TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──学校初日//昼食
ダフネ──私たちが殺したヨアニスの娘。
彼女を前にソフィアの表情が強張る。
「もうあなた方を恨んではいませんわ」
そんなソフィアにダフネが告げる。
「リンクスさんは強い。決闘でそのことを知りました。父を倒したに相応しい人だと」
「決闘とは……?」
ソフィアは怪訝そうに私たちを見て尋ねる。
「私とダフネは決闘したんだ」
「そう、お互いの名誉をかけて」
私たちがそう言うのにソフィアは目を瞬かせて驚きの表情を浮かべた。
彼女は私たちの言葉に考え込むように視線を伏せ、それから再び視線を上げた。
「……そうか。認められたのだな」
それからソフィアはダフネの方に視線を向ける。
彼女のその表情はダフネへの敬意が見て取れた。
私たちを認め、許したダフネへの敬意が。
「父はいつまでも私が過去に拘っていれば前を向くように厳しく指導したでしょうから。私は前を向きますわ。強くなるために。これからも生きていくために」
「……お前は強いな。子供とは思えないぐらいだ」
ダフネのその言葉にソフィアは頷く。
ソフィアの表情には僅かながら笑みが戻り、見守るようにダフネを見ていた。
ダフネは強い。
そのことをソフィアも認めた。
私もダフネみたいに強くなれれば、ソフィアの役に立てるのだろうか……?
けど、ダフネの強さは私には絶対に得られない強さだと思う。
愛する人を失っても強くあれる。
それができる人がこの世にそう何人もいないだろう。
「お前のような友人ができて、リンクスも幸運だ。師匠として礼を言う」
「いいえ。私こそリンクスさんの友人になれて光栄ですわ」
ソフィアはダフネに礼を述べ、ダフネもそう返事した。
「おふたりは帝国中央の魔法学校には通っていないそうですが、我流ですか?」
「ああ。私の魔法は部分的に帝国魔法院で教えられるそれだ。だが、私自身は魔法学校を正規に卒業していない。おおよそは我流だ」
それからダフネが尋ねるのにソフィアがそう答える。
「……帝国中央の政争に巻き込まれましたか?」
ダフネのその問いにソフィアは一瞬だけ驚いた空気を出したが、すぐに視線を伏せて物憂げな表情を浮かべた。
「……この西部連合でも帝国中央の噂は聞こえているだろう。噂と言うよりも悪評を。中央は政争に続く政争に明け暮れている。そして、魔法使いも例外ではない。私たち魔法使いは常に政争の駒であった。これだけ言えば十分だろう?」
「大変だったのですね……」
ソフィアが中央の政争に巻き込まれたせいで魔法学校を辞めなければならなかったことを、私は初めて知った。
彼女はどんな争いに巻き込まれたのだろうか……?
私はソフィアのことを全然知らずにいることに気づき、少し悲しくなった。
もっとソフィアのことが知りたい。
「リンクスさんはどういう出自なのです? ソフィア先生の血縁には見えませんが」
「ああ。リンクスは孤児だったのを私が拾ったんだ。才能があると感じて。そして、それは正しかった。リンクスには才能があった」
あまり重たい話をしたくなかったのか。
それとも私が同情や忌諱の目で見られるのを避けるためか。
ソフィアは私を拾った経緯についてはぼかしてくれた。
盗みを働いたところを捕まえられたということを言えば、ダフネに軽蔑されるかもと私は心配していたので助かった。
「私たちは帝国東部の山で暮らしていたが、生活のために私は傭兵に戻り、リンクスを同行させた。今はこうしてここにいる。ここが新しい故郷として私たちを受け入れてくれることを願って……」
ソフィアは後半は誰にあてたものでもなく、ただ呟くようにそう言っていた。
ダフネは幸いにも受け入れてくれたが、他の生徒やテオドラのように受け入れられない人間もいる。
それは当然のことだが、いつかは……。
「辛気臭くなってしまったな。すまない。新しい出会いの場だと言うのに」
ソフィアはそう言って首を横に振り、そういう。
「そうですね。ソフィア先生は講師に就任なさったそうですが、何を教えられるつもりですか?」
「ああ。実はそれに困っている。私は先も述べたようにほぼ我流だ。癖のある魔法を正規魔法使いとなる生徒たちに教えるのは気が引けてな……」
「けど、リンクスさんという優れた魔法使いを輩出されたではないですか」
「それはリンクスに才能があり、優秀だっただけだ。私の功績ではない」
ダフネの言葉にソフィアはそう言い、苦笑する。
「そんなことはないよ。師匠のおかげで私は強くなれた。師匠にはみんなに教えられることがたくさんあるはず……」
そんなソフィアの言葉に私は反論する。
私はソフィアから魔法という希望を与えられた。
それは私が勝ち取ったものじゃない。
ソフィアから与えられたものだ。
だから、ソフィアが彼女自身は無価値であるというようなことを言うのは、私には容認できなかった。
「そうだといいのだが……。私は傭兵として生きる術は知っていたが、純粋な魔法使いや教育者としての生きる術はあまり知らない。いっそのこと魔法戦の教導役にでもしてくれればと思う」
ソフィアは私の言葉にそう言い、他の教職員たちを見る。
ソフィアは彼らと同じ白ローブを纏っていたが、彼らとの距離を感じているようだ。
それでも彼女は誰よりも優れた教師だと私は思っている。
「なら、いっそ戦闘の方法を教えられては?」
と、ここでダフネがそう提案。
「西部連合はあの戦争で多くの戦える魔法使いを失いましたわ。新しい研究者や教育者を生むことも必要ですが、戦えるものを、戦士を生み出すこともまた重要でしょう」
「ふむ……。では、一度その方向でイレーネ連盟長に掛け合ってみるか……」
そうだ。ソフィアと私はコルネリアたちにも魔法による戦闘方法を教えた。
その経験はこの魔法学校でも生かせると思う。
「師匠。私の助けが必要だったら言ってね。いつでも手を貸すよ」
「ああ。ありがとう、リンクス。助かる」
ソフィアはそう言って微笑む。
私もソフィアの役に立てるのだと思うと嬉しかった。
「ふふ。師弟で仲がいいのね、リンクス」
「そうだよ。私は師匠のことが大好きだから」
ダフネの言葉に私は笑みを浮かべてそう返した。
私はソフィアが好きだ。
ソフィアのことを師匠として敬愛している。
「……そう言ってくれると私も嬉しい、リンクス」
ソフィアは私の言葉に静かにそういうのみだった。
でも、彼女もまた私を愛してくれているということは私は分かっている。
「さて、昼食のついでのつもりがお喋りに夢中になってしまったな。食事をしよう」
ソフィアはそう言い、食堂に控えている給仕を呼ぶと今日のランチを注文した。
ランチはパンとチーズ、それから魚と野菜を煮込んだスープが提供された。
パンは白くて柔らかく、魚は新鮮なのだろう。とても美味だった。
私たちはそれを味わって満足した。
「リンクス」
それから食事を終えて席を立つと、ソフィアが声を掛けてくる。
「これからも学校生活を頑張るんだぞ。友人ができればお前の人生も、もっと普通のものになる。そのはずだから……」
「……了解、師匠」
そう答えながらもソフィアの言う普通の人生というものを私はまだあまり理解できずにいた。
学校に通い、友人ができて、そして……いずれは西部連合の正規魔法使いになる。
それが普通の人生なのだろうか……?
でも、私はそんな普通の人生よりもソフィアのそばにずっといたいと願っている。
それがソフィアの負担になるかもしれないと内心で理解しながらも……。
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