TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──解囲//新人魔法使い
「状況は極めて厳しいです」
ガイウス将軍は司令部の天幕で私たちに告げる。
「ティベリウス将軍の第2軍は完全に包囲されており、疲弊しきっています。その包囲を続けながらも我々に野戦を挑めるほどに敵の戦力は潤沢です」
ガイウス将軍は魔法使いを使って包囲されている第2軍と連絡を取っていた。
第2軍は武具は少なく、食料は尽き、強力な敵の包囲を受けて全滅寸前だとガイウス将軍に報告したそうだ。
ガイウス将軍指揮下の第3軍が到着したことで敵は野戦に応じる構えを見せているが、包囲の方は続いている。
敵は包囲を続けながら、同時に私たちを迎撃できるほどに余力があるということ。
「ですが、第2軍の解囲は続行します。第2軍と敵を挟み撃ちにできればよかったのですが、それができないとしても彼らを救出しなければなりません」
「策はあるのか?」
ソフィアがガイウス将軍に尋ねる。
「不幸中の幸い、敵魔法使いは攻城戦で疲弊しているようです。こちらが魔法戦で勝利できれば勝ち目はあります」
「魔法戦で勝利できればということは、また私たち任せか?」
「いえいえ。こちらの正規魔法使いも展開しますよ。共同で西部連合の魔法使いを撃破してください」
ソフィアのうんざりとしたような言葉に、ガイウス将軍が目を細めて笑い、そう返したのだった。
「こちらの魔法使いで戦えるのは?」
「あなた方を含めて8名。敵の魔法使いもほぼ同数だという偵察報告を受けています。数で負けることは今回はないでしょう」
「ありがたいことだ」
私たちが数で優っていたことはほとんどない。
私たちは常に数で敵に劣り、技量でひっくり返すことを余儀なくされた。
だが、今回は事情が違うらしい。
とは言えど、敵とトントンというだけで優勢なわけじゃないが。
「では、まずは敵魔法使いの排除をお願いします。そののち我が軍は敵野戦軍との決戦に臨みますので。ともに勝利を祝いましょう」
ガイウス将軍はそう述べ、私たちを戦場に送り出した。
* * * *
私とソフィアが戦場に向かおうとしていたときだ。
「あの……!」
背後から遠慮がちに声がかけられ、私たちは背後を振り返る。
そこにはガイウス将軍と同じ帝国の正規魔法使いのローブをまとった女性がいた。
年齢は20代になるかならないかというぐらいで、とても若い。
癖のある黒髪をショートボブにしており、瞳の色は青く、背丈はソフィアより頭ひとつ小さい程度で女性としては平均ほど。
そんな童顔の女性が私たちの方をじっと見つめている。
「どうした?」
「今回作戦を共にする帝国正規魔法使いのコルネリアっていいます。作戦前に一度お会いしておきたくて、挨拶に来ました」
「ああ。よろしく」
ソフィアはそんな彼女に軽くそう返し、別れようとするが──。
「あ、あの! 西部連合の二つ名付きを倒したというのは本当ですか……?」
コルネリアと名乗った女性がそういうのにソフィアは少し険しい表情を浮かべた。
そして、私の方に僅かに視線を向ける。
どうする? と私に尋ねるようにして。
「……二つ名付き、というのはリウィアのことですか?」
「そうです! 青き刃のリウィア、帝国軍にとっての災厄だった二つ名付きです!」
私がその名を口にするのに興奮した様子でコルネリアは語る。
「反乱初期に投入された帝国軍の正規魔法使いはほとんどがリウィアに斬り殺されたと聞きます。魔法使いにもかかわらず相手を斬り殺す野蛮な蛮族。あいつを討って名を上げようと思って、ここには来たのですが……」
そう言ってコルネリアは少し俯くと上目遣いに私たちを見た。
「あなた方が倒したと聞いたのです。とんでもなく強い魔法使いの──傭兵がいて、西部連合を打ち破っていると。ガイウス将軍のアンヴィルの奇跡にも貢献しているとも!」
そしてまた僅かに興奮した様子でそう語るコルネリア。
「本当だとしたら、あなた方は私たちが知る中で最強の魔法使いです! ……本当なんですよね……?」
ここまで来てやはり疑問なのかそう心配そうに彼女は尋ねる。
「……リウィアは死んでいないとガイウス将軍から聞きました。だから、私たちはリウィアを倒していません」
「では、殺さずに退けたんですか?」
「そうなりますね……。艦隊に迫っていたところを阻止はしたのですが……」
そう私が返すとコルネリアはがっかりするだろうと思った。
彼女もルフスやリウィアのように個人的な恨みを持ち、それを晴らしたかどうかを知りたかったと思ったのだ。
「凄い、凄いです! 討ち取れなかったのは確かに残念ですが、それでも艦隊を襲おうとしていた二つ名付きを退けたんですから! お名前を教えてはくれませんか!?」
しかし、コルネリアの反応は全然違った。
彼女は贔屓の野球チームが勝ったという試合結果を聞いたかのように興奮。
私は困惑してソフィアの方を見る。
「私はソフィア。こっちはリンクスだ。それから、お前はこれが初陣か?」
「そ、そうですけど……」
ソフィアが少し脅すような雰囲気を出していうのにコルネリアが戸惑う。
「なら、言っておく。戦場にロマンなんて求めるな。二つ名なんてのは、ただの偶然かプロパガンダでつくものだ。それは実力を保証してなどいないし、まして倒したからと言って劇的に戦局が変わるわけでもない……」
ソフィアはそう言ってコルネリアの肩にそっと手を置く。
「け、けど、私もいずれは二つ名がつくような戦果を挙げて……」
「これからともに戦うならば覚えておけ。傭兵であろうと正規魔法使いであろうと最後まで生きていた人間こそが勝ちだ。死ねば二つ名があろうがなかろうが、意味がない。せいぜい酒場で話のタネになるかならないか程度の差だ」
「そうなんですか……?」
「実際に戦った魔法使いと後世まで名が残った魔法使いの数の差。それを考えれば理解できるだろう」
これまで無数の魔法使いたちが戦場で戦ってきた。
私たちはその多くを殺したが、彼らのほとんどのことを知らない。
それが全てを物語っているだろう……。
「……でも後世まで名が残った魔法使いもいますよね? 単騎で万の蛮族を退けた奇跡のアレクシオスとか! 私はそういう魔法使いにずっと憧れてて、それで……!」
「……それがお前の理想であるならば私たちは何も言わない。憧れるのは自由だ」
コルネリアが必死にそう語るのに、ソフィアは物憂げに目を伏せた。
彼女と過ごしてきた私には分かる。
ソフィアはこういう若者が戦場に迷い込むのを嫌うということが。
「ソフィアさん、あなたは否定するかもしれませんが、あなた方も私の憧れです。いつかおふたりには二つ名が付くでしょうし、私も二つ名を獲得して見せます。追いつけ、追い越せですよ!」
「……好きにしろ」
コルネリアがそう宣言するのにソフィアは彼女を否定しはしなかった。
ただ決して肯定もしなかった。
「それでは、これからの共同作戦楽しみにしています!」
コルネリアはそう言って笑顔で手を振って立ち去った。
「……二つ名か……。命を賭してまで手に入れたいものなのだろうか……」
ソフィアはそれから私の方を見る。
「リンクス。名を知られるのはそれだけリスクになるということは覚えておけ。私たちは少しばかり名が知られすぎてきているのかもしれない……」
「はい、師匠」
私には二つ名はいらない。
ただソフィアのためになれるならば、なんでもいいのだ。
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