TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──学校初日//敵意
その日の夜。
私たちは届いていたベッドを飛行魔法で2階に運び、ベッドルームに設置した。
「この部屋でいいだろう」
ふたつあるベッドルームの階段に近い方にベッドを置くように指示するソフィア。
ベッドはガタンと音を立てて床に降ろされた。
それから、そのベッドに真っ白なシーツを張る。
真っ白なシーツには染みひとつなく、とても清潔だ。
私とソフィアはブーツを脱いでから、その上に横になる。
「今日はいろいろあって疲れただろう。ゆっくり休め、リンクス」
「うん、師匠」
ソフィアはそう言い、私の方を見つめる。
私もソフィアの方を見つめ返した。
月明りが窓から僅かに差し込むだけの暗い部屋の中で、私たちは無言で見つめ合う。
「……師匠。師匠は今の状況に満足している?」
私はそう尋ねる。
「ああ。お前が満たされていることが、私にとっての一番の幸せだからな」
「そっか。私はこの上なく満たされているよ」
「それはよかった」
そういうとソフィアはぎゅっと私を抱きしめる。
「これから辛いこともあるかもしれない。敵意や憎悪を向けられることがあるかもしれない。それでも私は必ずお前の味方であり続ける。だから、折れるなよ、リンクス……」
「はい、師匠……」
私はそのまま石鹸の香りがするソフィアの胸に顔を埋めて、眠りについた。
私は彼女の香りに包まれて、どこまでも安らかに眠れた
こうして私たちの西部連合市民としての初日は終わったのだ。
* * * *
数日後、私たちの下にローブが届いた。
私の生徒用の紺色のローブ。
ソフィアの教師用の紋章入りの白いローブ。
それらが届き、私たちが学校に通う準備ができた。
「忘れ物はないか?」
「心配しないで、師匠。ちゃんと全部持ったよ」
私は購買で購入した鞄にノートや筆記具、定規などを詰め込んだ。
それに加えて指定された教科書も詰め込んである。
これで忘れ物はない。
「ハンカチも持ったか?」
「ちゃんと持ってるって」
「そうか。それなら忘れ物はないな。出かけるとしよう」
私たちはそうやって自宅を出発した。
丘を下っていき、魔法学校を目指す。
以前は馬車で行った距離だが、今日は徒歩なのでそれなりに時間がかかった。
飛行魔法でさっと飛んでいくことも考えたが、西部連合の魔法学校は飛行魔法での通学を禁止している。
なんでも飛行魔法に頼りすぎると筋力が落ちて健康に悪いとか。
そういう教育方針なら生徒として受け入れるしかない。
それに──。
「やっぱり海はいいね」
「そうだな。あの広大さを見ていると勇気づけられる」
ソフィアと一緒に歩いて通学するのも悪くない。
これから毎日こうしてソフィアと一緒に学校に通えるのは、とても幸せだ。
私たちは早朝のロンディウスの空気を吸いながら、魔法学校を目指した。
それから学校に到着すると、正門にはすでに大勢の私と同じローブ姿の少年少女たちがいた。
友達同士なのだろう。楽しくお喋りしながら通っている子供が大勢だ。
「リンクス。お前にもああいう友達ができるといいな」
「そうだね……」
私はソフィアにそう言われ、自分でも友達がほしいのかどうか悩んだ。
友達がいれば話をしたり、魔法について知識を深め合ったりできるだろう。
だが、それはソフィアがいれば十分だとも言える。
なら、私が友達の存在をソフィアが求める理由は何だろう?
そうだ。ソフィアに依存しないようにするため……。
ソフィアに依存し過ぎれば、ソフィアの負担になるから。
だけど……それでも私はソフィアより好きな人ができるなんて嫌だ……。
「どうした、リンクス?」
「……何でもない。行こう、師匠」
私はソフィアにそう促し、ソフィアとともに学校の門を潜る。
私たちはそれから学校の講堂と研究棟に分かれる場所まで来た。
「では、しっかりと学んで来い。そして楽しんでくるといい」
「うん。またあとでね、師匠」
私はソフィアと一度分かれて、講堂の方に向かう。
ひとりでも大丈夫だと思っていたけれど、少しだけ不安が生じる。
私は大勢を殺した。その家族がこの学校にいたら……。
「ダメだ。ここで逃げたらダメだ」
それでもソフィアは私に友達を作りが、生徒として普通に生きてほしいと願った。
その願いを叶えたい。私は彼女を失望させたくない。
私が最初に選んだ講義は魔法陣に関する講義で、講堂の1階に講義室はあった。
多くの生徒たちにとって必須の講義となっているので、講義室にはすでに大勢の生徒たちが椅子に腰かけている。
「見て、あの子……」
「可愛い。けど、見かけない子だね?」
講義室の扉を潜ると一斉に視線が私に向けて集まる。
私がアンドロポリスの災厄であり、ロンディウスを襲撃した人間であるとはすでに伝えられているはずだ。
私は彼らの好奇心が敵愾心に変化することを恐れながら一番後ろの席に座った。
「ね、ねえ、あの銀髪ってもしかして……」
そこでその小さな囁きが聞こえてきたと同時に、講義室がざわめき始めた。
まるでその囁きが信管になって爆弾が爆発したみたいに。
「アンドロポリスの災厄……?」
「あんなに小さい子が? 何かの間違いじゃ……」
「間違いないよ。前に先生が言ったいたじゃない。今度の編入生は彼女だって……」
「銀髪の悪魔……」
好奇心はやがて恐怖のような反応に変わり、それに敵意が混じり始めた。
刺すような視線は私もしっかりと感じている。
ここまでネガティブな意味で注目されて気づかないほど私は鈍くない。
「あなた」
そこで私の方につかつかと靴の音を響かせて歩いてくる少女がひとり。
私と同じくらいの背丈の身体に紺色のローブ。
燃えるような赤毛を三つ編みにして、意志の強そうな黄金の瞳をしている。
その顔はどこかで似たような人に会ったような気がすると感じさせた。
だが、それが誰かは思い出せない。
「自己紹介くらいしなさい。編入生なのでしょう?」
「……リンクス」
私がそう名乗ると、やはり教室がざわめく。
「やっぱりだ! アンドロポリスの災厄だ!」
「ど、どうして学校に!?」
ざわめきはひそひそ話を越えて、混乱の域に達しつつあった。
そのパニックを抑えるはずの教師はまだ到着せず、悲鳴を上げそうになっている生徒までいる。
「そう、あなたがリンクスなのね」
私に名前を尋ねた赤毛の少女が納得したように頷く。
「私も名乗りましょう。私の名はダフネ。そして私の師でもある父の名は──」
ダフネと名乗った少女が続ける。
「──ヨアニス。あなたがこのロンディウスの上空で殺した正規魔法使い」
そこで私は気づいた。
彼女は似ていた。彼女の雰囲気はとても似ていた。
あのロンディウス上空で私と殺し合った西部連合の正規魔法使い──ヨアニスに。
私は頭が真っ白になった。
もし、私が殺した人間の家族がいたらどうしようと思っていたが、まさにいたのだ。
それも私がその顔をはっきりと見て、個人と認識して殺した人間の家族が。
私が愕然とする中でダフネは私に向けて指を突きつけた。
「あなたに決闘を申し込むわ、リンクス。父の名誉のために……!」
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