TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──新生活//魔法学校
私たちが病院から退院したのは、アンドレアスの手続きが終わってからだった。
日数にして2カ月ほど私たちは病院で過ごした。
「ソフィア君、リンクス君。手続きの方が終わったよ。新居の準備もできた」
アンドレアスはそう言い、彼自ら私たちを新居に案内してくれた。
私とソフィアの新居はこの広大で人口が密集したロンディウスにおいて、丘の方にあるやや人気の少ない静かな場所だった。
その家はロンディウスの多くの建物がそうであるように白亜の作りで、燦燦と降り注ぐ太陽の光に輝いている。
小さいながら庭までついていて、本当に立派な家だ。
「どうです? いい家だろう。魔法学校にも近い位置にあるよ」
「魔法学校の場所は……」
「あそこだね。ここから見えるよ」
アンドレアスがそう言って指さす先には、私が前世の記憶から想像した学校とは異なるものがあった。
私たちの自宅がある丘から僅かに下った場所。
そこにまるで西洋の城や修道院のような建物であった。
他の建物同様に白い壁に太陽光を反射しており、きらきらとしている。
「西部魔法使い連盟の本部を兼ねた建物だ。あとで連盟長に挨拶に行こう。彼女もあなた方に興味を持っていたから」
「……つまり、魔法学校側には私たちの事情を明かしているのか?」
アンドレアスがそう言うのにソフィアがやや表情を険しくしてそう尋ねた。
「ええ。あなた方がアンドロポリスの災厄であることも、リンクス君が無詠唱で魔法を使えることも全て伝えてある。こういうのは隠そうとしても漏れるものだからね。ならば、最初から知らせておいた方がいい。だろう?」
私たちはこのロンディウスに決して友好的な存在としてやってきたわけではない。
私たちは敵対者としてこの都市を攻撃した。
私は港を吹き飛ばしたし、迎撃に上がってきた西部連合の魔法使いたちを相手にも暴れている。
そんな私たちのことを知っているのだとしたら……。
……彼らは友好的に私たちを迎え入れてくれるのだろうか?
「心配する必要はないよ。学校にはリウィア隊長もいる。彼女があなた方と打ち解けているのを見れば、他もそれに倣うことだろう。いつまでもお互いを憎しみ合ったところで意味はなく、金貨も生まれないのだから」
そう軽く笑ってアンドレアスはそう言ったが、私としては心配は消えない。
改めて思うが私は大勢の命を奪った
リウィアのように皆が私を許してくれるとは限らないだろう……。
「リンクス。心配はするな。私も学校にはいる。何かあれば頼れ」
「……はい、師匠」
私はまたソフィアの重荷になっているような気がして、少し落ち込んだ。
だが、今は落ち込んでいるだけではダメだ。
ソフィアのためにもっと魔法を会得すると決めたのだから。
「ところで、学校にはどれくらい通えばいいんですか?」
私はそうアンドレアスに尋ねる。
「いつまででも。あなたが学校で得たいものを得たと思うまで通えばいいんだよ」
「え……? その、正規魔法使いになるには何かカリキュラムがあるんじゃ……」
「あるにはあるがね。リンクス君、あなたはすでに正規魔法使いに匹敵する実力を持っているのだ。魔法学校に通うのは見聞を広げると同時に、一種の箔をつけるようなもの。未だにあなたの才能を認めない人間がいないわけではないのでね」
アンドレアスは私の問いに困ったような顔をしてそう言った。
「ただの傭兵を何の過程も経ずに正規魔法使いにするのは、西部連合の魔法使いたちのプライドが許さない、と。そういうわけだな」
「ええ。彼らにも矜持はある。幼いものでは4、5歳から魔法学校に通い、長ければ数十年かけて地位を築いてきたのだから。彼らのことも理解してあげてほしい」
ソフィアがどこか呆れたように指摘するのに、アンドレアスはそう返す。
確かに私はこれまで見てきた西部連合の正規魔法使いより経験が浅く、まだ若い。
ソフィアは以前、正規魔法使いの価値は、一定の教育を確実に受けていることにあると言っていた。
そういう意味では私は正規魔法使いとしてまだ受け入れられないのかもしれない。
「それでは学校の方に向かおう。連盟長を待たせているから」
それから私たちはアンドレアスとともに馬車で学校へと移動する。
要人用の4頭立ての馬車が通りをがたごとと揺れて進むのに、私の目にロンディウスの港が映った。
港はすでに機能を取り戻しているようで、破壊された桟橋も倉庫も元通りだ。
改めて私は西部連合の国力に驚かされた。
そんな驚きを胸で感じる中、私たちを乗せた馬車は魔法学校に近づいた。
周囲には生徒を相手にしているのか、文房具屋さんや書店がある。
それからゆっくりと馬車が速度を落とし、魔法学校の正門で停車した。
正門前では西部連合の正規魔法使いであることを示す、白いローブの壮年男性。
ローブには魔法使いであることを示す五芒星の他に交差したペンとカギの紋章が入っている。
同じ紋章が学校の正門にもあるところから見て学校関係者だ。
出迎えなのだろうか?
「アンドレアス議員閣下。ようこそ、魔法学校へ」
「やあ、カリクレス教諭。出迎えありがとう」
アンドレアスはその男性をカリクレスと呼んだ。
「……そちらが例の?」
「そうだ。紹介しよう、彼はカリクレス。この学校の教諭のひとりだ。彼の教え子は西部連合に大勢いる」
カリクレスという男性はどこか疑いの眼差しで私たちを見て尋ね、アンドレアスはそう私たちにカリクレスを紹介した。
「君たちについてはいろいろと噂は聞いている。そちらの少女がリンクス?」
「はい。よろしくお願いします」
「あ。ああ。よろしく。……まさか君のような少女がね……」
何か含みのあるような口調でカリクレスはそう呟き、私たちを連れて学校内に入る。
学校中には紺色のローブを羽織った少年少女たちがいた。
彼らは私の前世で過ごした学校の生徒のように教室の前で談笑したり、次の教室に急いでいるのか廊下を走ったりしている。
外装は違うが、中身は私が思い描いていた通りの魔法の学校だ。
賑やかで、明るくて、楽しそうで、ちょっと退屈しそうな場所。
「どうだね? 溶け込めそうかね?」
アンドレアスが私の横に来て笑いながらそう尋ねる。
「……努力はするつもりです」
今はまだ分からない。
私が彼らに溶け込む意志があっても、向こうにはないかもしれないから。
私は彼らの家族を奪っているかもしれないのだ。
リウィアからルフスを奪ったように。
「リンクス。大丈夫だ。お前ならばきっと……」
ソフィアはそう言ってくれ、私の手を握る。
「それにお前にも同年代の友達がいた方がいいだろう。この学校で普通の人生というものを味わってくれ。それが私の願いだ」
「了解、師匠」
ソフィアをこれ以上心配させるわけにはいかない。
私は何としても学校に馴染もうと決意した。
もしかすると家族を殺したと罵倒され、排斥されるかもしれない。
それでもソフィアの願ったことを叶えたい。
「連盟長はこちらでお待ちです、議員閣下」
「ありがとう、カリクレス教諭」
それから私たちは西部連合魔法使い連盟の長に会うことに。
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