TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
……………………
──虜囚//決断
アンドレアスの提案。
私たちに西部連合の正規魔法使いにならないかと言う提案。
そのために私は魔法学校に生徒として、ソフィアは教師として迎え入れると言う。
私はどうするか決めなければならない。
西部連合の正規魔法使いになるか、ならないかは私も決断すべきことだから。
1日1回のソフィアへの面会の際に、私は彼女がどうするのかを確認することにした。
「師匠。アンドレアスからの提案は聞いた?」
私は今は包帯も取れ、やや不自由な左手のリハビリを続けるソフィアに尋ねる。
「……ああ。聞いた。魅力的な提案のようにも聞こえたが……」
ソフィアはそう言葉を濁らせる。
彼女も理解しているのだろう。
提案の内容は魅力的だが、そうであるだけアンドレアスに大きな借りを作ることになるということを。
それは私たちを縛り付ける鎖になるかもしれない。
ガイウス将軍が何度も私たちを利用したような鎖に。
「私は……彼の申し出を受けたいと思う」
私はソフィアにそう言った。
確かにアンドレアスに借りを作り、それは私たちから自由を奪うかもしれない。
だけれど、帝国に戻ってもそれは同じだし、そもそも捕虜の立場では自由はない。
少しでも自由を得るには、アンドレアスの申し出を受けるしかないのだ。
「今のままなのは嫌なんだ。ソフィアと離れ離れにされているのは……」
私の理由はこれが全てだった。
「……そうか。お前はそう決めたのか……」
ソフィアはじっと考え込むように視線を伏せ、それから小さく笑みを浮かべて私の方を見る。
「それならばそれを尊重しよう。私もアンドレアスの申し出を受ける。教師として魔法学校に赴こう。お前と一緒に魔法学校にいこうじゃないか」
「師匠……」
ソフィアが優しく微笑んでそう言ってくれるのに、私も笑顔を浮かべた。
「ありがとう……」
これからもソフィアと一緒にいられる。
私たちは戦争と言うものを乗り越えたんだ。
そう思うと私の目から僅かに涙が流れてきた。
どれだけ戦場で悲惨な死を見ても、どれだけ戦場で憎悪を向けられても涙なんて流さなかったのに。
私はとても自己中心的な人間なのかもしれない。
「泣くな、リンクス。泣く必要はない。私もお前と一緒にいたい。お前がそう望んでくれている限り……」
ソフィアはそんな私の涙を拭って、そう言ってくれた。
彼女はそれから私の手を握り、ぽんぽんと私の頭を撫でる。
私はそんな彼女の優しさに、また少し涙を流した。
* * * *
私たちは自分たちの決断をアンドレアスに伝えた。
「素晴らしい。よくぞ決断してくださいました」
アンドレアスは満面の笑みで私たちの答えを受け取る。
「それでは手続きを進めておきます。西部連合の市民権を得るための手続きと、魔法学校への入校の手続きです。事前に申し上げましたようにリンクスさんの学費は我々が受け持ちますし、生活費も不自由しないように出しましょう」
「それは助かるが、私も本当に教師として雇ってくれるのか?」
「ええ、ええ。研究でも教育でも好きなことをなされてください」
「そうか」
ソフィアはアンドレアスの言葉に僅かに目を細めて頷いた。
「では、改めてようこそ西部連合へ。我々はあなた方を歓迎します」
そう言ってアンドレアスは一度私たちが収容されている病院から去った。
「さて、今回は私はお前のおまけだな、リンクス。やつらが本当に欲しいのはお前だ。私はお前を懐柔するための駒であり、首輪と言ったところか……」
ソフィアはアンドレアスが去ってからそう呟くように言う。
「それでも私には師匠が必要だよ。私の隣に師匠がいないなんて考えられない……」
「……リンクス。ああ、私はいきなりお前の前からいなくなったりはしない。だから、安心するんだ」
ソフィアは真っ暗で泥まみれだった私の人生に光を与えてくれた神様そのもので、私はソフィアがいない人生なんて考えられなかった。
それに私はまだ何もソフィアに返せていない。
光を与えてくれた神様から与えられ続けているだけだ。
もっとソフィアを笑顔にしたい。
もっとソフィアに幸せを与えたい。
もっとソフィアのためになることをしたい。
しかし、戦争が終わった今になっては私の出来ることは限られる。
だから、可能性を切り開くためにも魔法学校で知識を得るんだ。
その知識で正規魔法使いになったら、ソフィアのためにできることをしてあげたい。
私に何ができるかはまださっぱり分からないけれど、きっと何か可能性があるはず。
私は私の可能性を信じる。
ソフィアがスラムの孤児だった私を信じてくれたように。
* * * *
それから退院まではまだ暫くかかった。
その間、リウィアとオドアケルは思い出したようにお見舞いに来てくれていた。
「へえ。正規魔法使いにスカウトか。そいつは大したもんじゃないか!」
ちょうど見舞いに来たオドアケルはそう言って豪快にがははっと笑い、ばんばんと私の肩を叩いた。
「俺たちも西部連合に雇われ続けるつもりだ。帝国中央は金払いが悪いしな。今は西部連合内の帝国に通じている連中を始末する仕事の契約が結ばれそうだ」
「帝国中央はそんなに酷いの?」
「お前、自分たちを雇っていた雇い主だろう? 給料の割りにいろいろやらされたんじゃないのか?」
「……そうだね。確かにいろいろやらされた」
私は初陣がソフィアと私だけの要塞の攻略戦だったことをオドアケルに語る。
彼はその話を聞いて目を点にしたのに、呆れたように笑った。
「そんな扱いされてたのに帝国に雇われ続けてたのか? そいつは流石の俺も呆れるぜ。ははは!」
「やっぱり傭兵としてもおかしかったんだね」
「ああ。おかしいとも。そのクイントゥス将軍ってやつ、中央に凱旋したのか?」
「死んだよ。アンヴィルの撤退戦で」
「それは何よりだな。将軍が無能じゃあ、いくら魔法使いが優秀でもしょうがない」
確かに彼の言う通りだ。
クイントゥス将軍が戦死せず、彼の指揮下にいたままでは私たちはそう長くは生きられなかっただろう。
「しかし、ロンディウスを奇襲するって決めた将軍は優秀だったな。見事にこの都市は奇襲された。西部連合はマジでこの勝ち戦に負けると焦っていた。大したもんだよ」
「……ガイウス将軍って言うんだけど、彼がどうなったか知らない?」
「聞いてないな。何か分かったら教えてやろうか?」
「うん。でも、何かのついででいいから」
「ああ。分かった。俺としてもこれだけの作戦をやり遂げたやつには興味がある」
オドアケルはそう言い、私の病室から出ていった。
ガイウス将軍……。
私たちを利用した将軍は彼の願い通りに帝国中央に凱旋できたのだろうか?
彼は捕虜になったら私たちを解放してくれると言っていたけれど、結局私たちは解放されなかった。
凱旋したにせよ、しなかったにせよ彼は私たちを見捨てたのだろう。
しかし、そのおかげで私たちは西部連合で新しいスタートが切れる。
今はそう考えておくことにした。
……………………
これにて第1章完結です。
次章準備のために1週間ほどお休みをいただきます。
面白いと思っていただけたら評価やブクマ、よろしくお願いいたします。