TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──ロンディウスの休日//倉庫街
それから私たちは家でお菓子を食べながら、学校の話をした。
生徒たちの噂話や教職員の評価などなど。
ソフィアは私たちを邪魔しないようにと気を使ったためか、2階に引っ込んでいる。
「カリクレス先生のこんな話をご存じ?」
「どんな話?」
「カリクレス先生は若いころ、リウィア隊長の上官だったのよ。西部連合の魔法使い隊を率いていたのはカリクレス先生で、リウィア隊長は副隊長だったの」
「へえ」
カリクレス先生は50歳前後だ。
その彼はかつてリウィアの上官だったとダフネが語る。
「カリクレス先生はどうして隊長をやめちゃったの?」
「『前線に魔法使いを送るだけではなく、後進の育成に励まないといけない。さもなければ戦争に負ける』と主張したそうよ。彼がイレーネ連盟長に訴えて魔法学校を大きく拡大し、今の形にしたと聞いているわ。戦争で大勢の魔法使いが死んだことを考えれば、彼の考えは正しかったわね」
「……確かに。帝国はずっと魔法使いの戦力と言う面で劣勢だったから……」
西部連合が優秀な正規魔法使いや傭兵魔法使いを次々と繰り出したのに対して、帝国軍はコルネリアたちのような魔法学校を卒業したばかりの魔法使いを投入しなければならなかった。
西部連合の勝因がカリクレスの提言によるものであるならば、彼は恐ろしく先見の明があったということだろう。
「しかし……」
そこでダフネが周囲を見渡す。
「あまり家具がないのね。引っ越してきたばかりだからかしら?」
「うん。家具ギルドにはいろいろと注文はしたんだけど、まだ届いていないんだ。殺風景でごめんね」
「いえ。気にしないで。引っ越したばかりならしょうがないわ。けど、小物の類は家具ギルドでなくとも扱ってるから、今から見に行かない?」
私が言うのにダフネはそう提案する。
「いいの?」
「もちろん。テオドラも一緒に行くわよね?」
ダフネは私たちの話を聞いていたテオドラにそう尋ねる。
「う、うん。一緒に行くけど……」
「けど?」
「私も欲しいものがあるから、寄り道していい?」
テオドラはダフネにそう聞く。
「ふむ。いいかしら、リンクス」
「うん。案内してもらうのに文句は言わないよ」
私はダフネの提案に頷く。
このロンディウスにはまだ慣れていない。
そういう意味でも長くこの街で暮らしていたダフネたちに案内してもらうのは、いいことだろう。
「じゃあ、師匠に出かけるって言ってくる」
私は2階に上がっていた師匠の下に行き、これから出かけることを知らせた。
「師匠。これからダフネたちと出かけてくるよ。小物を置いている店を教えてくれるってことだから」
「そうか。なら、金が必要だな」
そういうとソフィアは何枚かの銀貨と銅貨を私に手渡した。
「しっかりと楽しんでこい、リンクス。友人と過ごす時間はお前にとって貴重な時間になるだろう……」
「了解、師匠」
ソフィアはそう微笑み、私を送り出した。
ソフィアは本当に私に友人ができたのが嬉しいみたいだ。
だけれど、どこかソフィアは切なそうな色も見せていた。
私が離れていくように感じているのだろうか……?
ソフィアは孤独な人生だったと自分のことを評価している。
彼女の話してくれていない帝国での政争。
恐らくはそれが原因で彼女は友人を失ったのだろう。
それならば私だけは彼女から離れず、ずっとそばにいてあげたい。
そう思った。
「ダフネ、テオドラ。お待たせ。行こうか」
「ええ」
私はそんな思いを胸に、ダフネとテオドラに合流。
ダフネたちとともに私は家を出て、ロンディウスの街に繰り出す。
「リンクス。交易品を扱っている市場のことは知っている?」
「確か倉庫の付近にある市場だよね?」
「そう、そこに交易品の異国で作られた小物などがあるの。いい品があったりするわ」
「でも、お高いんじゃ……」
「大丈夫。私たちの財布でも手の届くものよ」
ダフネはそう言って安心させるように笑い、私たちは海沿いの倉庫街にある市場を目指した。
私はそこに近づくにつれて心臓が早鐘を打つのを感じた。
それは財布の心配をしているわけではない。
倉庫街は一度私が吹き飛ばした場所だからだ。
私はロンディウス奇襲作戦で港に向けて爆轟魔法を放った。
西部連合の艦船と港湾施設を狙った攻撃で、倉庫も吹き飛ばされている。
誰かが私のことを覚えていたら……。
そう思うと引き返したくなる。
だが、この街に住んでいる以上、いつかは受け入れなければならない。
そう思って私はダフネたちとともに足を進めた。
「ここよ」
ダフネたちが案内してくれたのは、やはり一度は私が吹き飛ばした倉庫街であり、今では新品の倉庫が立ち並ぶ場所であった。
私は周囲から敵意を向けられているように錯覚し、挙動不審になっていた。
「……大丈夫、リンクス?」
「……うん。でも、ここは一度は私たちが破壊した場所だから」
「そうだったわね。ごめんなさい。気が回らなかったわ……」
「気にしないで。せっかく来たんだから見て回ろう」
私は謝るダフネにそう言い、ロンディウス倉庫街付近の市場を見て回る。
そこには異国の織物や香辛料と言った交易品が並び、人種も雑多だった。
このロンディウスが国際港であると言うのを感じさせられるものだ。
しかし、私の方は依然として敵意や殺意を向けられるのではないかと恐れていた。
兵士が96名、民間人が28名。
それだけの数が私の港湾攻撃で犠牲になっているのだから。
「おい、そこの銀髪!」
そこで不意にそう呼びかけられたのに私はびくりと身を竦ませた。
「リンクス! 久しぶりだな!」
「ああ。オドアケル……驚かせないでよ……」
声を掛けてきたのは幸いにもオドアケルだった。
彼は今日は彼よりも若い女性を連れている。
黒髪に淡い緑色の瞳をした、意志の強そうな女性だ。
「そちらの女の人は?」
「俺の妻のテッサロニケだ。とは言っても、結婚したのは昨日だがな」
「ええっ!?」
オドアケルが結婚していたということと、それがほんの昨日だということの両方に私は驚く。
オドアケルとテッサロニケはそんな私に笑いかける。
「そうよ。昨日結婚したの。出会ったのは先週かしら?」
「何というスピード結婚……」
私はもうちょっと結婚には時間がかかるものだとばかり思っていた。
「俺たち傭兵ってのはいつくたばるか分からない職業だからな。こういうのは戦争と一緒で迅速にやらないといけない。じゃないと、一生伴侶も子供もできずに虚しく人生を終えちまうよ」
「そうだね……」
私とソフィアもいつ命を落としてもおかしくはなかった。
切り抜けられたのはソフィアの機転と幸運のおかげだ。
そのようないつ死ぬかもしれない刹那的な人生ではオドアケルのように生きるのが適切なのかもしれないと私は彼の言葉に納得した。
「リンクス。この方は?」
「オドアケル。ヴォルフ傭兵隊の隊長だよ」
「あのヴォルフ傭兵隊の!」
ダフネとテオドラが怪訝そうにオドアケルを見ているのに私は彼女たちにオドアケルを紹介する。
「ヴォ、ヴォルフ傭兵隊ってロンディウスを救った傭兵ですよね? 凄い!」
「ははははっ! まあ、西部連合の正規魔法使いが時間を稼いでくれたおかげだ。時間稼ぎがなかったら正直やばかったぜ」
テオドラが憧れの表情でオドアケルを見るのにオドアケルはそう豪快に笑った。
「そう、西部連合の正規魔法使いが……」
「ん? その顔はどこかで見たことがあるな」
ダフネが呟くように言うのにオドアケルがダフネの顔をまじまじと見る。
「お会いしたことはありませんよ、オドアケルさん。ただ私の父は会っているかもしれません。父の名はヨアニス。ロンディウス上空で散った西部連合の正規魔法使いです」
「……そうか。それはしかし……」
ダフネの言葉にオドアケルは私とダフネを交互に見る。
「……リンクスのことは許してやったのか?」
オドアケルは少し遠慮した様子でそう尋ねる。
「ええ。彼女は強い。私に父を倒したに相応しい、と」
「ははは! そいつはいい。実に剛毅な娘だ。もう少し年が上ならお前に求婚してたかもな!」
ダフネが真っすぐオドアケルを見て言うのに、オドアケルはまた笑う。
すると、すぐに脇腹にテッサロニケから肘鉄を食らった。
「あんた、私以外に結婚を望む人間はひとりもいないって言ったじゃない。それとも結婚して昨日今日で浮気なの?」
「お、おいおい。流石に俺も魔法学校に通っているようなガキは相手にしないぜ」
「どうだか!」
テッサロニケがご立腹なのにおろおろと慌てるオドアケル。
そんなふたりを見て、私もダフネもテオドラも笑っていた。
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