TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──海賊行為//海の魔法使い
私たちは目的のアンタキア号へと迫る。
アンタキア号とその付近の2隻の船の上で人が騒いでいるのが見えた。
「気づかれたか。素早く片付けるぞ」
「分かった」
それからすぐにアンタキア号以外の2隻の船に備えられたバリスタが私たちに狙いを定めて、巨大な矢を放ってくる。
「みんな! 訓練したとおりにやるよ!」
「了解! 『偉大なる精霊たちよ。我らを悪意ある敵の手から守る力を──』」
コルネリアたち帝国の魔法使いは防御担当の魔法使いと攻撃担当の魔法使いに分かれ、敵の攻撃を前に果敢に挑んだ。
バリスタの攻撃をコルネリアたちはちゃんと受け止めており、問題はなさそう。
「私たちもやるぞ、リンクス」
「了解、師匠」
私とソフィアもコルネリアたちの後方から船団に迫る。
2隻の船は武装しているが、アンタキア号には武装は見えない。
そして、バリスタ程度ならば私たちの敵にはならない。
「敵のバリスタを狙って!」
「分かった! 『偉大なる精霊たちよ──』」
コルネリアは僚友に防御を任せ、彼女は攻撃に専念。
バリスタが魔力の矢で貫かれて破壊されてゆく。
このままならば簡単に制圧できるかもしれないと私は考えた。
だが、そこまで状況は甘くなかった。
「あれは……! 西部連合の白ローブ……!」
そう、アンタキア号の甲板に白いローブをはためかせた男性がいた。
若く日に焼けた肌をした男性で、その人物は私たちのいる場所からでも分かるほどの獰猛な笑みを浮かべている。
「おやおや! 栄えある帝国軍が海賊の真似事か! 随分と卑しくなったものだ!」
男性はそのように笑い、真っ白なローブをばさっと海風に靡かせる。
その威風堂々たる様子に私も威圧された。
「西部連合の正規魔法使い!?」
「嘘でしょ!?」
コルネリアたちにも動揺が走るのが分かった。
彼女たちが西部連合の正規魔法使いと戦ったら勝ち目はほとんどないだろう。
この状況は不味い……。
「私は海神の矛デメトリオス! お相手いたそう、海賊ども!」
それからデメトリオスと名乗った魔法使いは、魔力の矢を形成しなかった。
彼が操ったのは魔力ではなく──海水だ。
「うわっ!」
高速で射出された海水がコルネリアの部下の魔力装甲を貫き、破壊し、その向こうにいる魔法使いを屠った。
海水に撃ち抜かれた魔法使いが苦悶の表情を浮かべて海上に落下していく。
ウォーターカッターと同じ仕組みだが、まさかここまでのことをやってくるなんて。
「さあさあ、かかってこい、海賊ども! 遠慮はいらぬぞ! 全員そろって魚の餌にして差し上げよう!」
デメトリオスは次々に海水の矢を浮かべて、コルネリアたちを狙う。
コルネリアたちは奮闘しているが、押され気味だ。
「師匠、不味いよ。コルネリアたちが壊滅する」
「……分かっている。こちらも動くぞ、リンクス」
ソフィアは魔力装甲の展開に専念し、私は攻撃を狙ってアンタキア号に迫る。
「コルネリア。下がれ。私たちが応戦する」
『すみません。お願いします!』
ソフィアがコルネリアたちでは相手は難しいと考え、彼女たちを下がらせた。
コルネリアたちは魔力装甲を展開しながら私たちの後ろの下がる。
彼女たちを追撃しようとするようにデメトリオスが海水の矢を放つが、防御に専念した彼女たちは無事に離脱。
「選手交代かね? よろしい!」
私たちが前に出るのにデメトリオスはにやりと楽しそうに笑い、今度は私たちに向けて海水の矢を放ってくる。
「クソ。質量攻撃が威力が高い……!」
ウォーターカッターと言う運動エネルギー攻撃はソフィアの魔力装甲でも、受け止めるのはぎりぎりだ。
何度も撃ち込まれたら耐えきれないかもしれない。
その前に仕留めなければ。
「偉大なる精霊たちよ」
私は偽りの詠唱ののちに魔力の矢をデメトリオスに向けて放つ。
「何っ……!?」
デメトリオスは短い詠唱だが威力のある私の攻撃に一瞬たじろいたが、流石は西部連合の正規魔法使いだ。
すぐに魔力装甲を展開し、私の攻撃を受け止める。
「素晴らしい! ただのならず者ではないようだな、そこの魔法使い! 相手にとって不足なし! さあ、楽しく殺し合おう! 『偉大なる精霊たちよ! 願い奉る! 繰り返し願い奉る! 我らが敵を津波のごとく押し流す力を──』」
デメトリオスはそう詠唱すると海面が揺れた。
まるで津波でも起きたかのようにアンタキア号を含めた3隻の船が揺れ、海水がずずずずうっと大きな波のように持ち上がる。
「気を付けろ、リンクス! やつの狙いは……!」
ソフィアに言われずとも分かった。
デメトリオスの狙いは大規模な質量攻撃だ……!
大量の海水を使った質量攻撃!
「これぞ海神の矛! しかと御照覧あれ!」
それからまるで巨大な蛇のようにうねる水流が加速して私たちに迫る。
「リンクス! まともに受けたら耐えられん! 回避するぞ!」
「了解、師匠!」
私たちはデメトリオスの操る海水の蛇から逃げるために回避運動。
上空に向けて飛翔するが、デメトリオスの攻撃は追尾してくる。
それも凄まじい速度で。
「逃げきれないか……!」
「師匠。魔力装甲を下に向けて全開にして。私が迎え撃つ」
「……任せるぞ」
ソフィアは魔力装甲を海水の蛇が迫る下部に向けて展開し、私は狙いをその向こうにある蛇の頭に定めた。
海水の蛇が私たちに追いつこうとする中──。
「えいっ」
私は爆轟魔法を放った。
炎が生じ、それが海水の蛇の頭を叩き潰すように広がる。
衝撃波が蛇の頭を完全に粉砕。
高熱の炎が海水を蒸発させながら、海水の蛇は勢いを急速に失ってゆく。
「くうっ……! これは……流石に……!」
しかし、至近距離で爆轟魔法を使ったのでソフィアの負担が大きかった。
彼女の額に汗が滲み、その綺麗な顔が苦痛に歪む。
「大丈夫、師匠!?」
「大丈夫だ。このまま敵の魔法使いを排除するぞ」
「了解」
私たちは降下することで加速し、敵の魔法使いデメトリオスに迫る。
「まさか、まさか! あの攻撃を防ぐとは! しかも、その魔法は噂に聞くアンドロポリスの災厄ではないか! あの恐ろしい魔法使いに出くわすとは!」
デメトリオスは私たちのことを知っているようだった。
「話をしないか、アンドロポリスの災厄よ? お前のような強者に私はとても興味があるのだ!」
「……あなたもあの場にいたの?」
「いたとも! とはいえ、戦ってはいないがね。艦隊で待機していた。そこをお前に奇襲されたのだよ。私の乗っていた船は壊れ、海面を船の破片にしがみついて漂流。救助されたと思ったら、撤退開始だ」
さらにと彼は続ける。
「私の船はあの青き刃のリウィアを救助した。あの彼女が君のことを悪夢のように語っていたのを覚えている。銀髪の悪魔が彼女を倒したのだと。そう、詠唱を必要としない恐ろしい魔法使いがいたと!」
デメトリオスはそう言って愉快そうに笑う。
「帝国中央でその才能は発揮できない。魔法官たちが、くだらない政治に興じる老人たちがそれを許さないだろう。だが、西部連合ならば話は違う。西部連合は君たちを喜んで迎えよう!」
デメトリオスの話も結局のところは勧誘だった。
西部連合は私たちを受け入れる──。
そう言ってくれたのは彼でふたり目だ。
「これ以上話に付き合う必要はない、リンクス。排除しろ」
しかし、今の私たちにはその勧誘に応じられない。
ガイウス将軍の言う仕事が終わっていないのだ。
私は首を横に振って魔力の矢を形成する。
「そうか。それは残念だ。では!」
それに対してデメトリオスはそう言うと無造作にローブを脱ぎ捨てた。
何をと思ったときには彼は海に飛び込み、そのまま姿を消してしまった。
「……逃げた?」
「……そのようだ。敵に逃げられたのは想定外だが、そもそもガイウスの情報は間違っていたんだ。文句を言われる筋合いはない」
ソフィアはそう言い、私たちはアンタキア号の制圧を開始した。
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