TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──学校初日//決闘
私に決闘を申し込むと宣言したダフネ。
私は呆然とし、それからようやく思考し始めた。
「決闘って……?」
「文字通りの意味よ。決闘に他に意味があるっていうの?」
「……つまり殺し合うということ?」
私はダフネにそう尋ねた。
「……そうよ。ただし、これは野蛮な戦争じゃないわ。もし、相手が戦意を喪失したら、そこで終了。立っていた方の勝ちになる」
ダフネはそう私に静かに告げた。
「さあ、どうするの、リンクス? 惨めに尻尾を巻いて逃げるのか、それとも決闘に応じるのか。決めなさい」
ダフネはそう突き付けてくる。
私は迷った。
殺し合うと言うことに怯えたのではない。
戦えば勝つ自信はあった。
だが、もしダフネを殺してしまったら……いよいよ学校に居場所はなくなるだろう。
ソフィアは私にこの学校で普通に生活してほしいと願った。
それを初日にぶち壊してしまったら、ソフィアも落胆してしまう。
「……受ける」
しかし、逃げても問題は解決しない。
決闘から逃げても、ダフネからの敵意が収まるわけではないのだ。
ここは私の価値を示すしかない。
彼らにも私の有用性を示すのだ。
「よろしい。では、中庭に来なさい」
ダフネはそう告げると颯爽と先に中庭に向かった。
私は彼女を追うようにして、中庭に急いだ。
どこからか私たちが決闘をするという話は広まったのだろう。
中庭には野次馬がわんさかいた。
白いローブの教職員も何が起きているのかと覗きに来ている。
だが、誰も私たちの決闘を止めようとはしていない。
「誰か立会人を!」
ダフネが野次馬たちに向けてそう求める。
「私がやろう」
そう言って前に進み出てきたのは、カリクレスだ。
彼は教師として決闘を止めようとしないばかりか、立会人を申し出た。
しかし、教職員が立会人ならば公平が期待できる。
私はどうやればダフネを殺さずに無力化できるか。
それをずっと考えていた。
「それでは両者、位置につけ」
カリクレスがそう言い、私とダフネは指定された距離を取る。
距離にして10メートルほど。
ダフネは私に敵意ある視線を向け続けている。
周囲のざわめきが徐々に収まって行き、誰もが事の成り行きを見守り始めた。
「では両者──始め!」
カリクレスがそう合図し、私はすぐさま魔力装甲を展開する。
無詠唱で私が魔力装甲を展開したのに、周囲が再びざわめいた。
『偉大なる精霊たちよ──!』
ダフネの方は魔力の矢を形成して私に叩き込んでくる。
私は魔力装甲でそれを防ぎながら、これからの対応を考えた。
そういえば自分で魔力装甲を展開するのは久しぶりだ。
いつもはソフィアが守ってくれていたから。
だが、今は自分で道を切り開かなければ。
いつまでもソフィアに頼りきりでは彼女の負担になってしまう。
幸い、ダフネの攻撃はそこまで強力なものではない。
魔力装甲を展開したまま攻撃に回ってもどうにかなるだろう。
「やはり普通の攻撃ではダメね……! ならば!」
そう思っていたときダフネが前に向けて加速した。
『偉大なる精霊たちよ! 私に悪しき敵を引き裂く力を──!』
彼女が形成したのは魔力の剣だ。
リウィアやヨアニスが使っていたのと同じ青白い刃である。
それが私が展開していた魔力装甲に振るわれ、そこに揺らぎが生じた。
魔力装甲の表面に波紋が広がり、甲高い金属音に似た音が響く。
私は押されていた。
「どうしたの? その程度なの、アンドロポリスの災厄! 私の父を殺したあなたがそこまで弱いと言うことはないはずよ!」
私に向けてそう挑発の言葉を放つダフネ。
ダフネは全く防御を展開していない。
今、魔力の矢だろうと質量攻撃だろうと叩き込めば通るだろう。
だが、それでは……。
「はああっ!」
考えている間にも確実にダフネは私の魔力装甲を削り取り、その攻撃は貫通しようとしていた。
私の方もいつまでも防御ばかり展開しているわけにはいかない。
「ならば──!」
私は魔力装甲を維持したまま魔力の剣を形成する。
私の形成する真っ赤な魔力の刃が出現したのに、再び周囲がどよめいた。
その刃で私はダフネの刃を受け止める。
「そう! それでこそよ! 私の父を倒したのだから、あなたは強くなくては……!」
形勢が不利になったというのにダフネは嬉しそうだった。
私はそんなダフネに向けて魔力の刃を振るい続ける。
次に押され始めたのはダフネだ。
彼女は後ろにじりじりと追い詰められ、私は彼女の手から魔力の刃を奪い、無力化するために剣を振るい続ける。
『偉大なる精霊たちよ! 我に悪しき敵の手から守りたまえ──』
ダフネはそこで魔力の剣を解体し、魔力装甲を展開したと思った直後に私に向けて突進してきた。
そのまま私の懐に飛び込み、体当たりを加えてくる。
私はその不意打ちを避けられず、体当たりを受けて弾き飛ばされた。
『偉大なる精霊たちよ──』
それからすぐにダフネが攻撃のために魔力の剣を再形成した。
姿勢がよろめいている私はその刃を自分の刃では受けきれない。
「はああああっ!」
「間に合え……!」
刃を振るって突撃してくるダフネ。
それに対して私は魔力装甲を再び展開して、辛うじてその刃を受けきった。
「……その攻撃と防御の切り替えの早さは流石だね……」
「ええ。父からの教えよ。魔法使いは攻撃と防御を切り替える際に狙われる。だから、その切り替えをスムーズに行えるようになれ、と……!」
「そうだね。あなたの父も強敵だった!」
私は再び赤い刃を形成して振るい、ダフネの攻撃に応じる。
私の剣術は我流どころか素人のそれだ。
それに対してダフネのそれは適切な攻撃と防御を行っており、それは私と戦ったヨアニスのそれを連想させた。
だが、それでも単純な魔法としての威力なら私の方が上だ……!
私は思いっきり赤い刃を振るって、ダフネの青白い刃を弾き飛ばした。
ダフネの握っていた魔力の剣は弾かれ、宙を舞い、野次馬に向けて飛ぶのに悲鳴が上がった。
だが、カリクレスが展開したのだろう。
魔力装甲が野次馬を飛んできた魔力の剣から守った。
「……まだやる?」
私は息を切らせながらダフネに赤い刃を突きつけて尋ねる。
この距離ならばダフネが再度魔力装甲を展開するよりも早く、私が彼女の首を刎ねるだろう。
勝負は決まったのだ。
「……あなたが強くてよかったわ。父は強いのだとずっと信じていたから……」
ダフネが小さく囁くように言い涙を流す。
ああ。そうか。ダフネは確かめたかったのだろう。
彼女の父を破った私が、本当に彼を破ったに相応しい力を持ってるのかを。
「父は勇敢だった?」
「……うん。とても勇気のある人だったよ」
「それが聞けてよかった……」
ダフネはそう言って両手を上げる。
「降参します」
それから彼女はそう宣言。
「決闘の勝者はリンクス。彼女の勝利だ」
それからカリクレスが宣言し、野次馬たちが一斉にざわめいた。
「ダフネちゃん、頑張った!」
「あれは本当に強いな……!」
「リウィア隊長を倒したんだから当然だよ!」
私の勝利を祝福する声は一切ないが、ダフネの健闘を称える声や私の強さに驚く声が聞こえる。
「リンクス」
ダフネが涙を拭ってから告げる。
「私と友人になってくれるかしら? 父を倒したあなたから学びたいことがあるから」
友人……。
ソフィアが求めた私の普通の人生に必要なもの……。
私と因縁深いダフネがまさかその最初の友人になるとは思わず、私は少し動揺した。
「……喜んで」
しかし、私はダフネの手を握って握手を交わした。
私に罪悪感がなかったと言えば嘘になる。
彼女の友達となることでダフネに対する罪悪感を少しでも拭いたい。
そんな気持ちがあったのは事実だ。
だが、それ以上にダフネとは友人になれそうだと思っていた。
こうして私にも最初の友人ができたのだ。
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