TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う   作:第616特別情報大隊

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要塞//人の死

……………………

 

 ──要塞//人の死

 

 

 私たちが破壊を命じられた要塞。

 帝国軍の西部の反乱鎮圧を妨げているというそれに私たちはこれから立ち向かう。

 

「リンクス。私が先に陽動を仕掛ける。お前はその隙に要塞施設に可能な限り大きな攻撃を叩き込め」

 

 実に簡単な作戦だった。

 ソフィアが先に要塞に向けて攻撃を放ち、敵がそれに気を取られた隙に私が要塞を破壊するというもの。

 

「可能な限り大きな攻撃、ですか?」

 

「魔力の矢でも崩れている要塞の石材をぶつけてもいい。方法は問わないからあの中央にある塔を崩すんだ」

 

「分かった。やってみる」

 

 まさか初戦に相手が要塞だとは思わなかったが、ソフィアから学んだことを生かせば、ちゃんとやれるはずだ。

 それにソフィアからの期待に応えたい。

 ちゃんと彼女の役に立ちたい。

 

「では、始めるぞ」

 

 ソフィアはそう言い飛行魔法で空に向けて飛ぶ。

 私も飛行魔法で飛ぶがソフィアよりずっと低空の地上すれすれを飛び、さらには東に大きく迂回して要塞の見張りからの察知されることを避けた。

 ソフィアはそのまま南の空から要塞に接近していくのが私からも見える。

 

「敵だ!」

 

「敵の魔法使いだ!」

 

 ソフィアの方は敵に発見された。

 警笛が打ち鳴らされ、要塞がにわかに騒がしくなる。

 

『リンクス。こっちは始める。お前も準備しろ』

 

 ソフィアから繋げていた念話でそう連絡があり、ソフィアは要塞の迫った。

 

 地上からバリスタから撃ち上げられ、矢が撃ち上げられ、ソフィアが狙われる。

 

『偉大なる精霊たちよ。願い奉る。繰り返し願い奉る。その力を以てして我が身を忌まわしき我らが敵から守りたまえ。この身をどうか守りたまえ』

 

 ソフィアはそんな攻撃から自分を魔力装甲で守り、同時に地上の防衛設備を狙う。

 

『偉大なる精霊たちよ。我が敵を貫き、屠りたまえ』

 

 通常は魔力装甲を展開したまま攻撃を行うのは難しいとソフィアは言っていた。

 それは防御が疎かになるか、攻撃が弱まるかのバランスに傾くそうだ。

 今のソフィアは意図して防御に力を入れ、攻撃は弱いものを連発していた。

 それでも魔法使いの攻撃だ。

 青白く光る魔法の矢によってバリスタを操作する兵士や弓兵たちが射貫かれてく。

 

 しかし、要塞の城壁そのものにはほとんど損傷は生じていない。

 バリスタの損傷も軽微でまだ射撃可能だ。

 

 いつまでもソフィアを危険な囮にはしていられない。

 私も行動を急ぐ。

 低高度を駆け抜けるように飛行し、それから急上昇。

 

 一気に丘の上にある要塞を完全に見下ろせる高度まで上昇し、地上を見渡す。

 要塞内には確かに街があった。

 あの帝国軍の陣営と同じように鍛冶場があるのに加えて畑まである。

 そこに暮らしているのは民間人なのだろうか?

 それとも兵士が兼業しているのか?

 いずれにせよ私はソフィアから言われた命令を果たさなければならない。

 

 私は攻撃に使えそうなものを地上で見つけていた。

 崩れた城壁の石材だ。

 軽トラックほどの大きさのあるそれは、攻撃に使えそうだった。

 

「えい」

 

 誰も聞いていないので詠唱はせず、私は掛け声だけでその岩を持ち上げる。

 本来ならば私には微塵と動かすこともできないだろうその石材も、魔法を使えば容易に持ち上げることができた。

 まるで重力が反転したかのようにすうっと持ち上がる石材。

 

「あっちにも魔法使いがいるぞ!?」

 

 それに相手も気づいたが、もう攻撃の準備は整っている。

 私は宙に浮かべた石材を加速させて要塞に叩き込んだ。

 石材は要塞中央の塔に衝突し、その運動エネルギーによって要塞を破壊する。

 

『リンクス。そちらの攻撃を確認した。だが、十分ではない』

 

 要塞は未だ健在だった。

 中央の塔の一部は破壊されたものの、塔そのものは今も聳えたまま。

 

『私が援護する。再攻撃を実施しろ』

 

 ソフィアはそう言い、私に狙いを定め始めたバリスタや弓兵を攻撃。

 防御力を下げて、攻撃の威力を上げたのだろう。

 ソフィアの攻撃は今度はバリスタを破壊し、弓兵を次々に殺害する。

 弓兵は革や金属の鎧をまとっていたけれど、まるで対物ライフルの射撃でも受けたみたいに、文字通り砕け散った。

 

 スラム街で死体はいろいろと見てきたけれど、これは……あまりにも……。

 

『リンクス。攻撃を急げ。狙われているぞ!』

 

 狼狽えている私にソフィアがそう警告する。

 バリスタの矢が私に向けて放たれてきて、展開している青緑色の魔力装甲に大きな波紋が生じた。

 私は動揺する。

 イノシシに突撃されても、クマに攻撃されてもびくともしなかった魔力装甲だが、バリスタの攻撃を前にしては揺らいでいるのだ。

 

 殺しに来る相手は殺せ。さもなければ自分が死ぬ。

 

 そこでソフィアが警告として言っていたことを思い出し、私は全てを飲み込んで魔力を凝集させ始める。

 自分自身の魔力はまだまだ余るほどある。

 その青白い光を放つ膨大な魔力が凝集され、それを私は横一線に成形すると要塞にしっかりと狙いを定め、加速をかけて放った。

 

 それはまるで巨人が刃を振るったような一撃だった。

 要塞の塔は上から下に斜めに裂かれ、石が削れる音を立てながら崩れ落ちていく。

 塔は倒れた。今度は完璧に。

 

「逃げろ! 逃げろーっ!」

 

「うわあああっ!」

 

 悲鳴が響く要塞。

 

 私はそんな要塞を見つめていた。

 崩れ落ちていく塔から放り出され地面に落ちる人間を見た。

 塔から転げ落ちて、べしゃりと地面でつぶれるのを。

 

 崩落した石材に潰される人間を見た。

 逃げようとして逃げきれず、頭に石材を受けてザクロのように頭が割れるのを。

 

 瓦礫の中に埋もれていく人間を見た。

 血の気のない顔をした人間の死体があちこちに散らばっているのを。

 

 ああ。初めて私は魔法が怖いと思ってしまった。

 ソフィアが言っていたことは正しい。

 魔法使いは──危険だ。

 

『要塞の破壊を確認。よくやった、リンクス。帰投しろ』

 

 ソフィアはそう言い、私に帰還を命じる。

 私は見たことを忘れるように首を横に振るとソフィアとの合流を目指し、帰投した。

 

 

 * * * *

 

 

 暫くの間は震えが止まらなかった。

 人の死体を見慣れているのと自分が人を殺すのはやはり意味が違った。

 私は殺した。何十人も殺した。

 その事実を前に私は馬車の荷台で震える。

 

「大丈夫だ、リンクス」

 

 そんな私に気づいたソフィアがそう言い、私を抱きしめてくれた。

 彼女の温かさと石鹸の香り、そして優しさが伝わってくる。

 

「お前は間違ったことはしていない。殺さなければ殺されていた」

 

「はい……」

 

 ソフィアの言うことは正しい。

 あのとき殺さなければ私がバリスタに撃ち抜かれて死んでいただろう。

 割り切るしかない。

 傭兵として生きていくならばこれからも大勢を殺すのだ。

 いちいち感傷に浸っているような余裕はない。

 

「お前はよくやった。初陣しては上等だ。今日はゆっくり休め」

 

 ソフィアが安堵させるような笑みでそう言うのに私は無言で頷く。

 そして、馬車の荷台に横になり、ローブにくるまって眠った。

 不思議と悪夢は見なかったし、涙が流れることもなかった。

 

 私は存外、薄情なのかもしれない。

 

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