終えたソフィアが私の方に来る。
「準備はいいか、リンクス。これから敵艦隊を叩く。敵は友軍より規模が大きい。このまま戦えば私たちはこの艦隊を心中する羽目になる」
「それは避けないと、ですね」
「ああ。可能な限り敵船を沈める。やるぞ」
「はい」
私とソフィアはプブリウス提督が乗る旗艦を飛び立ち、敵艦隊に向かう。
敵艦隊上空にはまだ魔法使いはいない。
「今のうちに上を取ればこちらが有利になる。高高度から撃ちおろしで叩くぞ」
「了解」
敵の魔法使いが要撃に上がってくる前に私たちは敵艦隊上空へ。
敵艦隊はまず楔形の陣形を作った艦隊が先頭を進み、それに続いて横一列の艦隊が進んでいる。
全体的に凸の形を描いた陣形だ。
「まず先頭を潰すと言っていたな……。代わりに私たちがやってやろう」
「師匠はいつも通りに防御を。攻撃は私がやる」
「……ああ。任せたぞ」
いつものようにソフィアが防御を担当し、私が攻撃に当たることに。
魔力装甲が展開され、青緑色のそれが私とソフィアを守る。
「やれ、リンクス。友軍艦隊と敵艦隊の距離が離れている今がチャンスだ」
それからソフィアの指示を受けて私が敵艦隊の先頭の船を狙う。
敵のガレー船にはバリスタや投石機が搭載されており、数は敵の方が多いので敵から攻撃を受ければ友軍は滅多打ちだろう。
私たちが阻止しなければ。
「えい」
海上に響いていた海鳥の鳴き声や波の音が一瞬だけ聞こえなくなる。
ただひたすらな静寂を感じたのちに炎が敵艦隊の先頭に生じた。
爆轟。
炎が広がるのはその音が届くより速い。
爆轟で生じた炎は敵艦隊先頭を包み、その周辺の船も衝撃波によって粉砕される。
津波のように海上に波紋が走り、それは東から迫る友軍艦隊を揺さぶるほどだった。
だが、敵艦隊はまだ壊滅していない。
「敵艦隊は残り200隻というところか。これなら対等だな」
ソフィアは船だったものが広がる海上を見下ろしてそう呟いた。
海上には木片や人間だったものが多く浮かんでいる。
そして、敵艦隊はいきなりの先頭艦隊の壊滅に狼狽え、整えられていた凸型の陣形が大きく崩れつつあった。
「リンクス。ここからは追加の仕事だ。可能な限り船を沈め、友軍を支援する。私たちも帰る船がなくては困るからな」
「ええ、師匠」
それから私は魔力の矢を生成し、敵艦隊に叩き込み始める。
すでに友軍艦隊が近いので爆轟魔法は使えない。
魔力の矢で削っていくしかないだろう。
幸い、城塞と違って敵は木造のガレー船だ。
魔力の矢でも十分処理できる。
初撃の奇襲で混乱している敵艦隊に矢を叩き込み、私は屠っていく。
大破した船から海に飛び込む将兵は私は狙わなかった。
それはソフィアが禁じた余計な殺しだから。
そうやって私が魔力の矢を敵船に降り注がせていたときだ。
「警戒しろ、リンクス。敵の魔法使いが来た。陸の方からだ」
ソフィアがそう警告を発し、私が陸の方を見ると、そこから12名の魔法使いが私たちに向けて接近してきていた。
「やらなければやり返される。ここで連中を叩くぞ」
「了解、師匠」
そして、私たちは対魔法使い戦へ──。
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