TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──引き抜き//訓練教官
べリサリウスと名乗った男性は私たちをティベリウス将軍の第2軍に誘う。
「……残念だがそれには応じようがない。私たちは今さら雇い主を変える気はない」
「報酬はすでに契約している額の倍を出しましょう。それでもダメだと?」
「ああ。断る」
ソフィアはべリサリウスの誘いにそう断った。
今は私たちはガイウス将軍から離れられない。
彼の言うもうひとつの仕事をこなすまでは、私の秘密が報告されるかもしれないので、ガイウス将軍に従わなければならないのだ。
「……ティベリウス将軍は皇帝派閥内でも非常に有力な方です。それが意味するものはお分かりですね?」
「私たちが靡かなければ皇帝の不評を買うとでも?」
「いいえ。あなた方がティベリウス将軍の下で成果を残せば、帝国中央や皇帝陛下の覚えがめでたくなると言っているのです」
「同じことだろう」
ティベリウス将軍は皇帝派閥の有力な人間だとは、ガイウスも言っていた。
しかし、私たちにとっては皇帝も他の派閥も大して興味はない。
私たちは所詮は傭兵なのだから。
「そうですか。残念です」
意外にもべリサリウスはそれ以上続けず、説得を諦めたのか馬車から出ていった。
そして待たせていた軍馬に乗り、走り去っていったのだった。
「……リンクス。これからは身の回りに気を付けろ。ティベリウス将軍やべリサリウスがこれで素直に諦めたとは思えん。連中のようなやつらは、とんでもなく貪欲なところがある……」
「分かった、師匠」
私はソフィアの警告に頷いた。
しかし、私はこのとき相手がそこまでの強硬手段に出るとは思っていなかった。
* * * *
ティベリウス将軍の第2軍とそれを護衛するガイウス将軍の第3軍は何度か敵野戦軍と接触しながらも、ついにアンドロポリスに到着した。
そのアンドロポリスでは守備隊の帝国軍兵士が城門を開き、凱旋したガイウス将軍たちを手厚く迎えた。
「無事に到着したね」
「ああ。しかし、次はどう動くつもりか。第2軍の被害は少なくない。再編成にはまた時間がかかるだろう。西部連合がその間、何もしないとは思えん……」
帝国軍はこの戦争に勝てない。
それは最初から分かっていたことだけど、その敗北が来年か、それとも数週間後かで話は変わってくる。
そうソフィアは言っていた。
「数週間後に敗北が訪れるようならば、この戦争から逃げ出す必要がある。それこそ西部連合に寝返る必要もあるだろう。ガイウスが帝国中央に何を言おうと意味はなくなる。敗北した将軍の言葉など言い訳にしか聞こえないからな」
「負けるのが来年なら?」
「……もう少しの間、戦争に付き合う。やつのいう作戦と言うものに付き合う必要があるだろう」
私の問いにソフィアは憂鬱そうな瞳のままにそう答えた。
彼女は私を戦争に巻き込んでいると思っている。
だけど、そうじゃない。
私は自分の意志で戦ってきたし、自分の意志で殺してきた。
全てはソフィアに恩を返したいと言う私の意志だ。
「ソフィア殿、リンクス殿。ガイウス将軍がお呼びです」
と、ここでガイウス将軍の副官が私たちのいるアンドロポリス内の宿に姿を見せた。
彼はガイウス将軍が私たちを司令部である市庁舎に呼んでいると言い、それから私たちを送り届けると言った。
私たちは彼とともに市庁舎に向かう。
「ガイウス将軍、お連れしました」
「ご苦労様です」
司令部にはガイウス将軍の他にコルネリアたち帝国の魔法使いがいた。
しかし、第2軍の魔法使いはいない。
いるのは顔見知りの第3軍の魔法使いだけだ。
「さて、ソフィア、リンクス。あなた方にはコルネリアたち魔法使いを鍛えていただきたい。先の戦いでの彼女たちの活躍は、まあ、その、あまりいい結果ではなかったようですから……」
ガイウス将軍はコルネリアたちをそうオブラートに包んだ言葉で表現した。
敵に一方的にやられて惨敗したとは言わない辺り、彼にも優しいところがあるのかもしれない。
「魔法使いの補充は?」
「来ますよ。帝国本国からコルネリアたちと同様に魔法学校を卒業した
コルネリアも青き刃のリウィアが戦争初期に投入された帝国の正規魔法使いをほとんど撃破したって言っていたっけ。
「今ここにいるコルネリアたちは貴重な魔法使いです。そこで彼女たちをあなた方ほど戦えるとは言わずとも、それなりに戦えるように育ててほしいのです。ここ最近の戦闘を鑑みるに魔法使いの練度は勝敗に直結していますから」
ガイウス将軍からの求めはそういうものであった。
しかし、育てろと言われても私は魔法学校を出たわけでもない。
ソフィアなら役に立てると思うけど、私はいる意味はないように思える。
「帝国の魔法学校にはろくな教師がいないようだな。傭兵を頼らなければならないというとは。だが、それはこちらの商売のタネを明かせと言っているようなものだぞ」
「別に知られて困るようなものではないでしょう? それにこの仕事にはちゃんと報酬を払いますよ」
「……ふむ……」
ガイウス将軍の言葉にソフィアが考え込む。
「簡単な戦闘ならば教えられるだろう。だが、それだけだ」
「それで十分です。それではお願いします」
ソフィアは最終的にガイウス将軍の提案を受け入れた。
それから私たちはコルネリアたちとともに市庁舎を出て、街の外れにある墓地の方に向かう。
「コルネリア。お前を含めて第3軍の正規魔法使いは4名だな?」
「は、はい。それだけです……」
「分かった。では、まず2名1組になれ。私たちの戦い方を教える」
「了解です」
それからコルネリアは同じ女性の魔法使いと組み、もうふたりも2名1組となった。
「私たちの戦い方を見ていたから分かるだろうが、私たちは片方が防御に専念し、片方が攻撃に専念するというフォーメーションを組んでいる。お前たちも防御が特異な方が防御を、攻撃が特異な方が攻撃を担当するといい」
「……それだけですか?」
「あとは模擬戦を通じて教える。準備はいいか?」
「はい!」
それから私たちは上空に飛び立ち、模擬戦を始めた。
ソフィアが教えたようにコルネリアたち帝国の正規魔法使いは2名1組で防御と攻撃をそれぞれ担当した。
コルネリアは攻撃を担当しており、もうひとりの女性魔法使いが防御を担当。
「リンクス。殺さない程度の魔力の矢で突いてやれ。お前がいつも通りにやれば、コルネリアたちも多くを学び取るだろう」
「了解、師匠」
私はいつものようにまずは相手より高度を取る。
それから低空にいるコルネリアたちを威力を極限まで弱めた魔力の矢で攻撃。
「上昇するよ!」
「待って! 詠唱しないと!」
初めてこのフォーメーションを組むコルネリアたちはなかなか息が合わず、防御担当と攻撃担当が離れたり、近づきすぎて衝突したりと散々だ。
「師匠、降下する」
「ああ」
コルネリアたちが上昇してくると私は逆に急降下し、魔力の刃を形成した。
いきなり私が白兵戦を挑んでくるのにコルネリアたちは大混乱だ。
「ちゃんと防御して!」
「コルネリア! 急ぎ過ぎてる! 追いつけない!」
とまあ、フォーメーションはぼろぼろでコルネリアたちは全く戦えていなかった。
それから模擬戦は続き、コルネリアたちが完全に音を上げるまでソフィアは彼女らをしごいた。
「このような戦い方が私とリンクスの戦い方だ。憶えられそうか?」
「難しそうです……」
「ならば、慣れるしかないな。これ以上、私たちから教えられることはないだろう」
ソフィアはそう苦笑し、よれよれに疲れたコルネリアたちを見たのだった。
これから数日の間は、私たちはコルネリアたちが戦い方を習熟するのを助けることになりそうだ。
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