TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う   作:第616特別情報大隊

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引き抜き//誘拐

……………………

 

 ──引き抜き//誘拐

 

 

 コルネリアたちへの訓練は続いた。

 コルネリアたちは徐々に防御担当、攻撃担当というフォーメーションに慣れて行き、連携して飛行や攻撃、そして回避ができるようになっていった。

 

「上達したな」

 

 まだソフィアと私には敵わないけれど、それなりに上達したコルネリアたちをソフィアがそう誉める。

 

「まだまだですよ。本当に実戦で同じ動きができるかどうか不安です……」

 

 攻撃担当、防御担当を分けた戦い方は効率はいいが、フォーメーションが乱れると攻撃担当は無防備な状態になる。

 その瞬間を敵は見逃さないだろう。

 フォーメーションの乱れは文字通りの命取りになる。

 

「では、訓練に励むしかないな。汗を流せば血を流さずに済む」

 

「そうですね……」

 

 私たちは毎日くたくたになるまで訓練を行っている。

 それでもまだ7日間だ。7日間で全てを学び取るのは難しいかもしれない。

 私とソフィアのコンビネーションが上手く行っているのは、私がソフィアの弟子であることと詠唱を必要としないと言う点もあるので。

 

「けど、今日のところは訓練は終わりにしましょう。暗くなりますし」

 

 アンドロポリスから見える夕日はすでに海面に接しており、空はオレンジ色に染まっていた。

 あとちょっとで真っ暗になるだろう。

 

「今日は一緒に呑みに行きませんか? いいお店を見つけたんですよ!」

 

「ふむ。別にいいが……」

 

 ソフィアはコルネリアの提案に私の方を向いた。

 私は子供なのでお酒は飲めない。それでどうする? という意味があったのだろう。

 

「私も食事だけでも楽しむよ、師匠」

 

「分かった。では、そうしよう」

 

 そういうわけで私たちはコルネリアたちがおすすめするお店に向かう。

 日没が訪れれば労働は終わり、アンドロポリスでも労働者たちが飲みにやってくる。

 帝国軍占領下にあっても市民の生活はあまり変わらない様子で、食堂や酒場が並ぶ通りには大勢の人がいた。

 

「はぐれないようにな、リンクス」

 

 ソフィアは人混みの中でそう言い、私はソフィアの背中を追う。

 私たちは通りを進み、そして目的の店に到着した。

 

「ここですよ、ここ。お酒の品ぞろえがいいんです」

 

 コルネリアはそう言っていい雰囲気のお店の扉を潜った。

 オリーブオイルの香ばしい香りが店内には漂っており、席にはお客さんが大勢いる。

 

「いらっしゃい!」

 

 若い女性給仕が景気よく私たちを出迎える。

 

「6名さんだね。こちらのお席へどうぞ!」

 

 それから私たちはテーブル席に案内された。

 私はソフィアの隣に座り、コルネリアはその私の向かいに座った。

 

「しかし、これまで普通に見てましたけどソフィアさんたちってあんなに高度な戦闘を平然とやってたんですね……。本当に驚きました……」

 

 私たちがそれぞれ注文を済ませ、コルネリアが最初のその1杯も届かないうちから喋り始める。

 

「ソフィアさんはともかくリンクスさんは若いのに動きがベテランだよね」

 

「そうそう。どこかの魔法学校を出たって年齢でもないし」

 

 コルネリア以外の魔法使いたちがわいわいと私のことを評する。

 

「師匠がよかったんですよ。私自身は全然」

 

 私は少しだけ得意になったが、これもソフィアのおかげだと改めてそう思った。

 ソフィアは私に生きる術と戦う術を教えてくれた恩人だ。

 その恩に私はまだ何も返せていない。

 

「リンクス。お前自身の才能でもある。そう卑下するな」

 

 そんな私にソフィアは優しくそう言い、温かい手で頭を撫でてくれた。

 

「注文の品だよ!」

 

 それから女性給仕が最初の1杯を運んできた。

 ソフィアはワイン、コルネリアは蒸留酒らしき強い匂いのするお酒、私はワインを蜂蜜と水で薄めたもの。

 

「それでは帝国の勝利を願って、乾杯!」

 

「乾杯」

 

 コルネリアが乾杯の音頭を取って、私たちは(さかずき)を重ねる。

 それから私たちは楽しく食事を始めた。

 オリーブオイルとニンニクで味付けされた魚介類や肉がメインで、料理が運ばれて来るたびに鼻腔を香ばしい香りがくすぐる。

 

「──で、ですね! その子ってば魔法陣を逆さまに書いていて、そのせいで先生に水をぶっかけちゃったんですよ! もう先生はかんかんで『退学させるぞ!』って脅し始めちゃって!」

 

「あった、あった! そんなことあったね!」

 

 どうやらコルネリアたちは同学年だったらしく、魔法学校の思い出話でとても盛り上がっている。

 話を聞いている私としても面白い話だった。

 私はコルネリアたちの話を通じて、見たことのない帝国の魔法学校での生活に思いを馳せた。

 

「……けど、その先生は止めたんだよね。私たちが戦場に行くって言ったの」

 

 魔法使いのひとりがそう呟くように言い、テーブルに静寂が訪れた。

 

「……そうだったね。思えば優しい人だったのかな……」

 

「従軍したことがあるって言っていたから、知ってたんだよ。戦場を。戦場がこんなものだってことを……」

 

 コルネリアたちは誰もが戦場にロマンを抱いていた。

 しかし、現実の戦場は血と汚物、悪意と憎悪に満ちた場所だ。

 そのことをコルネリアたちは知った。戦場に来てしまったことで。

 

「し、辛気臭くなっちゃったね。飲みなおそう!」

 

 コルネリアはそう言い、再び別の酒を注文する。

 彼女はなかなかの酒豪なのか、結構な量を飲んでいるはずなのに平然としていた。

 顔が赤くなった様子もなく、本当に平然としている。

 

「師匠」

 

「どうした、リンクス?」

 

「……トイレ行ってくる」

 

 私の方は尿意を催していた。

 微量とはいえアルコール分が入っている飲み物を飲んでいたためだろう。

 アルコールの利尿作用を受けたようだ。

 

「分かった。送って行こうか?」

 

「トイレぐらいひとりで行けるよ」

 

 私は心配するソフィアにそう言い、椅子を立つと一度店を出た。

 トイレは店の中にはなく、下水の流れいる場所にまとまって作られている。

 店からは30メートル程度の距離だ。

 

 私はトイレに到着し、尿意を解消してから外に出た。

 そのときだ。

 後頭部を殴られたかのような衝撃が走り、目の中で火花が散ったような間隔を覚えると私の目の前が真っ暗になった……。

 

 

 * * * *

 

 

 私が次に意識を取り戻したとき、私は身動きが取れなかった。

 手と足を縄で縛られている上に誰かに担がれていると気付いたときには、男の声が聞こえてきた。

 

「連れてきたか?」

 

「はい、べリサリウス殿。誰にも見られておりません」

 

 べリサリウス! ティベリウス将軍の副官であり魔法使いだ。

 

「よし、そこの部屋に放り込んでおけ。猿轡は外すな。詠唱されると不味い」

 

「了解」

 

 それから私はかび臭い部屋の中に運ばれた。

 場所が地下なのかじめじめとしており、虫の這い回る微かな音が聞こえてくる。

 

「……目は覚めているようだな、リンクス」

 

 私が視線を上げるとべリサリウスが私を見下ろしていた。

 

「すぐにティベリウス将軍とお前の師匠がやってくる。それまではじっとしていろ。逃げようなどとは思うな。大人しくしていれば誰も傷つかずに済む」

 

 べリサリウスはそう言って立ち去り、見張りの男だけが残った。

 私を誘拐してソフィアを呼ぶ? 人質にしてソフィアに言うことを聞かせようというつもりなのだろうか?

 そこまでしてティベリウス将軍は私たちを手に入れたかったのか?

 

 私に詠唱は必要ないので、見張りの男を殺し、縄を切ることもできる。

 だが、そうすればがっちりと猿轡がはめられているため詠唱しなかったと分かるだろう。

 べリサリウスが近くにいるのにそれは不味い。

 

 今は私はソフィアの到着を待つことにした。

 ごめん、ソフィア。また迷惑をかけて……とそう思いながら。

 

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