TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──虜囚//政治家
私がソフィアへの面会を許可されたのは、目覚めから5日後だった。
私は4名の憲兵に護送され、ソフィアの病室に向かう。
「……リンクス。無事だったか……」
ソフィアは清潔な白いシーツのベッドに横たわっていた。
しかし、左肩に包帯を巻き、三角巾で腕を吊った姿は痛々しい。
それでもソフィアは私に向けて笑顔を向ける。
「師匠、大丈夫?」
「私は大丈夫だ。魔力の破片がいくつか当たっただけに過ぎない。お前は?」
「私は少し気を失っていただけ。全然平気だよ」
そう言って私はソフィアのベッド脇にある椅子に座った。
「ねえ、師匠。これから私たちはどうなるの……?」
「……分からない。西部連合と帝国が講和した以上もはやどちらにも傭兵は必要ないが、西部連合は無詠唱のことを知っている。そうである以上、みすみす解放してくれるかどうか……」
「でも、師匠だけなら解放されるかも……」
「リンクス。私はお前をおいてどこかに行ったりはしない」
私がそう言うのにソフィアは右手で私の髪を撫でてくれた。
温かい手が私を安心させるようにそっと頭を撫でる。
「ガイウス将軍は捕虜になった場合は解放するように尽力すると約束してくれてはいたが、どこまで当てにしていいのかは分からない。何せ捕虜になったのは私とお前だけのようだからな。コルネリアたちは無事に逃げたようだ」
ソフィアはそう言い窓の方を見る。
この病室の窓からは病院の中庭にある木々が見えるだけで、ロンディウスの街の様子は分からない。
私の部屋も同様で、廊下を通る際にも憲兵たちは私が街の方を見ないように見張っていた。
なので、街の様子は分からない。
この病院がロンディウスのどの辺りにあるのかも、街の被害がどの程度なのかも全く分からないままだ。
「今は待とう。それ以上に今の私たちにできることはない」
「了解、師匠」
それから私たちは病院で自分たちの運命がどうなるのかを待つことにした。
ソフィアが言うようにそれ以上に私たちにできることはなかったから。
* * * *
捕虜となってから2週間が過ぎた。
私の体調にもう異常は見られず、ソフィアの傷もほぼ回復し、今はふたりともリハビリを行っていた。
西部連合は捕虜である私たちに対しても実に丁重であり、食事も立派なものが出されている。
白くて柔らかいパンにチーズ。そして、肉か魚の料理。最後に薄めたワイン。
それが毎食ちゃんと出される。
未だにソフィアと同室にはしてもらえないが、1日1回は憲兵の監視付きながら面会も許されていた。
そんなときだった。
彼が私の病室を訪れてきたのは。
「やあ、リンクス君。初めまして。私はアンドレアスと言う」
リウィアを引きつれて、そう名乗ったのは初老の男性。
白髪交じりの黒髪にブラウンの瞳をして、痩身長躯の身体にはゆったりとしたトーブのような白い服を身に付けていた。
彼はその堀の深い顔立ちににこにこと笑みを浮かべて私のベッドに歩み寄ってくる。
「……魔法使いじゃないね」
これまでお見舞いに来てくれたのはリウィアとオドアケル、そして彼の傭兵隊の隊員たちだけで、魔法使いばかりだった。
だけど、アンドレアスと名乗った男性は魔法使いのローブを身に付けていない。
「ああ。私は魔法使いではない。政治家だ」
アンドレアスはそう言って微笑む。
「君は政治家を相手にするのは初めてかな?」
「……似たような人種は相手にしたことがある」
ガイウス将軍はある意味では政治家だっただろう。
彼は自分の派閥の利益のために物事を調整し──他人を利用していた。
それが私の知る政治家と言う人種。
「それならば理解できるだろう。政治家という生き物は自らの利益となる派閥のために行動するのだと。そのために他人を利用するのだと」
「そんな政治家が私に何の用事?」
アンドレアスに訪問を受ける理由が私には思いつかなかった。
私たちは捕虜であり、西部連合の政治家がわざわざ会いに来るような立場ではない。
だが、もしかしたら捕虜解放の話だろうかと思って、私は少しだけ希望を持った。
「単刀直入に言おう。このまま西部連合の正規魔法使いになるつもりはないかね?」
本当に単刀直入な申し入れであった。
私が西部連合の正規魔法使いに……?
「君の魔法は我流だが、十分に第一線で通じるものだと君は示した。なので西部連合の魔法学校へ入学し、そこで魔法をさらに学んでほしい。学費が西部連合が負担する。そして正規魔法使いとなった暁には、戦闘の有無にかかわらず傭兵として稼ぐ金より遥かに高額の報酬を約束しよう」
アンドレアスの提案はそういうものであった。
普通ならば魅力的な誘いに見えるだろう。
だが、彼は政治家だと名乗っている。
そして、ガイウス将軍も言っていた。
政治家とは相手にどれだけ貸しを作るかが重要だと。
「そうやってあなたに大きな借りを作った場合、私は自由じゃなくなる」
「どの道、今の君は捕虜だ。自由ではない」
「……そうだけどあなたの要求を呑めば、ソフィアといられなくなるかもしれない」
私にとっての自由とはソフィアとともにいることだ。
それが私が求める唯一の自由な事柄。
「ソフィア。君の師匠か。彼女も我流のようだが、我々の正規魔法使いを相手に獅子奮迅の活躍を見せたと聞いている。しかし、確かに魔法学校に入学できる年齢ではないので、ともにいることは難しいだろう」
「なら、断る。申し出は受けない」
「まあ、待ちたまえ。生徒として魔法学校に入学させることはできないが、教師としてならば迎え入れる準備はある。彼女が望むのであれば、我々は彼女を魔法学校の教師として彼女を雇おう」
私が即答するのにアンドレアスはそう提案してきた。
彼の言葉に私は想像する。
私が生徒として、ソフィアが教師として魔法学校に通う様子を。
コルネリアたちの会話を聞いて思い浮かべていた学校の賑やかな雰囲気の中に私とソフィアがいる様子を。
それは居心地がいいようにも感じられた。
「……ソフィアが何というか分からないから答えられない」
しかし、ソフィアは受け入れないかもしれない。
彼女にとってはまさに西部連合というしがらみに絡みつかれることなのだ。
彼女はもう誰かに利用され、そのために生き続けることは嫌だと言っていた。
私もこの戦争を通じてそれを薄っすらと理解したつもりだ。
「では、ソフィア君の方にも聞いておこう。色よい返事がもらえることを祈るよ」
アンドレアスはそう言って立ち去り、リウィアだけが残った。
「……リンクス。お前の無詠唱魔法の事実が帝国中央に知られれば、ろくな扱いは受けないぞ。西部連合に残った方がいい。ここの政治家が善良だとは私は決して言わないが、帝国中央の連中よりは遥かにマシだ」
「……分かってるよ」
ガイウス将軍は帝国中央に知られれば、解剖される可能性があるとすら言っていた。
それならば魔法学校に通わせてくれる西部連合の方が遥かにマシだろう。
「お前の決めることだ。私はこれ以上どうこう言わない。だが、あまり師匠に頼るな。自分で決めることができないと、愛する人の負担になるだけだぞ」
「……うん」
リウィアの言うように私は何もかもソフィアに決めてもらおうとしているのかも。
それはソフィアにとって負担になっているのだろうか?
それならば私は自分で決断することももっと覚えないといけない。
ソフィアに与えられてばかりでは自分が許せないのだから。
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