TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う   作:第616特別情報大隊

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護衛//視界外射撃

……………………

 

 ──護衛//視界外射撃

 

 

 ティベリウス将軍の第2軍を護衛し、私たちはアンドロポリスに戻っていた。

 第2軍は武具を失い、兵士を多く失い、弱体化している。

 今、西部連合の野戦軍に捕捉されたらひとたまりもない。

 

 そのことは第2軍の将兵には理解できているし、彼らも第3軍に感謝しているのだが、その司令官であるティベリウス将軍にとっては忌々しいことらしい。

 彼はガイウス将軍に先任指揮官として第3軍の指揮権を寄越せと脅したそうだ。

 

「やれやれ。全く、やってられませんよ」

 

 というのも、ガイウス将軍が私たちを呼んでそう愚痴ったから知ったのだ。

 彼はティベリウス将軍の干渉に悩まされていると、そう語った。

 

「彼はアンドロポリスにおける軍政長官の地位まで要求してきました。図々しいにもほどがあるでしょう。あれは私たちがやっと得た戦果だというのに」

 

「それを私たちに愚痴って何か変わるのか?」

 

「私の気が晴れます。今のところ、こんな愚痴が言えるのはあなた方だけですから」

 

 ガイウス将軍がにやりと笑ってそういう。

 確かに私たちはガイウス将軍の秘密も守らなければならない立場だけど。

 

「冗談はそろそろやめろ。本当は私たちに何を求めている?」

 

「いえいえ。冗談などではありませんよ。私は本気で愚痴っているだけです」

 

 ソフィアが苛立った様子で尋ねるとガイウス将軍はそう返す。

 

「本題というならば、ティベリウス将軍がアンヴィルの撤退戦とアンドロポリス強襲作戦を成功させた傭兵を探しているそうです。その点に注意されてください。あの貪欲さからして、あなた方のことを知れば手を出してくるでしょう」

 

 そこでガイウス将軍がやや声を低くして警告する。

 ティベリウス将軍は未だに私たちについて探りを入れているらしい。

 探り当ててどうするつもりなのだろうか?

 私たちはすでに第3軍に雇われているのに。

 

「ティベリウス将軍は手段を選ばないところがあります。重々お気をつけて」

 

「……ああ」

 

 ガイウス将軍は念を押すようにそう警告し、私たちは彼の下を去った。

 

「リンクス。これが魔法使いのしがらみというやつだ。能力を示せば、それを己のために利用しようという人間が増える。……そうやってしがらみに絡めつけられていたら、いつか自分が何のために生きてるのかも分からなくなる……」

 

「師匠……」

 

 ソフィアはそれを経験したのだろうか。

 彼女の言葉には僅かにだが後悔の色があった。

 

「お前にはそんな人生は送ってほしくない。そんな意味のない人生は……」

 

 ソフィアはそう言い、馬車へと戻っていく。

 私はそのあとを彼女の歩幅に合わせてついていった。

 

 

 * * * *

 

 

 それから私たちがアンドロポリスを目指す中のことだ。

 私たちが馬車で休んでいたとき、野戦軍との接触を知らせるラッパが響いた。

 

「クソ。簡単に帰らせてはくれないか……」

 

 ソフィアが愚痴り、馬車の外に慎重に出る。

 敵野戦軍との接触を知らせるラッパは前方の騎兵が吹き鳴らしており、後方にまで伝わってきた。

 

「リンクス。上空に警戒するぞ。また先に敵の魔法使いが仕掛けてくるかもしれない」

 

「了解、師匠」

 

 私はソフィアに言われて上空を見張る。

 この前はオドアケルたち傭兵に先手を打たれた。

 今回は奇襲されないように警戒しなければ。

 

「魔法使いの攻撃だ! 気を付けろ!」

 

 そう叫ぶ声が上がり、青白い光が上空から飛来した。

 魔力の矢だ。かなり遠方から射撃しているのか私には敵魔法使いの姿は見えない。

 

「仕掛けてきたな……。いつも通りに対処するぞ」

 

「はい」

 

 ソフィアがまずは魔力装甲を展開し、それに守られながら私たちは上昇。

 同時にコルネリアたち帝国の魔法使いたちも上がってくるのが見えた。

 

「リンクスさん、ソフィアさん。敵の魔法使い、見えましたか?」

 

「いや。まだ見ていない。かなり遠方から撃ってきているらしい」

 

「そうですか。対処しないと、ですね……」

 

 コルネリアはそう言い、心配そうに周囲を見渡す。

 敵の姿がまだ見えないのが恐ろしくあった。

 敵はこちらの視界外から射撃している……?

 

「また来たぞ! どこから撃っている……!」

 

 魔力の矢がかなりの遠方から形状を維持したまま飛来し、帝国軍の隊列に的確に突っ込んできた。

 敵からはこちらが見えているのだろうか……?

 

「そうだ。使い魔だよ、師匠!」

 

「まさか……!」

 

 私たちが上空に目を向けると1匹のフクロウが帝国軍の隊列上空を旋回していた。

 明らかに不自然なその動きは、間違いなく使い魔だ。

 

「使い魔で観測しながら射撃しているというのか……! そんな離れ業を……!?」

 

 使い魔のコントロールは難しいとソフィアからは聞かされていた。

 自分と異なる生物の視野を共有するというのは、それだけで大仕事だ。

 ましてその視界を使用しながら射撃を行うと言うのは、望遠鏡で星空を観測しながら手元ではその星空を描く刺繍をするようなものだろう。

 

「使い魔を排除するぞ、リンクス。これ以上やらせるわけにはいかない」

 

「了解、師匠」

 

 私たちは上空を飛行するフクロウに狙いを定める。

 すると、それに気づいたようにフクロウは逃げるように旋回を止めて飛び去る。

 

「逃がすな」

 

 ソフィアの命令に私は従う。

 

「偉大なる精霊たちよ」

 

 魔力の矢を形成し、フクロウに向けて叩き込む。

 フクロウは翼をもがれ、墜落していく。

 これで私たちは敵の観測を妨害できたとそう考えた。

 しかし──。

 

「あ、あっちにも鳥が!」

 

 コルネリアが声を上げて見る先には鳥の群れがいた。

 10羽から20羽程度の小鳥の群れが、帝国軍の隊列の方に飛んできている。

 

「あれは野生のそれか……? いや、いちいち使い魔を相手にするのは無意味だな。主である魔法使いを叩いた方が早い」

 

 ソフィアはそう言い、自分の使い魔であるワタリガラスを放つ。

 放たれたワタリガラスは上空を高く飛び、先ほど魔力の矢が飛んできた方角を目指して飛行する。

 

「リンクス。使い魔を操作している間、防御を頼む」

 

「分かった。偉大なる精霊たちよ──」

 

 私はソフィアを守るために魔力装甲を展開。

 

『偉大なる精霊たちよ。私に獣の目を通じて世界を知りうるすべを与えたまえ』

 

 ソフィアはそう唱え、使い魔の視野を共有する。

 彼女はそうやって潜んでいる敵魔法使いを探った。

 

「……いた。気を付けろ。敵はまた魔力の矢を形成しつつある。攻撃が来るぞ……!」

 

 それからすぐに魔力の矢が向こうから飛来してきた。

 強力な魔力の矢は私の魔力装甲に向けて吸い込まれるように飛来し、魔力装甲に命中すると大きな波紋を生んだ。

 危うく貫かれるほどの威力だった。

 

「ここからでは狙えないな。我々は相手に近づく必要がある。リンクス、やるぞ」

 

「了解」

 

 私たちは魔力装甲を展開したまま、敵に向けて迫ることを決意。

 

「わ、私たちも続きます! 全部隊、続け!」

 

「りょ、了解!」

 

 コルネリアたちも動揺しながらも魔力装甲を広げて、私とソフィアたちに続く。

 私たちは中空を飛行し、相手の方を目指す。

 しかし、そう簡単には近づけまいと敵は魔力の矢を遠距離から、実に正確に叩き込んできた。

 魔力装甲に波紋とともに衝撃が走り、魔力が歪む音が響く。

 

「うわああああ────っ!」

 

 コルネリアの部下が狙撃を受けて、魔力装甲を貫かれ、撃破されてしまった。

 鮮血が飛び、味方の魔法使いが落ちていく。

 

「振り返るな、リンクス。上空に長居すると私たちもああなるぞ……! 今は1秒でも早く敵の下へ……!」

 

「分かっているよ、師匠!」

 

 ソフィアがそう言うのに私は振り返らず、ひたすら前に進む。

 前方からはいくつもの強力な魔力の矢が迫っていた。

 

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