TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──海上作戦//占領
私たちが帝国軍の艦隊に戻ってきたときには、海戦はすでに勝敗を決していた。
西部連合は退却し、帝国軍はアンドロポリスへの上陸を目指して進んでいる。
「見事な戦いだった、魔法使い! 君たちは我々に勝利をもたらしてくれた! まさに勝利の女神たちだ! 接吻したいくらいだよ!」
プブリウス提督は私たちを大喜びで出迎えてくれた。
私とソフィアが敵艦隊を大きく叩き、敵魔法使いの進出も阻止したため、海上決戦はほぼ一方的なものであったそうだ。
200隻存在した帝国艦隊のうち撃破されたのは僅かに30隻というのが、プブリウス提督が喜ぶ理由を明確に示している。
「あとはアンドロポリスを落とすだけだな」
「こうなれば敵も無意味な抵抗はするまいよ」
プブリウス提督の言葉はいささか楽観的すぎる気もしたが、彼のその楽観的な予想は当たっていた。
アンドロポリスは地上と海から迫った帝国軍を前に降伏。
思えばそれが彼の目的だったのだろう。
彼は帝国軍ではなく、派閥のための勝利を求めていた。
そして、今の彼は巨万の富を生む都市の軍政長官として、いくらでも汚職ができる立場になった。
彼が本国に送金する資金は派閥争いのために使われるに違いない。
そうソフィアも分析していた。
「その上、だ。軍政長官となったガイウス将軍は暫くの間、望んでいたように前線に出なくともよくなった。やつは本当に上手くやったものだ。派閥の勝利と自分の安定を同時に手に入れた」
ソフィアは破壊されずに残ったアンドロポリスの街並みを見てそう呟く。
「だが、この美しい都市を破壊するという愚かな選択をしなかったことは、私たちからも誉められる手柄だな」
確かにこの街並みは美しい。
後世まで残れば有名な観光地となるだろう。
私たちも今は観光気分で出歩いている。
アンドロポリスは帝国軍に屈したわけだが、都市が戦闘に巻き込まれなかったおかげだろう。都市には私たちを恨む人は少なかった。
もちろんいないわけじゃない。
西部連合の独立を支持していた人たちは当然不満を持っているし、海軍として出兵していた家族を持つ人たちは恨みを持っている。
そんなわけで帝国軍はアンドロポリスが再び西部連合の旗を掲げないと断言できるまでは、このアンドロポリスに留まることになったのだった。
帝国軍はアンドロポリス内の不穏分子を取り締まり、街の治安維持に努めている。
「第3軍はこのままアンドロポリスから動かないのかな……」
「ああ。暫くは動かないだろう。だが、いずれは腰を上げざるを得なくなる。アンドロポリスは西部連合の首都でもない。反乱はまだ続いているのだから」
アンドロポリスは西部連合にとっては有力な都市のひとつだったが、ここを抑えられたぐらいでは戦争は終わらないとソフィア。
事実、北部で戦っているティベリウス将軍の第2軍は苦しい状況らしい。
ティベリウス将軍が再び敗走すれば、私たちもまたアンヴィルの戦いのように撤退を迫られるかもしれなかった。
「……幸い今も給料は振り込まれている。もう少しだ。もう少しだけ、この戦争に付き合えば、暫くは戦わなくてもいい……」
ソフィアは私が不安そうにしているのを、私が再び前線に行くことを恐れているのだろうと思ってそう慰めるように言ってくれた。
だけど、そうじゃない。
私は戦う必要がなくなって、ソフィアに必要とされなくなることの方を恐れている。
ルフスから、リウィアからあれだけ憎悪を向けられても、私には戦うこと以外でソフィアに貢献できる気がしなかったから。
「さあ、リンクス。ここは港湾都市だ。食事も変わったものがあるだろう。何か食べてから宿に戻ろう」
「はい、師匠」
それから私たちは食堂に入り、オリーブオイルとニンニクで味付けされた香ばしい魚料理などを味わった。
今が戦争中でなければソフィアとこうしているのはデートみたいで嬉しかったが、今はまだ戦時だ。
街角に立っている歩哨。
兵士たちに連行されていく市民。
吊るされた反逆者の死体。
それらが穏やかな雰囲気を容赦なくはぎ取っていた。
未だアンドロポリスには緊張感が漂っている。
* * * *
私たちが軍政長官の座に就いたガイウス将軍から呼び出しを受けたのは、私たちがアンドロポリスを陥落させてから7日後のこと。
「やあ、おふた方。私の望むような戦果を挙げてくれましたね」
「礼を言うのが少し遅かったのではないか?」
「失礼。こちらも忙しかったもので」
ガイウス将軍はアンドロポリスの市庁舎を占領軍司令部にしており、帝国軍の兵士たちが守る市庁舎の執務室で私たちを出迎えた。
「さて、本題に入りましょう。あなた方が交戦した魔法使い。青き刃のリウィアという二つ名を持った魔法使いですが、どうやら仕留め損なったようですね。彼女が西部連合の主力に合流したという知らせを密偵から受け取りました」
「……魔法使い個人を殺害するというのは傭兵の仕事ではない」
「ええ、ええ。別にそのことは気にしていません。再び彼女が立ちふさがってもあなた方ならば容易に倒してしまうことでしょう。問題は彼女が西部連合の指導部に報告した内容にあります」
ソフィアが静かに言い返すのに、ガイウス将軍は続ける。
「『帝国軍に詠唱を必要としない魔法使いがいる』と。彼女は指導部にそう報告しているのです。そして、あのときリウィアと交戦した魔法使いはあなた方ふたりだけ」
ガイウスのその言葉にソフィアが眉に深く皺を寄せ、威嚇するように彼を睨んだ。
「……それで? 何が言いたい?」
「これが事実ならば私は帝国中央に報告しなければなりません。詠唱を必要としない魔法使いがいるなどとは、恐ろしいではないですか。まさに帝国魔法官が調べてしかるべき話となるでしょう」
「敵の与太話を真に受けたと馬鹿にされるだけだぞ」
ソフィアは言っていた。
詠唱なしで魔法が使えることが他人に知られれば、迫害を受けるか、あるいは──。
「かもしれません。それにそんな人材が
そう言ってガイウスはソフィアではなく私の方を見ていた。
「近いうちに再び仕事を依頼します。そのときはまた私のための勝利をお願いしますよ。私もそろそろ帝国中央のワインが恋しくなってきました」
ガイウスはそう言い西部のワインは口に合わないと首を横に振る。
「……分かった。だが、報酬は弾んでもらうぞ」
「もちろんです。今の私は金銭面でけちけちする必要はありませんので」
アンドロポリスの占領は当然と言うかガイウスにとって個人的な利益にもなっているようだった。
「では、暫くはアンドロポリスから他所に行かれないように」
ガイウスはそう釘を刺し、私たちを解放した。
市庁舎から出たソフィアは見るからに苛立っていた様子だ。
「ごめん、師匠。私のせいで……」
「お前のせいではない、リンクス。あの将軍が欲深いだけだ」
私が謝るのにソフィアは首を横に振った。
「何かあれば私がどうにかする。だから、お前は気にするな。決して魔法官に引き渡しなどさせない」
「……はい」
私はソフィアの言葉を心強く思いながらも、自分が彼女の負担になっていないか心配になっていた。
やはり私はソフィアにまだ何も返せていない……。
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