TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──学校初日//帰宅
それから魔法学校の講義は暗くなる前の時間帯に終わった。
暗くなってから治安が悪いと言うロンディウスだ。
暗くなる前に生徒を家に帰すのは自然と言えた。
「ダフネちゃん!」
私とダフネも講義が終わり、帰ろうとしていたところにテオドラがやってきた。
テオドラはこれまでの講義で私たちより1、2列後方の席に座り、私たちと同じ席に座ろうとはしなかった。
やはり受け入れてもらえずにいると私はその態度から感じていた。
こうしてダフネに話しかけにやってきたテオドラは、未だに私と視線を合わせようとはしないのだから。
「一緒に帰ろう」
「ええ。帰りましょう」
私はそこで疑問に感じた。
ダフネたちはこのロンディウスのどこで生活しているのだろうかということだ。
「ねえ、ダフネ。ダフネの家は近くなの?」
「いいえ。実家はもっと遠いわ。けど、私たちは寮で暮らしているから」
私の問いにダフネはそう答える。
寮があるということを私はそこで初めて知った。
「リンクスは寮生ではなかったわね。あなたはどこから?」
「丘の上の方にある家。そこで師匠と暮らしている」
「そうなのね。今度遊びに行ってもいいかしら?」
ダフネがそう言ったときテオドラが慌てて彼女のローブの裾を引く。
「ダフネちゃん! ダメだよ。そんなの……」
「なぜ? 私はリンクスの友人よ」
「けど……他の子はまだリンクスちゃんを友達だと認めたわけじゃないから……」
そのテオドラの言葉が全てだったと思う。
周囲の生徒の私を見る目は未だ厳しいものだ。
今では明確な敵意こそなけれど、まだ私の存在に困惑しているのが分かった。
そんな私と優等生だろうダフネが親しくするのは……ダフネのためにならない。
「……テオドラの言う通りかもしれない。私とあまり親しくするのは──」
「他人がどう思うかで私は友情を左右したりしませんわ」
私がそう言おうとしたのをぴしゃりとダフネが遮る。
「私の友は私が選ぶ。他人にどうこう言われたからと言って一度結んだ手を放すなど不義理ですわ。それに──」
ダフネはテオドラの方を見て語る。
「私は私の人生に自分で責任を負って生きていますの。他人にその人生の決定を委ねたくはありません。自分の道は常に自分で切り開くもの。そうでしょう?」
「……ダフネちゃんの意地っ張り。けど、好きだよ、そういうところ……」
ダフネの言葉にテオドラは初めて私の前で笑みを見せた。
その笑みは私に向けられたものではなかったけれど、本当はいい子だというダフネの言葉を証明するようなものだった。
ああ。ダフネのもっとも親しい友人はテオドラなんだと、私もそう理解できた。
ああやってお互いを理解し、認め合っている友人関係。
私もソフィアとああなれるだろうか?
けど、私はソフィアのことを知らず、ソフィアのことを理解できていない。
まだ彼女たちの結んでいる関係とは程遠い……。
「では、また明日、リンクス」
「……うん、また明日」
ダフネとテオドラは手を握って一緒に帰っていく。
本当に仲が良さそうなふたりだ。
そこに私の入り込む余地はない。
そう思い彼女たちに背を向けると、私はソフィアを迎えに行くことに。
「リンクス?」
ソフィアのいる研究棟に向かう途中、私は顔見知りに出くわした。
リウィアだ。彼女が研究棟の方から歩いてきていた。
「リウィア。あなたも学校に所属しているんだったね」
「ああ。後進を育成せねばな。魔法使いの質は国力に繋がる」
リウィアはそう言ってからにやりと笑う。
「カリクレスから聞いたぞ。ヨアニスの娘と決闘したそうだな。学校は確かに決闘を禁止していないが、それが行われたのはかなり昔だぞ」
「その、いろいろとあって……」
彼女にそう言われて私は僅かに視線を逸らす。
怒られると思ったのだ。
だが、そうではなかった。
「自分の価値を示したのだろう。誇ればいい。ヨアニスの娘も父を倒したお前について知りたかったはずだ」
「……そうだね」
リウィアが言ったようにダフネは知りたかったのだ。
彼女の父を倒した私が決して弱い存在ではないことを。
私はちゃんとそれを証明した。
「ヨアニスのやつはいつも娘の自慢をしていたからな。立派な娘だとそう何度も聞かされていた。その娘がお前の友になったならば、何よりだ」
そうか。ヨアニスもリウィアの部下のひとりだったんだ……。
それからリウィアはもうすでに私とダフネが友人になっていたことも知っていた。
ソフィアから聞いたのだろうか……?
「もし、お前が孤立しそうならば私が手を貸してやろうと思っていたが、余計な心配だったな。ソフィアを迎えに行くのだろう? 彼女は今講師室を整えているところだ。手伝ってきてやれ」
「はい」
私はそう言われてソフィアの講師室に急ぐ。
ソフィアのいる講師室に近づくと飛行魔法で家具を運んでいる大人とすれ違った。
古ぼけた机には見覚えがある。ソフィアの部屋に置かれていたものだ。
「師匠」
「リンクス。すまないな。まだ片付けが終わっていないんだ」
ソフィアはリウィアが言っていたように講師室を整えているところだった。
石張りの床には絨毯が敷かれ、机と椅子は新しいものになっている。
この前までのがらんどうな部屋に僅かにだが彩りが生まれていた。
「手伝うよ。何をすればいい?」
「そうだな。窓を拭いてもらえるか? 私は床を掃除する」
「分かった」
それから私たちは部屋を掃除し、家具を設置していく。
床を磨いて埃を払い、その上に絨毯を広げ、家具を置いていった。
「よし。それらしくはなったな……」
ソフィアの講師室には彼女が執務に使う机と椅子が置かれ、応接用の長机が置かれ、以前のような殺風景な景色から脱した。
流石にイレーネの執務室のようにはいかないが十分だと思う。
「師匠。そろそろ暗くなるよ。帰ろう?」
「ああ。そうしよう」
私がオレンジ色になり始めた空を見上げて言うのに、ソフィアは額の汗を拭ってそう応じた。
「今日の夕食は何が食べたい、リンクス?」
「魚介類なら何でもいいよ」
「そうか。お前もこの街に馴染んできたようだな」
ソフィアと山小屋に暮らしていたときには、海に暮らす魚介類は食べられなかった。
山まで新鮮な海の幸を運ぶ技術は、この世界にはまだ存在しない。
川魚も美味しいけれど、海の幸もまた美味しい。
「……友人とはどうだ? 仲良くやれていたか?」
「……うん。けど、ダフネは私が一番の友人ってわけじゃなくて、親友は別にいるんだ。その間に入っちゃうみたいで少し気が引けている……」
ソフィアが少し心配そうに尋ねるの私はさっきの光景を見てそう答える。
ダフネとテオドラは、とても仲が良さそうだった。
私がいることでふたりの友情が崩れることは望んでいなかった。
「……お前は優しいな……」
そんな私の頭をソフィアがそっと撫でる。
「一番の友人になれなくとも友がいれば人生は変わる。まずは信頼できる友人を作れ。私のように孤独に生きるようなことにならないように……」
ソフィアのその言葉からは強い後悔の色が見えた。
そう言えばソフィアに友人がいたという話は聞いていない。
彼女に友人がいなかったはずはないだろうが……。
……だが、現実には今の彼女のそばにいるのは私だけだ。
孤独──。
ソフィアはそう言えるのかもしれない。
「師匠。私はずっと師匠のそばを離れないよ。だから、安心して」
「……リンクス」
ソフィアは私の言葉に少し戸惑い、それから小さく微笑んだ。
その笑みからは彼女の複雑な思いを感じた。
希望や後悔、そして──罪悪感を。
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