TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──賞金首//傭兵
私は思い出していた。
強力な魔力による攻撃。
それはアンドロポリスを巡る戦いの中で知ったもの。
「師匠、私は敵に肉薄するから付いてきて」
「何をするつもりだ、リンクス?」
「──白兵戦」
そう、私はあの戦いでリウィアから学び取っていた。
あの魔力の刃で敵を攻撃する方法を。
「……本気か?」
「それしか他に方法はないと思うから」
「……分かった。援護はするが、気を付けろ」
「はい」
私はソフィアに合図し、敵の魔法使いに向けて魔力装甲を展開したまま突撃。
敵魔法使いは突然の私の動きに動揺したように見える。
「貴様、何を──」
「えい!」
魔力を凝集させて、それを刃の形状にする。
鋭い刃をイメージする。触れただけで斬り裂かれるような刃を。
そうだ。リウィアが向けてきたものをよりも、もっとずっと鋭い刃を!
私はそうイメージしたとき、私の手には燃えるように真っ赤な刃が握られていた。
その刃を私は敵の魔法使いに向けて振るう。
魔力装甲が真っ二つになり、その向こうにいた魔法使いもあっさりと引き裂かれる。
まるで熱したナイフでバターを切るみたいに滑らかに。
鮮血が舞い、ソフィアの展開している魔力装甲に血しぶきが僅かに散った。
「赤い魔力の刃だと……」
敵のい部隊長オドアケルが狼狽えるのが視界の端で見えた。
「隊長、こいつ詠唱していなかったぞ!」
「あれは与太話じゃなかったのか!?」
それから敵の魔法使いたちに動揺が広がっていく。
「落ち着けえ!」
そこでオドアケルが叫ぶ。
彼は動揺を一切消し、獰猛な笑みを浮かべて私たちの方を見た。
敵である私たちを恐怖させ、部下を安心させて鼓舞するようなそんな笑みだ。
「俺たちとしたことが油断していたな。どうやらただのガキじゃないらしい。──名乗れ、小娘」
オドアケルはそう言って私に問う。
「……応じる必要はない。放っておけ」
「お前には言ってない、年増。俺はそこの小娘に尋ねているんだ」
ソフィアが言うのにオドアケルは私の方だけを見て言った。
「お前の意志で殺したんだろう? お前の意志で名乗るか、名乗らないかは決めろ。保護者に頼るんじゃねえ」
オドアケルの言葉に私は僅かに動揺した。
私はずっといろいろな決断をソフィアに任せたままだった。
ずっと私自身の意志で殺してきたのに。
「……リンクス」
私は名乗った。
そうするべきだと思ったから。
「リンクス、か。いい名だ。俺はオドアケル。ヴォルフ傭兵隊の隊長だ」
オドアケルも改めて名乗り直す。
「それで、だ。リンクス、西部連合に付く気はないか? 西部連合は帝国よりも好待遇でお前たちを迎えるぞ。それに最終的に帝国が負けるのは、もう目に見えているだろう? 帝国にこの反乱は鎮圧できない」
オドアケルは私にそう提案してきた。
「お前たちは竜の紋章を背負っていない。ただの傭兵だ。勝つ方に、稼がせてくれる方に寝返るのが妥当ってところじゃないのか?」
「……今はまだ無理」
「今はまだ、か……」
ガイウス将軍は私の秘密を握っている。
彼のためにもう一度仕事をしなければ解放してもらえない。
だから、今はまだ西部連合に寝返るわけにはいかないのだ。
「分かった。なら──今は敵だな」
オドアケルの雰囲気ががらりと変わり、彼は再び魔力装甲をタワーシールドタワーのように展開する。
今の彼は陽気な親戚のおじさんの雰囲気から殺し屋のそれに変わっている。
「全員──」
そして、彼が命令を叫ぶ。
「──撤退!」
さあっとその掛け声で傭兵たちが逃げ散っていく。
「……え?」
「何だと……!?」
私はてっきり攻撃してくるものだと思っていたので、完全に呆気にとられていた。
ソフィアの方も敵の動きに動揺している。
「おいおい。俺たちは傭兵だぜ? 戦場での勝ち負けは関係ない。最後に金貨をたんまり握って生きてるやつが勝ちだ。ってことで、あばよ! もうお前に出くわさないことを祈るぜ、リンクス!」
オドアケルもそう言って颯爽と逃げ出した。
あまりに堂々としたその撤退に私たちは追撃することもできなかった。
「……まあ、傭兵が相手ではこういうことも起きるな」
ソフィアは逃げていったオドアケルたちを見てため息交じりにそう言う。
「私たちは敵魔法使いを撤退に追い込んだ。戦果としてはそれで十分だ。しかし……」
ソフィアが濃緑色の瞳で私をじっと見つめる。
「お前も自分の意志で決断することができるようになったな……。あの名乗りはなかなかに格好良かったぞ、リンクス」
「笑わないでよ、師匠」
どこか嬉しそうな顔をして笑うソフィアに私は渋い表情でそう返した。
「さあ、戻ろう、リンクス。暫くは襲撃はないだろう」
それから私たちは馬車に戻り、修復された馬車で再びティベリウス将軍の第2軍が包囲されかかっているマルティウムを目指した。
* * * *
それからマルティウムまでの道のりでは襲撃はなかった。
それはオドアケルたち傭兵が私の存在を吹聴して回ったかは分からないが、ソフィアは一種の牽制にはなったのではないかと考えている。
「お前は西部連合の正規魔法使いを破っている。そのことが広まったならば傭兵たちは迂闊に仕掛けてはこないだろう」
「師匠。正規魔法使いと傭兵の魔法使いってそんなに力量差があるの?」
ソフィアは傭兵だがガイウス将軍なんかよりもずっと魔法に長けていると思う。
確かに西部連合の白ローブたちは手強かったけど、傭兵とはそこまで違うのもなのだろうか?
「ああ。明確な力量差は存在する。傭兵は我流の魔法でもいいが、正規魔法使いは定められた学院で一定期間学び、そこで魔法に関するあらゆることを取得し、さらには研究発展させることが求められている」
ソフィアはそう語る。
「帝国中央ならば帝国魔法院の魔法学校。西部連合ならば西部魔法使い連盟の魔法学校。そこに所属し、学び、研究してきたものが正規魔法使いだ。ピンキリの傭兵とは違って、均一の力量をしている。だからこそ、手強い」
「ソフィアの魔法も我流なの?」
「……私の師は確かに帝国魔法院に所属していたし、私も一時期そこにいた。だが、理由があってそこを離れた。最後まで学んではいない。だから、私の魔法は我流だ」
ソフィアはあまり自分の身の上を語ろうとしない。
なぜ右足を悪くしているのかも、どうして魔法学校を辞めなければいけなかったのも、どういう理由で傭兵をやっているのかも教えてくれていない。
でも、いつかは教えてくれると私は信じている。
ソフィアに後ろめたいことなんてないはずだから。
ソフィアはきっといつか私に全て教えてくれる。
そのためにも今は生きなければ。
「そろそろマルティウムだな」
ソフィアがそう言ったときラッパの音が響いた。
敵野戦軍の存在を知らせるラッパだ。
「そして、敵が待ち構えていたか。行くぞ、リンクス。仕事の時間だ」
「了解」
そして、私たちの仕事が始まる。
傭兵の仕事だ。
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