TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──賞金首//奇襲
私たちがアンドロポリスを出発したのは、ティベリウス将軍の第2軍が度重なる敗北を喫しているという知らせが入ってから2日後のこと。
ガイウス将軍は敗走するティベリウス将軍の救援のためにアンドロポリスに少数の兵士を残し、都市を出撃した。
「ティベリウス将軍に恩を売りましょう。彼は皇帝派閥の有力な将軍です」
私には予想外のことだが、敵対し合う派閥間でも助け合うことはあるらしい。
てっきりクイントゥス将軍がそうしていたようにガイウスもティベリウス将軍が敗北し続けるのに喜ぶと思ったのだが……。
「恩を売れば政治的なコネができる、か」
「政治の世界は貸し借りの世界です。主導権を得るにはどれだけ相手に貸しを作れるかが重要になります。そして、今はそれに持ってこいの場面です」
ソフィアがそう言い、ガイウス将軍がそれを肯定する。
「それに、です。ティベリウス将軍がこれ以上負け込むと私たちはアンドロポリスから撤退しなければならなくなってしまう。せっかく獲得した大きな戦果です。逃したくはありません」
政治だけではなく現実問題としても、ティベリウス将軍がこのまま敗走するとガイウス将軍の第3軍も危うくなってしまう。
第2軍を放置して前進したせいで撃破されたクイントゥス将軍の二の轍を踏む気は、ガイウス将軍にはないようだ。
「第2軍の現状は?」
「現在はこのマルティウムまで撤退し、そこに立て籠もっています。西部連合はマルティウムの本格的な包囲に向けて動いているので、下手をすると第2軍は包囲されて壊滅するでしょう」
「では、我々の作戦は解囲か」
「ええ。そうなります。敵との野戦に臨み、これを撃破します」
ティベリウス将軍は北部の都市マルティウムに立て籠もっているそうだ。
そして、マルティウムの包囲に向けて西部連合は軍を動かしている。
よって、私たちは包囲されそうになっている第2軍を救出しに動く。
「あなた方には期待していますよ。いつものように勝利をもたらしてください」
ガイウス将軍はそう言って狐のように笑い、軍議を終えた。
「いつものように、か……」
ソフィアはその言葉にそう繰り返したのみであった。
私たちがいつも勝利できるとは限らないのだということをソフィアも分かっているのだろう。
だが、私はソフィアを失望させないように頑張るつもりだ。
必ず勝利を。
* * * *
それから私たちはマルティウムに向け進軍。
アンドロポリスを確保したことで補給が潤沢になり、そのおかげで兵士たちの士気は高いようだ。
行軍の中でも脱落者は出ず、順調に進めている。
「しかし、今度はこちらが包囲されるとはな」
ソフィアは皮肉げにそう語る。
「しかし、西部連合と違って第2軍は包囲されれば長くはもたないだろう」
「どうして?」
「西部連合は包囲される前に入念に準備していた。それに地元の住民も協力している。だが、帝国軍にはそれがない。食料や武具が尽きるのは早く、内部から内通する市民も出る。そうなれば陥落はあっという間だ」
私の問いにソフィアはそう説明してくれた。
「急がなければ包囲された第2軍はいよいよ全滅だ」
ソフィアは馬車の中でそういうが、急ごうにも急ぎようがない。
この時代にトラックはないし、全員分の馬車もない。
兵士たちは騎兵を除き、基本的に徒歩で移動する。
鎧を纏い、徒歩で歩く彼らの速度は……早いものではなかった。
「第2軍が全滅したら、私たちも撤退?」
「ガイウス将軍ならそうするだろう。やつはクイントゥス将軍のように戦果に狂ってはいない」
「そっか……」
第2軍壊滅ののちに第3軍が撤退すれば、戦争は帝国軍の敗北だ。
また軍を編成して送り出すのかもしれないけれど、それには長い時間がかかる。
事実、クイントゥス将軍の招いた敗北をリカバリーするためにガイウス将軍がかけた時間は短いものではなかった。
「師匠、まだ稼ぎは……」
「……まだだ。しかし、この戦いで戦功を上げれば、そろそろ……」
ソフィアが目的としている金額を私は知らない。
しかし、私たちがまた山小屋で平穏に暮らすにはしっかりとした蓄えが必要だろう。
あの生活のためならば頑張れる。
だけれど、戦争が終わってしまったら……私はあの生活の中でソフィアの役に立てるだろうか……。
優しいソフィアから与え続けられるだけなのは、ダメだと思うのだ。
やはり私はソフィアに恩を返したい。
私がそんなことを考えていたときだ。
突然、馬車の外から悲鳴が上がった。
「何が……!?」
「リンクス! 馬車の中から出るな! 魔力装甲を展開する!」
私が狼狽えるのにソフィアがすぐに魔力装甲を展開。
馬車の幌が破れ、全体を包んだ魔力装甲に波紋が生じる。
私たちは攻撃を受けている。
攻撃で破れた幌からは空が見え、空には味方ではない魔法使い。
数は8名。上空で散開している。
「クソ。不意打ちは我々の専売特許ではなかったな」
ソフィアはそう言い、空にいる魔法使いを睨むように見る。
敵魔法使いは魔力装甲を展開しながら魔力の矢を第3軍の隊列に降り注がせていた。
「応戦するぞ。第2軍の救援に行く前に壊滅しては困る」
「了解、師匠」
私たちは魔力装甲を展開して高空にから魔力の矢を繰り出す敵魔法使いに対峙。
「敵の魔法使いだ。しかし、たったの2名とは。舐められたものだ」
「待て。あのガキ、例の賞金首じゃないか?」
敵の魔法使いは西部連合の正規兵ではないようで、モスグリーンのローブに白糸で五芒星を刺繍し、背中には短剣を噛み砕く狼の紋章が。
「ああ。あの詠唱しない魔法使いって話か? あれはただの与太話だろう。負けた正規魔法使い様が苦し紛れについた言い訳にすぎんよ」
「だが、討ち取れば報酬が出るって話だ。それなら与太話でも関係ない」
「オーケー。そういう話なら──ぶちのめそう」
一瞬で魔法使いたちの殺意が一斉に私たちに向けられた。
魔力の矢は私とソフィアに向けて集中して放たれる。
『偉大なる精霊たちよ。願い奉る。悪しき敵の手から我らの身体を守るための術を与えたまえ──』
ソフィアは魔力装甲で攻撃を防ぎ続け、私は彼女に合わせて上昇する。
「師匠、大丈夫?」
「大丈夫だ。お前は攻撃に専念しろ」
「分かった」
私は狙いを敵魔法使いに定める。
「偉大なる精霊たちよ」
そして軽く詠唱する振りをして生成した魔力の矢を敵魔法使いに向けて放った。
魔力の矢は攻撃に傾いていた敵魔法使いの魔力装甲を貫き、撃破する。
「オドアケル隊長! ひとりやられた!」
「やりやがったな、クソガキ……!」
魔法使いが叫び、オドアケルと呼ばれた魔法使いが鋭く私を睨む。
力強い目をした中年の男性魔法使いは、その灰色の目で私に殺意を向ける。
「偉大なる精霊たちよ──」
再び詠唱を行う振りをして私は魔力の矢を生成するが──。
「散開!」
オドアケルがそう叫び、彼は機動して私に狙を定めさせない。
「正規魔法使いが負けた相手だとしても俺たちに勝てるとは思うな」
オドアケルたちはそう宣言すると魔力装甲を限定的に出現させ、そのまま私たちを魔力の矢で攻撃する。
その魔力装甲は帝国軍の兵士たちが使うタワーシールドのようであり、私に叩き込もうとする魔力の矢を的確に弾いていた。
「……敵も戦い慣れているな。用心してかかれ、リンクス」
「はい」
私は敵魔法使いを落とすための手段を考え始めた。
下には帝国軍がいるから爆轟魔法は使えない。
だけど、私の魔力の矢は魔力装甲に弾かれている。威力不足だ。
ならば──。
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