TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──ロンディウスの休日//家庭訪問
あっという間に週末がやってきた。
今日はダフネとテオドラが遊びに来る日である。
「ふう。掃除はこんなものでいいよね、師匠?」
「ああ。十分綺麗だぞ」
お客を迎えるに当たって恥ずかしくないように掃除をしておいた。
いつもは汚いというわけではないのだが、細かなところまで掃除しておいたのだ。
「それよりリンクス。せっかく学校の外で友人と遊ぶんだ。お洒落をしてはどうだ? お前に合いそうな服を買っておいたんだが……」
ソフィアはそう言って私に一着の服を差し出した。
それは水色のワンピースで、私が今纏っている擦り切れた灰色のワンピースよりずっと綺麗なものであった。
「……ありがとう、師匠。早速着てみるよ」
ソフィアからの思いがけない贈り物に私は深く感謝し、着替える。
ワンピースは私の身体にちょうどよくフィットし、私はひらりとスカートを揺らす。
それを見てソフィアはにこりと微笑んだ。
「気に入ってくれたようだな。何よりだ」
ソフィアはそう嬉しそうに言う。
私もソフィアからの贈り物に笑顔になっていた。
「すみません」
私たちがそんな風に歓迎の準備を進めていたとき、ダフネの声がした。
私はすぐに玄関に向かう。
「いらっしゃい、ダフネ、テオドラ」
「お邪魔しますわ、リンクス」
ダフネとテオドラは魔法使いであることを示す紺色のローブの下にお揃いの赤と白のワンピース姿で、服装まで同じなんてとても仲がいいと思わされた。
そんなふたりのダフネの方は笑顔だが、テオドラは相変わらずの警戒感だ。
「上がって。お菓子も準備しておいたよ」
そう言い私はふたりを家に上げる。
ダフネはどこまでも上品な仕草で家に上がり、テオドラはその後ろからお化け屋敷にでも入るようにそろそろとついてくる。
「やあ、よく来たな、ふたりとも。ゆっくりしていってくれ」
「はい、ソフィア先生」
ソフィアも笑顔でふたりを出迎え、ダフネは丁寧にお辞儀した。
「しかし、いいお家ですね。周囲は静かで、見晴らしもよくて。こんな場所がロンディウスにあるとは初めて知りましたわ」
「アンドレアスに貰ったんだ。私たちも気に入っている」
「アンドレアス議員に?」
そこでダフネが少し驚いた様子を見せる。
「有名な人なの?」
「ええ。西部連合の有力な政治家のひとりですわ。次期連合議長とも目されている人で、西部連合有数の資産家でもあります。大きな交易会社をいくつも持っておられ、魔法学校にも多額の献金をされている方ですわ」
「そうだったんだ……」
アンドレアスは気のいいおじさんという感じだったんだが、思った以上に力のある人だったらしい。
私はそのことに少し驚く。
敵であった私たちを引き入れるには周囲を納得させなければならなかっただろうし、アンドレアスにはそのための政治力があったんだろうとは思っていたが……。
「アンドレアス議員とはテオドラも知り合いですね」
「テオドラが?」
「ええ。テオドラの父も議員で、アンドレアス議員と親しくしていたはずです。でしょう、テオドラ?」
私が意外な接点に首を傾げたのに、ダフネがテオドラにそう尋ねた。
「う、うん。父は議員だから多少はアンドレアス議員とも繋がりがあるけど……。私は父の仕事はよく知らないから親しいかどうかまでは……」
テオドラは困った様子でそう応じる。
「あの、もしかして、魔法学校の生徒ってみんな家族が魔法使いだったり、議員だったりする……?」
私は少し心配になってそうダフネに聞く。
ダフネは少し考えてから首を横に振った。
「確かに家族で代々魔法使いをやっている家系は多く、魔法学校の生徒の大半を占めますわ。しかし、西部連合はその門戸を広く開いています。中には魔法使いとは無縁の人生だったけれど魔法使いに憧れて入学したものもいます」
「そうなんだ。少し安心した」
「どうしてです?」
「私は孤児だったし、ずっとソフィアと街から離れて暮らしていたから。礼儀とかマナーとかそういうのに疎くて。みんなが当たり前のように知っていることを知らなかったらやだなと思っていたんだ……」
私のその言葉を聞いて反応したのはダフネではなく、テオドラだった。
「え……。リンクスちゃん、両親は……?」
「知らない。私は赤ん坊のときに捨てられたから」
「そうなんだ……」
テオドラは初めて私に警戒のそれではなく、同情の色を見せて呟いた。
そう見られるのは自分を憐れんでいるようで好きじゃなかったけれど、テオドラが私をアンドロポリスの災厄ではなく、人間として見てくれたのは嬉しかった。
「安心して。ずっとソフィアがいてくれたから、私は別に不幸じゃないよ。こうして魔法も使えるようになったし」
「……けど、傭兵だったんだよね? 戦争にいかなくちゃいけなくて……」
「……うん。確かに戦争は辛いこともあったけれど、でもソフィアと一緒だったから平気だったよ」
テオドラが心配した様子でそう尋ねるのに私は僅かに微笑んでそう返す。
それを見たテオドラは警戒や同情から変わって、自分たちとは明白に違う理解できない異質の何かを見るような目になった。
「リンクスちゃん。赤ん坊のときにソフィア先生に拾われたの? だから、そこまでソフィア先生に……その……信頼をおいているの?」
「違うよ。私はソフィアに出会ったのは8歳のとき」
「それまでは孤児院に?」
「……そんなところ」
スラム街で残飯を漁り、盗みを働いて生計を立てていたという話はしたくなかったので、私は視線を僅かに逸らしてはぐらかした。
それを知られるのは恥だと思ったし、これ以上憐れまれたくもなかった。
「そうか……」
テオドラはそう呟くように言う。
何か納得したような、そんな感じであった。
しかし、具体的に何に納得したのかは分からない。
もしも、私がソフィアに救われたことが伝わっていれば何よりなのだが。
「テオドラ。リンクスにも事情があったのだと理解できたかしら?」
「そ、そういうわけじゃ……。今でも私は納得してないよ。リンクスちゃんたちがロンディウスを襲ったことは」
ダフネがそう笑って尋ねるのにテオドラは首を横に振る。
「けど、今はダフネちゃんの友人だから、これ以上責めることはしない。それだけ」
「ありがとう、テオドラ」
「勘違いしないでね。私は許したわけでも認めたわけでもないよ!」
私がお礼を言うのにテオドラはそう主張し、ダフネの後ろに隠れた。
「分かっているよ。そう簡単に許しが得られないことは……」
私は大勢を殺した。
それを今さら後悔しているわけではない。
あれは戦争だったんだ。
殺さなければ殺されていた。
だから、殺してきた。
それにソフィアのために私ができるのは敵を殺すことだけだったから。
それ以外に私に価値などなかったから。
私がそう思っていたとき、ダフネが急にぎゅっと私を抱きしめた。
「大丈夫。私はあなたを許しているわ。あなたを許さない人間がたとえ多くいても、許した人間がここにひとりはいると覚えておいて。リンクス、あなたは強い。だから、人の悪意ぐらいで挫けないで」
私の耳元で囁くようにそういうダフネ。
彼女の温もりを感じて、私は少し安堵したような気分になった。
ソフィアも私たちの様子を目を細め、優しく見守ってくれている。
「……これじゃあ私が悪者みたいだよ」
その様子を見てテオドラがそう愚痴る。
「テオドラ。あなたもいつかリンクスを許してあげて。あれは戦争だったのだと」
「……すぐには無理だよ。今はまだ……」
「ええ。すぐでなくていい。この人生のどこかで、いつかは許しを」
ダフネはテオドラにそう言って笑いかける。
ダフネは本当に強い。私と同年代とは思えないほどに。
彼女のあの強さが私にもほしいと思えるほどに。
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