TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う   作:第616特別情報大隊

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ロンディウス強襲//トロイの木馬

……………………

 

 ──ロンディウス強襲//トロイの木馬

 

 

 魔法派閥の存在を明かしたガイウス将軍。

 それに対してソフィアは眉を歪める。

 

「ふむ。大層な野心だが、魔法使いが魔法使いとして団結する派閥など聞いたことがない。魔法使いで地位を得たものは結局は元老院、軍部、皇帝のいずれかの派閥に所属する。そうだろう?」

 

 ソフィアはそう指摘する。

 

「これまではそうでした。しかし、見てください。魔法使いを取り巻く現状を」

 

 ガイウス将軍は愚痴のように語る。

 

「クイントゥス将軍は魔法使いの勝利を自分の勝利にすり替え続けた。帝国中央も魔法使いを全く顧みず、私が今の地位を得たのも魔法使いとして優れているからではなく、アンヴィル撤退戦を成功させたからです」

 

 クイントゥス将軍は確かに酷かった。

 魔法使いの活躍で勝利できたのを自分の戦術のおかげだと言い張り、最終的にはそれに驕ったせいで死んだ。

 

「前線に魔法使いが必要だと言うのに送られてくるのは魔法学校を卒業したばかりの新兵ばかり。才能ある若者がそれを発揮できずに戦場で死んでいく。許せますか?」

 

「お前がそういうことを気にする男だったとは驚きだ」

 

「ええ、ええ。私は腹黒く、薄情に見えるかもしれません。ですが、魔法使いの未来を考えています。これからも我々が便利な道具として使われるだけなのか、それとも力ある我々こそが力なきものたちを使役するのか」

 

 そう語るガイウス将軍はもう笑っておらず、見たこともない真剣な表情をしていた。

 彼は冗談でも皮肉でもなく、本気で言っているのだ。

 

「……随分と壮大な野望だな」

 

「あなた方は興味はありませんか? 魔法使いが権力を握る世界には」

 

「ないな。私はその手の権力闘争にはもううんざりしている……」

 

 ガイウス将軍が勧誘するように言うが、ソフィアは首を横に振った。

 

「リンクス。あなたはどうですか? 魔法使いの時代が来れば、あなたはその指導者のひとりになれるかもしれない。それだけの実力があるならば、次は権力を手に入れるべきですよ」

 

「……私もそういうのには興味はない」

 

 私は権力を持ってもその使い方が分からないだろう。

 前世を含めて今までそんな権力を持ったことは一度もないのだ。

 それに私が望むのはソフィアに必要とされることであって、魔法使いの指導者になることじゃない。

 

「そうですか。残念ですが、無理に引き入れはしませんよ」

 

 ガイウス将軍はそう言う。

 

「あなた方に依頼する最後の仕事を明日説明します。それが終われば自由にされてください。報酬はたっぷり出ますよ」

 

「分かった。では、また明日」

 

「ええ」

 

 

 * * * *

 

 

 そして、翌日のこと。

 

 私たちはガイウス将軍の副官に呼び出されて、司令部となっている市庁舎に向かう。

 司令部となっている市庁舎にはすでにガイウス将軍はもちろんコルネリアたち魔法使いもいた。

 

「さて、皆さん。いよいよ我々は西部連合に対する強力な一撃を放ちます」

 

 ガイウス将軍がそう告げると部屋の中が静寂に包まれた。

 

「作戦目標はロンディウス。そう、敵の首都です。我々はそこを魔法使いのみで奇襲し、壊滅的な打撃を与えます」

 

 その言葉に一度は静まった部屋がまたがやがやと騒がしくなり始めた。

 私も動揺していた。

 首都ロンディウスは遠い目標だったはずだ。

 それに間違いなく警備が厳重だろう敵の首都を魔法使いだけで襲撃?

 本気で言っているのだろうか……?

 

「静かに、静かに。私も貴重な魔法使いを無意味に死なせるつもりはありません。ちゃんと作戦を立ててあります」

 

 手を叩いて場を静まらせてからガイウス将軍は語り始める。

 

「先に鹵獲したアンタキア号。あれを利用するのです。あの船に帝国海軍の将兵と魔法使いを乗り込ませ、ロンディウスに乗り込みます。一度懐に入ってしまえば、敵の首都の守りがどれだけ素晴らしかろうが意味がありません」

 

 おまけにとガイウス将軍は続ける。

 

「ティベリウス将軍の第2軍が敵の野戦軍主力を誘引してくれています。西部連合はロンディウスが襲撃されるとは思ってもいません。今において他に機会はないのです」

 

 ガイウス将軍の作戦はこういうことだった。

 鹵獲したアンタキア号の本来の航路を知る船長はそのままに、帝国海軍の将兵と魔法使いに中身を入れ替える。

 それから西部連合の旗を掲げてアンタキア号の本来の航路に沿って進み、敵の警戒ラインを突破してロンディウスに入港。

 あとは魔法使いを解き放ってロンディウスの港湾施設や政治中枢を攻撃し、西部連合に打撃を与える。

 

「作戦は私が現場で指揮します。撤退の際には帝国海軍の艦船または付近に潜伏させている騎兵を使って離脱します。あなた方だけをロンディウスにぶつけて、私が後方で呑気にしているということはないのでご安心を」

 

 明らかに作戦内容に驚愕し、動揺しているコルネリアたちに向けてガイウス将軍は微笑んで見せる。

 

「質問は?」

 

 そうガイウス将軍が尋ねるとコルネリアがおずおずと手を上げた。

 

「あの、閣下。もし、現地で墜落して捕虜になったりしたら……」

 

「私が責任を持って解放させます。身代金だって払います。安心してください」

 

「は、はい」

 

 コルネリアの懸念はもっともだった。

 彼女が言ったように場所は敵地のど真ん中だ。

 そんな場所で捕虜になったりしたら、私たちはどうなるのだろうか。

 ガイウス将軍は身代金を払うと言ったが、そもそも生かしておいてもらえるのか?

 

「他に質問がなければ作戦を開始します。全員、アンタキア号に乗り込んでください」

 

 ガイウス将軍はそう言い、私たちを司令部から移動させようとする。

 コルネリアたちは少し躊躇ったのちに、渋々と言う具合に出ていったが、私とソフィアはまだこの場に残った。

 

「……これが最後の仕事でいいのだな?」

 

「ええ。ロンディウスを叩けば、帝国中央に私も戻れます。帝国中央では西部連合に手痛い打撃を与えた名将として地位も約束される。私はその地位で魔法使いの団結を推進していくつもりです」

 

 ソフィアが静かにそう尋ね、ガイウス将軍は頷いた。

 そして彼はじっと私たちの方を見る。

 

「あなた方も中央に来ませんか? 私の部下として」

 

「そして、戦場でまたこき使うのか?」

 

「いいえ、いいえ。ソフィア、あなたには優れた観察眼があり、頭が回る。そういう人物がぜひとも副官に欲しいのです。それからリンクス、あなたの才能は今は隠さねばなりませんが魔法使いが団結すればその必要もなくなりますよ?」

 

 ガイウス将軍はソフィアと私のふたりを再びそう勧誘する。

 

「私は帝国中央での地位に興味はない。……リンクス、お前はどうする?」

 

 そのときのソフィアの表情は、私が離れていっても大丈夫だぞと安心させようとするようなあいまいな笑みだった。

 だが、その笑みの中には私を引き留めるような、そんな後悔の色もあった。

 

「私はずっと師匠と一緒にいたい」

 

「……そうか」

 

 ソフィアはそう言って僅かに息を吐いた。

 安堵のそれのように感じられる小さな息だ。

 

「残念です。ですが、約束した通り、この仕事が終わればあなた方は解放します。ただこのあとすぐに西部連合に付くのはやめてくださいね。戦場に残るティベリウス将軍が哀れになってしまいますので」

 

 ガイウス将軍は冗談のようにそう笑い、私たちを連れて市庁舎を出る。

 目指すは港に停泊中のアンタキア号だ。

 敵首都奇襲作戦が始まる。

 

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