TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──新生活//夕食
デメトリオスが案内してくれたお店は、彼の風体からは想像できないほどお洒落なものだった。
他の建物同様に白い壁の建物なのだが、内装は木の温かみがふんだんにあり、海がよく見えるテラス席があるというものだ。
そのようなテラス席にはお洒落な椅子とテーブルが置かれており、私たちはそこに腰掛ける。
「ここは魚介類が美味しいよ! というか、ロンディウスはこの場所が場所だけにどの店でも魚介類ばかり出るんだけどね! 毎日魚でたまにうんざりするときもあるよ!」
デメトリオスはそう笑い、運ばれて来た料理は確かに魚介類ばかり。
オリーブオイルとニンニクで味付けしたものから、魚醤で味付けしたものまで、様々な料理がテーブルに並べられてゆく。
私たちはそんな料理を味わいながら、話に興じる。
「おお。リンクスは生徒として、ソフィアは講師として魔法学校にね。それは素晴らしいことだ。君たちのような優れた魔法使いが学校に入れば、生徒たちの質も上がり、西部連合はより強力になるだろう!」
がははっとそう笑いながらデメトリオスが蒸留酒を呷る。
「だが、私たちを受け入れた人間ばかりではないとも聞いている。行動に注意しろと警告も受けた」
「まあ、それは仕方がない。君たちは戦場で暴れまわり、さらにはロンディウスを襲撃したのだからね。そのせいで敵愾心を抱いたままの魔法使いもいる。しかし、それは少数派だよ。ほとんどは優秀な魔法使いが味方になったと喜んでいる!」
戦場で敵として君たちに出くわす可能性がなくなったわけだしとデメトリオス。
「それに、だ。西部連合もリンクスの無詠唱の秘密を知りたがっている。帝国のように荒っぽい手段は使わないが、学校に入れたと言うのはリンクス自身を研究するためでもあるのだろうね」
「なるほど。そういう意図もあったか……」
帝国は私が無詠唱であれば人体実験や解剖すらするなどとガイウス将軍は脅していたが、それは西部連合も同じで、彼らは解剖などはせずともやはり私のことを調べるつもりらしい。
「しかし、君たちには有力な人間がバックについている。あの西部連合最強格とも言われる青き刃のリウィアや連合議会議員のアンドレアス議員、それに魔法使い連盟のイレーネも好意的だと聞いた。もちろん私も君たちには好意的だよ!」
「殺し合ったけど、ですか?」
「戦場で殺し合うのは仕方のないことだ。まして君たちは傭兵だったのだから。私も帝国の人間を多く殺してきた。私の場合は金のためではなく、西部連合の独立を目指すと言う自己の意志で殺してきた。君たちの友だって殺したかもしれない。そんな私を戦争が終わった今も憎く感じるかい?」
「……いいえ」
デメトリオスはコルネリアの仲間であり、私たちが戦闘技術を教えた魔法使いを殺している。
だが、もう戦争は終わった。
憎しみ合い続ける必要はないことは理解している。
だけれど、私には不安が残っていた。
「あの、ロンディウスの港への襲撃ではどれくらいの人が亡くなったの……?」
「それは知らない方がいい。君を傷つけるだけだ」
「……知りたいんだ。お願い」
私は知っておかなければならない。
私がどれだけの人を手に掛けたかを。
「……兵士が96名、民間人が28名だ」
「ありがとう……」
兵士は死を覚悟してその場にいただろう。
だが、民間人はそうではなかったに違いない。
いつものように漁や交易に出ようとしたところを私に爆撃された。
そう考えると手が僅かに震えてくる。
「あれはガイウス将軍の命令だった。お前が背負うべきものではない」
ソフィアはそう優しく言い、小さく震える私の手を握ってくれた。
確かにあれはガイウス将軍の命令だったけれど、私はソフィアの役に立ちたいと言う利己的な理由も持っていた。
この気持ちを、罪悪感をどう処理していいのか私には分からなかった。
「君は傭兵なのだ、リンクス。決して無差別に、意味もなく殺しまわった殺人鬼ではない。それは皆が分かってる。安心したまえ!」
デメトリオスはそう言って豪快に笑い、彼のその笑いに少しばかり私は癒された。
そしてそんな安堵した私の様子を見て、ソフィアも微笑んでくれる。
「さてさて! こういうときは腹いっぱい食べて、飲むのが一番だよ! さあ、どんどん注文したまえ!」
デメトリオスはそう言って次々にお酒と料理を注文し、料理が運ばれてくる。
私は薄めたワインを飲み、考えるより手を動かして料理を食べた。
確かにこうしていると不安はどこか小さなものになる。
今ある幸せを噛み締めるのに忙しいからだろう。
「デメトリオスも西部連合の魔法学校を出たの?」
「当然だ。成績優秀だったよ、私は! もっとも教育職や研究職というのは肌に合わず、現場に出たかったから長居はしなかったがね! 私はペンと紙に向かっているより、潮風と荒波に向かっている方が性に合っている!」
「へえ。そうだったんだ……」
「だが、リウィアなどはまだ在籍しているのだろう。彼女は後進の育成に熱心だ。私にはできないことを彼女はやっている。それはそれで素晴らしいことだよ!」
デメトリオスはそう言い、豪快に蒸留酒を呷る。
「リンクス。君にも未来は開けている。研究者になるのも教育者になるのも、はたまた再び戦場で名を上げるのも君の自由だ。人間とは生来自由なものなのだから!」
デメトリオスがそう言うのを聞いて私は思った。
私が本当に自由であるならばソフィアのそばにずっといたいと。
離れることなく彼女とともに歩んでいきたいと。
そのために何をしてもいいならば……私は何だろうとやろう。
「満腹になったか、リンクス?」
「うん、師匠」
「そうか。では、そろそろ帰るとしよう」
ソフィアはそう言って席を立つ。
「支払いは私が持つよ。また一緒に食事しようではないか!」
「ああ。ありがとう、デメトリオス。またな」
それからデメトリオスに別れを告げて、私たちは自宅に向けて戻る。
「……こうして街で過ごす日々がこれから続くだろう」
ソフィアは薄暗くなった帰り道でそう言った。
「……お前にはもっと早くこういう普通の生活をさせてやるべきだった。すまない、リンクス……」
強く後悔するように、まるで罪を懺悔するようにソフィアがそう言った。
「師匠。私は師匠がいてくれれば、それだけで幸せだよ。普通の生活なんて無理になくてもいい。戦場でもいい。ただ、師匠には笑顔でいてもらいたい……」
私はそう内心を吐露した。
普通の生活がひとりで街で生きていくことだったならば私は拒否しただろう。
そんな普通より戦場であろうが地獄であろうがソフィアと一緒に方がいい。
彼女は私に唯一生きてく希望を与えてくれた神様のような人なのだから。
「リンクス……」
ソフィアは私の告白にどう応じたらいいのか分からないと言う困惑した表情を浮かべたが、やがて私を安心させるように微笑んだ。
「ああ。私はどこにも行ったりしない。お前のそばにいよう……」
ソフィアはそう言ってくれたのだった。
それだけで私は幸せだ。
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