TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──新生活//校内
ぎいっと音を立てて開かれる両開きの扉。
その扉の先に西部連合魔法使い連盟の長がいた。
「おやおや、アンドレアス議員。あなた自らが連れてきたのですか?」
連盟長はアンドレアスと同年代だろう初老の女性であり、品がよく人好きする老婦人という雰囲気であった。
その白いローブにはカリクレスと同様にペンとカギの紋章だ。
「ええ。イレーネ連盟長、こちらが噂のソフィア君とリンクス君だ」
アンドレアスはイレーネと呼んだ女性に親しげに笑いかけ、私たちを紹介する。
「まあ、可愛らしい子たちね。ようこそ、西部連合魔法使い連盟へ」
イレーネはそう言い、私たちに右手を差し出して握手を求める。
皺だらけの手が丁重に私たちの手を包む。
「話は聞いているわ。アンドロポリスの災厄、銀髪の悪魔、そして無詠唱の魔法使い」
イレーネは優しげな笑みでそういう。
「それほど優れた魔法使いを学校に迎えいれられるのは光栄ですよ」
意外なほど敵意はなかった。
アンドレアスは政治家だから私たちを利用すべく愛想がいいのだと思っていた。
だが、イレーネは政治家ではないのに、私たちに友好的だ。
一度はロンディウスを襲撃した私たちに好意的なのは、少し怖いぐらいだった。
「さて、まずはリンクスさんの今後について話しましょう」
私たちはそれからソファーに座るように促され、赤いベルベットのソファーに私とソフィアは腰を下ろす。
それから高そうなマホガニーのテーブルを挟んで向かいのソファーに、イレーネとアンドレアスが座った。
「リンクスさんは魔法学校には全く通っていないと聞きましたが、読み書きや計算はできると聞いています。ですので、高等課程に必須となる初等・中等課程は修了したことにしておきましょう」
私はソフィアに教えられたことと前世の知識で読み書きと計算はできる。
今さら小学生からやり直す必要はないと言うことだろう。
「ですので、リンクスさんは高等課程に編入となります。またリンクスさんはアンドレアス議員からの推薦を受けていますので、単位等の取得は必須ではありません。あなたが学びたい、研究したいと思ったものを自由に選んでください」
「学校側としてはそれでいいのか?」
「ええ。正直、あのリウィアさんを倒した魔法使いに何かを教えることのできる教師は限られるでしょう。むしろ、こちらが教えを請いたいぐらいですよ」
ソフィアが怪訝そうに尋ねるのにイレーネは少し苦笑した様子でそう返す。
確かに学校と言えば単位の取得やテストなどがあるはずだが、それらが必要ではないというのは生徒してかなり楽をできる感じだ。
「次はソフィアさんの待遇ですが、本校の特別講師として迎え入れます。教育者として講義をしてもいいですし、研究に専念しても構いません」
「……私の魔法は我流だ。教えると生徒に悪い影響が出るだろう……」
「そうですか? それにしては綺麗な魔力装甲を展開していたとリウィアさんやデメトリオスさんは言っていましたが」
イレーネにそう指摘され、ソフィアは少し黙り込む。
「あなたの過去について詮索するつもりはないのですが、あなたは帝国魔法院に所属されていたのでは?」
「……短い間だ」
絞り出したような声でそう答えるソフィア。
「なら、あなたにも教える権利はありますよ。心配なさらず」
イレーネにそう言われてもソフィアは不安そうだった。
私は今まで彼女の実力を疑ったことなどないし、彼女から多くを教えられてきた。
だが、我流を自称するソフィアは個人的な弟子である私以外に物事を教えることに戸惑いを感じているようだ。
「では、分かった。給料分、仕事はしよう」
最終的にソフィアはそう受け入れた。
「これで決まりですね。カリクレス教諭、リンクスさんとソフィアさんに学校の設備を説明したあとで講師室に案内してちょうだい」
「はい、連盟長」
それから私たちはイレーネの部屋を出て、学校の中を進む。
「こちらから見て右側にあるのは全て講堂です。リンクスさんが講義を受けられる際には、指定された講堂の講義室に向かわれてください」
そう言ってカリクレスが指さす先には、噴水のある公園を回ってぐるりとコの字に広がる3階建ての大きな建物。
あそこが私たちの学び舎らしい。
清潔感があって、とても綺麗で、少しだけわくわくした。
「左手にあるのが研究棟です。ソフィアさんはあちらに講師室を準備しています」
講堂とは左右対称にコの字を描くのが研究棟。
こちらも綺麗な建物だ。
「食堂と購買はこの廊下をずっと進んだ先の右手にありますので、ご自由に利用されてください。食堂は1階が生徒用、2階が教員用です」
「ああ。分かった。説明は以上か?」
「ですね。あとはソフィアさんを講師室にご案内しましょう」
カリクレスはそう言って私たちを左手の研究棟の方に案内する。
研究棟の階段を上り、2階の廊下の突き当りに入るとそこがソフィアに準備された部屋であった。
カリクレスが扉を開くと、がらんとした空間が広がっている。
木製の床にはうっすらと埃が積もり、部屋の中は薄暗く、小さなテーブルと椅子以外何も存在しない。
「こちらがこの部屋のカギです。何分、長らく使われていなかった部屋ですので、いろいろと必要なものもあるでしょう。その際には私に申しつけください。手配します」
「いろいろと助かった、カリクレス」
ソフィアはカリクレスから部屋のカギを受け取って彼にそう礼を述べる。
「それからリンクスさんとソフィアさんの生徒用と教員用のローブは現在手配中です。その他の必要なものは購買にてご購入をお願いします。何がご質問は?」
「大丈夫だ」
「そうですか。しかし……」
カリクレスは何事かを言おうとして、ソフィアと私の方を見た。
「……あなた方は注目されている存在です。学校の中でも外でも。その一挙一動に人々は反応するでしょう。ですので、何事にも十分注意されてください。誰もがあなた方を受け入れているわけではありませんので」
「……そうしよう。忠告に感謝する」
「いえ。私としては良くも悪くも戦争を終わらせてくれた方々です。恨みはありません。戦争に参加していた教え子も無事に帰ってきましたしね」
カリクレスはそう小さく笑い、私たちをがらんとした部屋に残して立ち去った。
「どうやら気楽な学校生活とはいかなそうだな、リンクス」
「そうだね。けど、少しだけわくわくしている」
綺麗な学校で、ここには同年代の生徒たちがいる。
私はここで何を学べるだろうかと考える。
そしてソフィアのためになれることを学びたいと強く思っていた。
「そうか。学校が楽しみなのはいいことだ。私としても嬉しいよ」
ソフィアは本当に嬉しそうに私を抱きしめてくれた。
こんなにも嬉しそうにしているソフィアは、少なくとも戦争の間には一度も見れなかった。
彼女が笑顔でいてくれれば、私も嬉しい。
こうして私たちの学校での生活が始まることになったのだ。
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