TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う   作:第616特別情報大隊

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戦闘教育//初めての講義

……………………

 

 ──戦闘教育//初めての講義

 

 

「おはよう、ダフネ」

 

「おはよう、リンクス」

 

 翌日も私はダフネの隣に座った。

 今日のテオドラはダフネを挟んでひとつ隣の席にいる。

 彼女は相変わらず私の方を警戒するような視線で見ていた。

 

「聞いたわ。あなたの師、ソフィア先生が戦闘魔法の教官になると」

 

「うん。承諾は取れたみたい」

 

 ソフィアは昨日連盟長のイレーネに話して、戦闘魔法の教育を行うことの許可を得たと私に話していた。

 彼女は早速今日から基本的な戦闘魔法から応用的な戦闘魔法まで教育する。

 昨日はそのことでソフィアは少し不安そうだった。

 

「ぜひともソフィア先生の講義を受けなければね。当然、あなたも受けるのでしょう、リンクス?」

 

「私は助手をやるよ。ソフィアに頼まれているんだ」

 

 ソフィアからは講義を手伝ってほしいと言われていた。

 コルネリアたちへの訓練でも私とソフィアは組んで訓練教官を務めていたから。

 私がその話をするとダフネは納得したように頷いていた。

 

「そうね。あなたは強い。生徒じゃなくて教師になるべきよ。あなたからは学べることが多くある」

 

 私の話にダフネはそう納得していた。

 

「けど、私もソフィアも我流だから……それが通用するのか疑問に思ってる……」

 

 ソフィアの懸念していること。

 私たちの魔法は我流であり、癖があるとソフィアは言っていた。

 それをこれから正規魔法使いとなるダフネたち生徒に教えることをソフィアはずっと気にしていた。

 

「大丈夫。あなたたちは強い。そのことはすでに証明されている。それにほとんどの魔法も元を辿れば我流よ。全ては我流から始まり、洗練されていくことで今の形になった。そうであるならばあなたたちの魔法も私たちが洗練していけばいい」

 

 そんな私たちの懸念にダフネはそうきっぱりと言ってくれた。

 彼女の言葉はどこまでも心強いものだ。

 

「ありがとう、ダフネ」

 

 その言葉に私は励まされた。

 私もソフィアも胸を張って魔法を教えようと、そう思えた。

 

 

 * * * *

 

 

 それから私はソフィアの講義の手伝いのためにソフィアの講師室を訪れた。

 

「師匠」

 

「ああ。来たか、リンクス」

 

 ソフィアは魔法に関する書籍を何冊か机の上に積み上げていた。

 講義で使う教科書だろうか?

 

「師匠、それは教科書?」

 

「ああ。だが、これは私が読んでいたものだ。可能な限り西部連合の正規魔法使いが教わる魔法に近づけようと思ってな」

 

 ソフィアは自分が帝国で学んだ魔法を西部連合のそれに近づけようとしたようだ。

 

「どんな魔法も我流から始まり、洗練されて今のような魔法になったんだよ」

 

「それは講義で教わったのか?」

 

「いいや。ダフネが教えてくれた」

 

 ソフィアが優しげに笑って尋ねたのに、私は自慢げにそう答えた。

 講義でもいろいろと習ったけれど、ダフネから教わったことも大きい。

 友人というものは、本当にいいものだ。

 

「そうか。友人が教えてくれたか……」

 

 ソフィアはとても嬉しそうに微笑む。

 

「では、その友人の期待に応えなければな。しっかりとした講義をやろう」

 

「了解、師匠」

 

 それから私たちは講義の打ち合わせをし、講義が開かれる場所に向かう。

 私たちの講義は講義室ではなく、外の運動場で開かれる。

 運動場は講堂の向こうにあり、広さは私が知っている学校の校庭よりずっと広い。

 

「結構、大勢が受講するみたいだね」

 

「ああ。責任重大だな」

 

 運動場にはすでに20名前後の生徒が集まっていた。

 参考までにいえば私がこれまで受けていた講義でも30名前後の生徒がいた。

 なのでソフィアの講義に集まった生徒たちは決して少なくない。

 

 ソフィアは集まった生徒たちを前にする。

 

「諸君、初めまして。私はソフィア。この戦闘魔法の講義を受け持つ講師だ」

 

 ソフィアはそう自己紹介し、私も彼女の隣で頭を下げた。

 

「さて、君たちがこの講義を選択したということは、戦闘魔法に興味があるということだろう」

 

 ソフィアはそう話し始める。

 

「知っての通り、私とリンクスは傭兵として戦ってきた。私はこの学校の卒業生ではないが、君たちに教えられることはあるだろう。傭兵として私たちが生き延びてきたすべを君たちに教えよう」

 

 彼女はそう言って生徒たちを見渡す。

 生徒たちはソフィアに興味がある様子だった。

 それと私にも。

 

「あの!」

 

 そこでひとりの生徒が手を上げる。

 

「あなたたちがリウィア隊長を落としたというのは本当ですか?」

 

 その男子の生徒は、そうソフィアに質問した。

 そう問われてソフィアは少しばかり動揺するのが分かった。

 

「……ああ。彼女と交戦し、撃墜したのは事実だ」

 

「つまりリウィア隊長より強いんですか?」

 

「それは分からない。戦場とは単純な魔法使いの強さだけで勝敗が決まる場所ではないからな」

 

 ソフィアがそう返すと、その生徒は少し納得いかない様子で手を降ろした。

 

「諸君にはそのことを含めて教えていきたい。どうやって生き延びるかを」

 

 ソフィアは決して勝利するためのすべとも、敵を殺すためのすべとも言わなかった。

 私たちはすでに知っている。

 戦場ではまず生き延びなければ、勝利も敗北もないと言うことを。

 

「それでは始めよう。まずは魔力装甲の適切な展開からだ」

 

 基本中の基本である魔力装甲のしっかりとした展開からソフィアは指導を始めた。

 生徒たちは魔力装甲を展開し、そこに向けてソフィアと私が当たっても怪我しない程度に抑えた威力の魔力の矢を放つ。

 魔力装甲で攻撃をしっかりと受け止められることが最初の課題。

 

 それができてから魔力装甲を展開したまま飛行する訓練に移った。

 ダフネのようにすぐに適応できた生徒もいれば、魔力装甲を展開しながら飛行するのは難しい生徒もいた。

 だが、これができなければ戦場では戦えない。

 

「落ち着いてやれ。しっかりと飛行することと魔力装甲を展開することに集中するんだ。今は他のことを考えなくていい」

 

「わ、分かりました!」

 

 ソフィアはそんな生徒を優しく指導し、丁寧にコツを教えていた。

 魔法使いが同時に複数のことをやるのは難しく、そして非効率だ。

 防御なら防御に、攻撃なら攻撃に、飛行なら飛行に専念した方が効率がいい。

 だが、魔法使い同士の戦闘は空中戦になりがちだ。

 自分たちより上空を先に押さえられるのは不利になる。

 

「ダフネは流石だね。問題なさそう」

 

「ええ。これぐらいは平気よ」

 

 ダフネは飛行魔法と魔力装甲を同時に展開している。

 彼女はこれぐらいはなんてことはないという様子だ。

 

「あなたこそ流石じゃない、リンクス。そこまで自由自在に飛行できるなんて」

 

「……そうしなければ生き残れなかったからね」

 

 ダフネが私を誉めるが、私は苦笑したのみだった。

 これは必要にかられて覚えたことだ。

 これを覚えなければ死ぬだけだったから。

 

「……そうね。あなたは実戦を経験している。私たちと違って。学ぶことは多そうね」

 

「そう思ってくれると嬉しいよ」

 

 私とソフィアは戦場を知っている。

 もし、ダフネたちがそこに行かなければならなくなったときに助けになる知識を与えられることができれば幸いだ。

 もちろん、戦場に行かないのが一番いいのだが。

 

 それでも私たちのように戦うことでしか価値を示せない人間もいる。

 リウィアのように故郷を守りたい人間。

 ソフィアやオドアケルのように戦うことが生活の糧である人間。

 それから私のように戦い以外に取柄がない人間。

 

 ダフネたちはきっと故郷を守るために戦う人間になるのだろう。

 正規魔法使いが生活のために傭兵になる理由は西部連合にはないし、彼女は私よりずっと強く社会に適合している。

 そして私はダフネのようにはなれないだろう。

 私はダフネのように精神的に強くもないし、戦場以外で役立つスキルも持っていないのだから。

 私はずっとソフィアに頼り切ったままだ……。

 

「さて、次はいよいよ実戦に沿った模擬戦をやってみよう」

 

 全員が飛行魔法と魔力装甲を展開できるようになった時点で、ソフィアがそう宣言。

 いよいよ基礎が終わり、応用へと講義は移る。

 

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