TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──解囲//戦場の入り口
それからの戦いは、そう難しいものではなかった。
西部連合は魔法使い部隊を喪失したことで航空優勢と火力の両方を失った。
そうなればあとはこちらのやりたい放題である。
帝国の魔法使いたちが魔力の矢を地上に降り注がせ、地上部隊を撃破していく。
圧倒的な魔法使いによる支援の中で、ガイウス将軍は堅実に敵を追い詰めていき、西部連合の野戦軍は総崩れとなった。
西部連合はティベリウス将軍の第2軍が囚われていたマルティウムの包囲も解き、攻城戦を行っていた部隊も撤退させた。
私たちは無事に当初の目的だった第2軍救援に成功したのだ。
私たちが出した損害は僅かなもので、ガイウス将軍を乗せた軍馬が帝国兵を引き連れてマルティウムに入場した。
マルティウムでは第2軍の将兵が私たちを出迎え、歓声が響いている。
そして、それとは対照的にマルティウムの市民はどこか敵意のある視線を私たちに向けていた。
後に聞いた話だが彼らはティベリウス将軍によって人間の盾にされたり、食料を略奪されるなどして死傷者を出していたそうだ。
第2軍にとっては解放軍であるガイウス将軍も、マルティウムの市民にとっては新しい抑圧者にすぎないのだろう。
「ティベリウス将軍、助けに来ましたよ」
「ガイウス……」
私たちはガイウス将軍とともにマルティウム市庁舎を司令部にしていたティベリウス将軍に面会した。
ティベリウス将軍はガイウスより年上の男性であり、白髪交じりの黒髪を伸ばし、髭も暫く剃っていないのかもじゃっとしている。
顔には疲労の色が濃く見えるが、それ以上にガイウス将軍への敵意──というほどではないものの彼に対する嫌悪のような表情があった。
「いやはや苦労されましたね、ティベリウス将軍。ですが、もう大丈夫です。第3軍が第2軍を安全なアンドロポリスまで送り届けましょう。そこで軍を再編成なされるとよろしいかと」
「……ああ、そうだな……」
ティベリウス将軍は救出されたというのに不満げな様子を隠そうともしていない。
彼はまるで助けなんていらなかったとでも言いたげな顔だ。
しかし、私たちが助けに来なければティベリウス将軍の第2軍は壊滅していただろう。
「……そちらには腕のいい傭兵がいるそうだな?」
そこでティベリウス将軍が僅かに視線をソフィアの方に向けてそう尋ねる。
「いるかもしれませんね。ですが、今回の勝因は帝国正規魔法使いの活躍にあります」
「その傭兵は西部連合の二つ名付きを撃破したと聞いたぞ。あの忌々しい青き刃のリウィアを殺したと」
「ただの噂でしょう。撃破された西部連合の二つ名付きは全て帝国正規魔法使いの手によって葬られておりますから。それに青き刃のリウィアはまだ生きていますよ」
「……今回我々を包囲していた部隊は傭兵だが、魔法使いは相当な手練れだったと部下の魔法使いが私に報告していた。それを退けたのも、帝国の正規魔法使いか?」
「でしょう。私も現場には出ていないので分かりかねますが」
ガイウスはティベリウス将軍に私とソフィアのことは伏せておくつもりのようだ。
のらりくらりとティベリウス将軍の追及を躱し、はぐらかしている。
ティベリウス将軍は不満そうに唸り、それからおもむろに立ち上がった。
「今回のことには感謝する。一応は、な」
そういうとティベリウス将軍は副官たちを引き連れて、市庁舎を出ていった。
それを見てガイウス将軍はやれやれというように肩を竦める。
「対立する派閥とは言えど、協力した方がいいと思うのですがね」
そう呟くように言ってからガイウス将軍は私たちの方を見る。
「それはそれとして、今回はご苦労様でした」
「……お前の言っていた仕事はこれで終わりか?」
「まだです。このくだらない戦争が終わらずとも、私自身は戦争から退去できるような勝利のために働いてもらいますよ」
「……ふん……」
ガイウス将軍には弱みを握られてしまっている。
無視すれば私が無詠唱で魔法を使っていると帝国中央に報告されてしまう。
そうなればあの山小屋での生活は戻ってこないだろう……。
「まあ、そんな顔をされないでくださいよ。あなた方にとっても名誉ある勝利となるはずです。帝国中央もけちけちせず報酬を弾むでしょう」
「もうその作戦を立案しているかのような口ぶりだな」
「ある程度は考えてあります。ですが、防諜上の問題で明かすことはできません」
ソフィアが訝しむのにガイウス将軍は目を糸のように細めてそう言う。
「……そうか。まともな作戦であることを願う」
「ええ、ええ。もちろんそうなりますよ」
ガイウスは将軍になっても偉そうではないが、それが逆に不気味であった。
慇懃無礼というのはガイウス将軍のような人のことを指すのだろうか。
「その前にティベリウス将軍に取られたりしないでくださいね」
ガイウス将軍はそう言い、私たちの下から軍馬で去った。
「……やつの言っていることをどこまで信用するか、だな……。……最悪の場合は西部連合に……」
ソフィアはそう小さな声で呟いていた。
私はそんなソフィアをじっと見つめる。
「心配するな、リンクス。私たちは傭兵だ。帝国が負けようと勝とうと私たちには関係がない。少しばかり報酬が減るだけだ」
ソフィアは私を安堵させるようにそう微笑むが、その笑みはどこか空虚だ。
現実問題、帝国側に事実が知れたらどうなるのだろうか?
西部連合に逃げたとしても逃げ切れるのか。
それに西部連合が私たちを異端として排除しないだろうか。
逃げた先に楽園があるとは限らない。
そのことはソフィアも理解しているのだと思う。
私たちはそれからマルティウムの街を進む。
暫く進んだところで、私たちは見覚えのある顔を見つけた。
コルネリアだ。彼女がげえげえと路地に吐いている。
「大丈夫か?」
ソフィアが見かねて声をかけるとコルネリアは死人のように青ざめた表情で私たちの方を見てきた。
「どうしたんだ?」
「ど、どうしたって……。見なかったんですか? あの死体の山を……」
「ああ。あれか……」
マルティウムの外には西部連合の野戦軍が出した夥しい数の犠牲者の死体がある。
そのほとんどが魔法によって殺された死体だ。
「うっぷっ……」
そこでまたコルネリアが吐く。
「あ、あんな死体の山が出るなんて話聞いてなかった……。それもほとんどは私たちが殺した死体で、その臭いが今も鼻に残ってて……」
「コルネリア。顔をこっちに向けろ」
「へ……?」
ソフィアはそういうと顔を向けたコルネリアの鼻の下に何かを塗った。
「わ! な、なんです、これ……?」
「濃い香油だ。そうしておけば死体の臭いを嗅がずに済む」
「あ、ありがとうございます。でも……」
コルネリアはもう吐くことはなったが、やはり顔は青白い。
「私、もっと戦争はもっと華やかなものだと思ってました……。ずっと読んできた英雄譚みたいに……。それなのにあんなにグロテスクな光景が広がるなんて……。来るんじゃなかった、こんな戦場……」
「そうか。だが、来てしまった以上は適応するしかない。ここはまだ戦場の入口だ」
そう、戦場にはもっとグロテスクな面があることを私たちは知っている。
私は身をもってしてそれを経験した。
「……そうですよね。すみません。お世話になりました」
コルネリアは憔悴しきった様子で、肩を落として立ち去った。
それを見てソフィアはじっと考え込んでいた。
「……リンクス、お前は平気なのか?」
そして、そう尋ねる。
「平気じゃないけど、師匠のために頑張るよ」
「……そうか」
私はソフィアを励まそうとめいいっぱいの笑顔でそう言ったのだが、ソフィアはより憂鬱そうにするだけであった。
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