TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──学校初日//友人
「さあ、諸君。決闘は終わった。講義に戻りたまえ!」
それからパンパンとカリクレスが手を鳴らし、野次馬をしていた生徒と教職員を講義室に戻らせる。
「怪我はないね、ふたりとも?」
カリクレスが私とダフネの下にやってきてそう尋ねる。
「私は大丈夫」
「私も大丈夫です、カリクレス先生」
私にもダフネも擦り傷ぐらいのけがはあるが、それ以上のものはない。
魔法で殺し合った割には軽傷だと言えるだろう。
「よろしい。では、講義室に戻るように」
「分かりました」
カリクレスはそう言い、私たちは再び講義室に入る。
私が講義室に入るとやはり大勢の視線が向けられてきた。
しかし、それは敵意や憎悪のそれではなく、ただの好奇心のそれであった。
ダフネと決闘する前の私に向けられていたものとは、大きく違っている。
ダフネとの決闘はどうやらいい方向に作用したようだ。
誰よりも私を憎んでいただろうダフネが私を認めたことで、他の生徒たちも私のことを認めてくれた……のかもしれない。
「リンクス。ここに」
ダフネは私に隣の席を勧め、私は最前列のその席に腰掛けた。
それから私たちはふたりで魔法陣に関する講義を受けたのだった。
* * * *
講義後、友人ができたことをソフィアに報告しなければならないと私は思った。
「ねえ、ダフネ。その、お昼を一緒に食べない……?」
学校での昼食はソフィアと一緒に学食で取る予定だったので、彼女にダフネを紹介するために昼食に彼女を誘った。
「ええ。もちろん。学食?」
「うん。私の師匠にあなたを紹介したいんだ」
ダフネが応じるのに私はそう言った。
「そう……私も是非ともあなたの師に会いたいわ。あなたという強者を育てた人に」
「よかった。なら、一緒に食堂に行こう」
「ええ」
私たちは食堂に向けて廊下を進む。
途中、ひそひそと私たちの方を見て噂話をしている生徒たちもいた。
しかし、もう敵意の視線はない。
ただあるのは若干の困惑と強い好奇心のそれ。
「ダフネちゃん!」
そんな中で私たちに直接声を掛けてくる生徒がいた。
淡い栗毛を長いポニーテイルにした童顔の少女で、そのロンディウスの海のように青い瞳で私たちの方を見ている。
いや私たちではない。視線はダフネにだけ向いていた。
「どうしたの、テオドラ?」
「どうしたの、じゃないよ……。どうしてその子と一緒にいるの? その子、お父さんの仇なんでしょう?」
テオドラと呼ばれた少女は、そこでちらりと私の方を見てそうダフネに尋ねる。
まるで私と目を合わせたら殺されるとでも思っているかのような態度だ。
しかし、やはり納得しない人間もいるのだ。
この間まで殺し合っていた私を受け入れることに納得しない人間も。
「……父は戦場でリンクスと戦い、そして死んだ。決して意味もなく殺されたわけじゃない。だから、戦場での殺し合いを戦後に引きずるつもりはないわ。西部連合政府もそれを理解しているから、帝国軍に所属していたリンクスを受け入れた」
「おかしいよ。ロンディウスが襲撃されたのはついこの前だよ? どうしてそんなに割り切れるの……?」
テオドラはそう言い、ダフネに食い下がる。
確かにこれまでのリウィアやオドアケル、デメトリオスが人間として出来すぎていただけで、普通は戦争が終わったからと言って昨日までの敵といきなり親しくはできない。
これが普通の反応なのだろう……。
「私はより強くなりたい」
そんなテオドラにダフネが告げる。
「私はずっと父の背を追っていた。その父が去った今、私の目標は父を倒したリンクスを超えること。だけど、さっき見たでしょう? 今の私ではリンクスには勝てない」
「だ、だから、友達になるの……?」
「そうよ。友となり学び、切磋琢磨し、私は父もリンクスも超える。超えてみせる。それが今の私の人生の目標。父は私がいつまでもめそめそしてれば叱咤したでしょうし、仇討ちなどのために人生を棒に振ることも望んでいないでしょうから」
ダフネは強い人だと改めて思った。
単純な殺し合いならば私が勝つかもしれないが、こういう精神面では私は全然だ。
私はずっとソフィアに依存してしまっている。
ソフィアを追い越そうと思ったことはないし、ソフィアを奪われれば耐えられない。
彼女が誰かに殺されたとき、私はダフネと同じように大人の対応はできないだろう。
「そっか……。それがダフネちゃんの選択なら何も言わないよ。ただ!」
そこできっと目を鋭くしてテオドラが私の方を見る。
私はその視線に思わずたじろぐ。
「ダフネちゃんを泣かせたら許さないからね、リンクスちゃん!」
テオドラはそう言うと食堂とは反対の方向に走り去っていった。
「……ダフネの親友?」
「ええ。あんなだけどテオドラはいい子よ。いずれあなたのこともちゃんと受け入れてくれるはず」
「そうだね……」
恐らく西部連合の全員から許しを得るのは難しいし、私もそこまでのことは望んでいない。
そんなのは傲慢な願いだ。
ただ自分の知る範囲にいる人から恨まれ続けるのは……耐えられないかもしれない。
そういう意味ではダフネが私を許してくれたのには救われた気持ちだった。
テオドラも私をいつかは許してくれるだろうか……?
「さあ、食堂に行きましょう」
ダフネはそう言い、私を連れて食堂を目指す。
* * * *
食堂にはすでに大勢の生徒たちがいたが、ソフィアは食堂の前で待っていてくれた。
「ああ。リンクス。そっちは?」
「ダフネ。友人になったんだ」
ソフィアが怪訝そうに私の隣にいるダフネを見て尋ね、私はダフネを紹介する。
「ダフネ。彼女はソフィア、私の師匠だよ」
「初めまして、ソフィア先生。私はダフネです。よろしくお願いします」
ダフネはそう言って丁重にソフィアに向けて頭を下げる。
とても綺麗な所作で、思わずソフィアが戸惑うほどだった。
「あ、ああ。よろしく、ダフネ……」
ソフィアはそう言って頷いたのちに笑顔で私の方を見た。
「リンクス。初日に友達を作るとはやるな。お前は私が思った以上だ……」
そう言ってソフィアは私のことを誉めてくれ、それが私は誇らしかった。
「ダフネ。お前もリンクスのことをよろしく頼む」
「ええ。彼女とは友人であり続けたいと思います」
ソフィアはそうダフネに頼み、ダフネは笑みを浮かべて承諾した。
「では、昼食にするか。教職員用の食堂を使おう。2階だ」
それからソフィアは私たちを食堂の2階に案内する。
2階は1階とは違ってそこまで混んでおらず、白いローブの教職員たちがちらほらといるだけだ。
教職員たちは紺色のローブの私たちがやってくるのにちょっとばかり視線を向けたが、教職員が生徒を連れてくるのは禁止されていないのか、すぐに食事に戻り、注意もしなかった。
「さて、リンクス。友人になった経緯を聞かせてくれるか?」
席に着くと早速ソフィアがにこにこと私たちの方を見てそう尋ねてくる。
彼女は私に友人ができたということに、本当に嬉しそうであった。
「……ダフネはヨアニスの娘なんだ、師匠。私たちがロンディウス上空で相手にした西部連合の正規魔法使いの、その娘」
私がそう言うとソフィアの表情が強張った。
彼女はダフネの方に困惑の視線を向ける。
どうして親の仇である私たちと親しくしているのかと、そう問うような視線だ。
私はそんなソフィアの問いに答えなければならない。
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