TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──新生活//新居
それから私たちはカリクレスに言われたように購買で必要なものを購入することに。
ノートと筆ペン、それから魔法陣を書くための定規やコンパス。
それからそれを入れる学校指定の鞄だ。
「何だか学校に来たって感じがするね」
「そうだな……」
私が並ぶ文房具を眺めて呟くのに、ソフィアは満足そうに頷いた。
「……ここがお前が本来いるべき場所なのかもしれない」
ソフィアはそう言うが、私がいるべき場所はいつだってソフィアの隣だ。
私はソフィアが隣にいれば戦場でも、学校でも構いはしなかった。
それから私たちはアンドレアスから渡されたカギを手に自宅を目指す。
そう、私たちの新しい家を目指した。
家の扉を開いて中に入るとソフィアに割り当てられた講師室と同様に、そこはがらんとした空間が広がっていた。
玄関からリビング、ダイニングまで通じる石張りの床にはうっすらと埃。
リビングには空っぽの暖炉があり、ダイニングには『流石に何もないのは申し訳ないから』と言う感じで置かれた安っぽい椅子と机。
2階は寝室になっていて窓からは海が見えるが、肝心のベッドはない。
「いろいろと揃えなければ生活できないな」
ソフィアはため息交じりにそう言い、私たちは生活に必要な品を買うことに。
「師匠。お金は?」
「ある。これまでの傭兵としての稼ぎと、それからアンドレアスからの援助金だ」
「帝国軍はちゃんとお金を払っていたんだ」
「いや。最後の仕事の報酬は払われていない。いつか取り立ててやらないとな」
私たちはロンディウスで捕虜となったせいで、帝国軍の最後の仕事の報酬は支払われずに終わっていた。
あれだけの作戦だ。
成功させて帰還していたら結構なお金が手に入ったりしたのだろうか?
「まずはベッドだな……」
ソフィアはそう言って市場の方に進んでいく。
さて、あとで私が知ったことになるがロンディウスにはいくつかの市場がある。
海沿いの港のそばにひとつ。
これは漁で獲れた魚介類を扱っている市場。
強烈な生臭さがする場所だそうだ。
港から少し行った倉庫街のそばにひとつ。
これは諸外国との取引で手に入った交易品を売り買いする市場。
私たちには特に縁はなさそうな場所である。
それから城門の付近にひとつ。
ここではロンディウスの外で育った家畜や作物が取引される。
ここでは牧場の臭いがするとか。
最後に都市中央の広場を中心にひとつ。
ここは焼き立てパンや美味しいチーズ、あるいは布などを扱っている場所だ。
私たちが目指したのはここだ。
都市中央の市場の近くにはギルド街があり、そこで家具を買うのだ。
私たちは中央広場に漂う出店の香ばしい匂いなどを嗅ぎながら、ロンディウスの通りを進んでいく。
「こっちだ、リンクス」
ロンディウスの神々の神殿がそびえるのを見上げ、私たちはギルド街に入った。
ギルド街では鉄を叩く音や鋸を引く音が絶え間なく聞こえている。
それぞれ建物にはどのギルドが何を扱っているかを教える看板が下がっているが、私にはどれがどれやら。
「ここだ」
しかし、ソフィアは無事に目的地まで辿り着き、木々の香りが漂い、木屑が舞う家具ギルドに足を踏み入れた。
「いらっしゃい、美人のお姉さんとお嬢さん。何をお求めで?」
筋肉隆々の職人が出迎える家具ギルドの中には木屑や木片が床に散らばる中、完成品のテーブルやベッドが置かれていた。
そのどれもが立派なものに見えた。
「ベッドを探している。シングルがふたつ欲しいのだが」
「あいにくシングルのベッドの在庫はないですよ。ダブルでよければ、ひとついいのがあるんですがね」
「ふむ……」
そう言われてソフィアは考え込んだ。
ベッドがなければ今日は床で寝る嵌めになる。
だが、ダブルのベッドがひとつだけ……。
「リンクス。暫くはふたりで寝るか?」
「師匠がそれでいいなら私はいいよ」
「では、決まりだ」
というわけでダブルのベッドがひとつ購入することにした。
職人がいい品というだけあって、見せられたベッドは細工が細かでまるで貴族が寝ていそうなベッドであった。
「これを今日中にこの住所まで運んでくれ」
「あいよ。毎度あり!」
ソフィアは支払いを済ませて、家具ギルドを出た。
「他の家具は揃えないの?」
「今はベッドがあれば十分だ。テーブルとイスは一応あったからな」
テーブルとイスはとりあえずと言う品質のものだったが、まあすぐに壊れたりはしないだろう。
「あとは食事か。どこで何を食べたものか……」
ソフィアはそう言い、見慣れぬ都市をじっと見つめる。
私たちにとってこの都市は未だ異国であった。
私たちを一応は立ち入らせてくれた異国の地。
この土地に私たちは住み続け、いずれ異国から母国になるのだろうか……?
「リンクス。とりあえず食堂街を探してみよう。行くぞ」
「了解、師匠」
それから私たちは街に慣れると言うことも兼ねて食堂街を捜し歩いた。
丘を下って港の方に向かい、そこに何か美味しいお店がないかを探す。
しかし、そこには確かに酒場などのお店があったのだが、他のものもあった。
「師匠、あれって……」
「……娼館だ。私たちには無縁の場所だ」
禁欲生活を続けた海の男たちを出迎える美女たち。
それは娼館の客引きで、久しぶりに女性を見た海帰りの男たちが群がっている。
ただ私は色気満点どころか半裸ですらある凄い格好の女性たちを見ても何も感じなかった。
それは私が同じ女性だからと言うよりも、私は師匠以外の人を美しく感じなくなったからかもしれない。
私の目に映るソフィアはいつだって誰よりも美人だ。
「おお。そこにいるのは!」
と、不意に海沿いを歩いていた私たちに声が掛けられた。
その声がどこかで聞き覚えのある声だった。
「……お前はアンタキア号のときの……」
「そう! 私こそは海神の矛デメトリオスだ!」
日に焼けた素肌の上から白いローブをじかに纏った人物。
それは間違いなくアンタキア号襲撃の際に私たちと交戦した西部連合の二つ名付きの魔法使い──デメトリオスであった。
「君たちも西部連合に移籍したと聞いていたが、賢明な判断をしたね! いやはや!」
「ああ。成り行きでな。お前の方はあのあとどうしたんだ?」
「攻撃されないように海に潜って、ひたすら泳いだ! 気づいたときには南方の交易港に辿り着いたが、そこで密入国者だと勘違いされてしまい牢屋に叩き込まれてしまった! ははは!」
身分を証明する白いローブを脱ぎ捨ててしまっていたしとデメトリオス。
「そういうわけでアンタキア号のことを西部連合は把握し損ねたのか……」
「うむ。アンタキア号がロンディウス襲撃に使われたと西部連合が知ってから、私が生きているかもしれないと思い、西部連合が探し始めてようやく疑いが晴れた。それからここに舞い戻ってきたのだよ!」
デメトリオスは豪快な笑みをでそう説明する。
「大変だったね……」
「海の男にこの手の冒険は付きものさ! むしろ、誇れる武勇伝ができたと喜んでいるよ! あのアンドロポリスの災厄と交戦して生き延び、冒険をして──そして何より生きて戻ってきたのだから!」
彼が散々な目に遭った原因は私たちなので少し申し訳なかったが、デメトリオスは気にするなと言うように胸を張った。
「ところで、おふたりは何かお探しなのかね? そろそろ暗くなる。ロンディウスの夜は治安がいいとは言えない」
「夕食を食べる場所を探していてな。どこかいい場所を知らないか?」
「それならいい場所がある。私もちょうど夕食にするところだ。ついて来たまえ!」
デメトリオスはそう言って私たちを案内する。
太陽は今や半分水平線に沈み、オレンジ色だ。
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