TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
……………………
──ロンディウスの休日//帝国
ガイウス将軍に脅迫を受けていたことを語る私。
その話を聞いてオドアケルたちの表情が変わった。
「なるほどな。確かに帝国中央に知られたら厄介なことになったかもな」
「……やっぱり?」
私はガイウス将軍やソフィアの言葉しか聞いていなかったので、実際に無詠唱魔法が帝国でどんな扱いを受けるか分からずにいた。
ガイウス将軍は解剖されるなどと言い、ソフィアも迫害か道具かで自由はなくなると言っていたが……。
「間違いない。帝国中央の連中は自分たちの派閥のためならば何だろうとやる。魔法使いをひとり解剖台に送って派閥が有利になるなら、一瞬も躊躇わずにそうするだろう」
オドアケルは確かな嫌悪を込めてそう言う。
「帝国中央の腐敗は私たちのような子供でも聞いていましたが……。しかし、そこまで酷いものだったとは……」
「ああ。帝国中央は腐っている。どうしようもない状態だ。俺たちも最初は帝国中央に雇われようかって思ってたんだが、連中は将軍が功績を誇るために傭兵を捨て駒にするって聞いてやめた」
ダフネが言い、オドアケルが吐き捨てるようにそう言った。
「しかし、どうしてあれほど強いお前とソフィアが帝国軍なんぞについているのかと思ったが、そういう事情があったんだな。納得したぜ。そのガイウスって将軍も帝国中央の人間らしく意地が悪いな」
「そうだね……」
ガイウス将軍も帝国軍の勝利ではなく、自分自身の勝利のために行動していた。
そのためにはべリサリウスのような同じ帝国軍の人間を手に掛けたし、私とソフィアを使い捨てにもした。
思えば彼もどろどろの政争にどっぷりと浸かった人だったな。
「ねえ、オドアケル。ガイウス将軍についての情報は入った?」
「いや。まだ何も。……もしかして、復讐を考えているのか?」
オドアケルは少し目を細めて心配そうにそう尋ねてくる。
「いいや。ガイウス将軍には確かに見捨てられたし、脅されていいように使われたけど復讐をする気はないよ。ただ、彼がどうなったかを知りたいだけ」
「そうか……。お前も割とできた子供だな」
私はガイウス将軍に何かをやり返したいわけではなかった。
ただ彼がまだ生きているのか、生きているとすれば帝国中央で彼の望み通り魔法使いの派閥を作れたのか。
それが気になるだけだ。
どうして知りたいのかと言われれば私たちが彼の勝利のために戦ったからと言う理由で十分だろう。
結末を知る権利ぐらいは私にもあるはずだ。
「まあ、ガイウス将軍については調べておく。帝国中央と西部連合が講和したことで、また往来が盛んになって、噂話も流れてくるようになったからな」
私のそんな思いにオドアケルはそう約束してくれた。
彼はいい人だ。少なくとも戦場で敵として対峙しなければ。
「しかし、酷い話ですわ。弱みを握り、それによって脅して戦わせるなんて。帝国中央は魔法使いを何だと思っているのでしょうか」
「そうだね。いくら何でも酷いよ」
ダフネが憤慨し、テオドラも私の方に幾分かの同情の視線を寄せた。
警戒が解けてきているのは嬉しいけれど、同情や哀れみを寄せられるのは、少しばかり私の願いと違った。
テオドラともダフネのように対等な友人になりたいのだ。
だけど、それは難しいだろう。
テオドラの最愛の友人はダフネで、私が入り込む余地はない。
「そう言えば魔法官って何か知っている?」
私はずっと疑問だったことについて尋ねる。
ガイウス将軍は私のことを魔法官という役職の人間に報告すると脅していた。
しかし、私は魔法官なる役職をまるで知らない。
「ああ。帝国における魔法使いと魔法院を統括する魔法使いだ。西部連合のイレーネ連盟長みたいなもんか。ただ帝国の場合は、例によってそのポストは政争の種になっている。どの派閥も自分たちに有利な人事をしようとしているからな」
「なるほど」
私は魔法官が私を解剖するとか、異端として迫害するとかいう話を聞いて、魔法官に中世の異端審問官のようなイメージを持っていた。
だが、イレーネと同じだと言われると不思議と怖くなくなった。
「地位が同じってだけでスタンスは大きく違うぞ。帝国の魔法官はどいつもこいつも年寄りの守旧派がなっていた。新しいものを迫害し、排除し、受け入れない連中だ。西部連合とはそこが致命的に違う」
「そっか……」
ガイウス将軍が帝国中央に結局報告したのだとすれば、私がソフィアと暮らしていた山小屋に戻るのはおおよそ不可能になってしまったと、そう思っていい情報だった。
ここでの暮らしも悪くないけれど、もう永遠にあの山小屋に戻れないのには……やはり寂しい気がする。
「お前は西部連合の正規魔法使いになるんだろう? なら、もう帝国魔法官なんて関係ない話だ。それよりもきな臭くなっているのは南方だ」
「南方、ですか?」
オドアケルが言うのにダフネが首を傾げて尋ねる。
「ああ。西部連合は南方と少なくない取引があるんだが、その南方で帝国に対する反乱が起きているらしい。三月教徒とかいう連中が帝国の打倒を掲げているって噂だ」
「独立ではなく、打倒?」
「そう、打倒だ。連中は帝国中央を倒したいって話らしいぞ」
「それはまた……」
西部連合でも勝利条件は帝国からの独立だけだった。
だが、南方で起きている反乱は帝国の体制打倒を目指すものだと言う。
「反乱勢力は海賊行為をやっていて、そのせいで西部連合にも被害が出ている。西部連合が帝国を助けるために派兵するって可能性はなきにしもあらずだな」
奇妙な話になってきた。
この前までは敵同士で戦っていた西部連合と帝国中央が、三月教徒の反乱という事態に手を組むかもしれないと言うのだ。
「まあ、まだ決まった話じゃない。だが、俺たち傭兵は次の仕事のために情報を集めなきゃならん。恐らくこの戦いも西部連合の側に付くべきだろうな。三月教徒にどんな自信があるかは知らないが、帝国中央は腐っていても簡単には倒れん」
オドアケルはそう言い食後のデザートとして運ばれて来た果物を頬張る。
「……けど、結婚したばかりなのにもう戦争に行くの?」
「ああ。そのことはテッサロニケだって理解してくれている。だろう?」
私が心配して尋ねるのにオドアケルはそう言ってテッサロニケの方を見る。
「ええ。理解してるわよ。留守中のことは任せときなさい。あんたが死んだって知らせを受けるまではしっかり帰る場所を作っておいてあげる」
「頼もしい女房だよ、お前は。これからよろしく頼むぜ」
テッサロニケさんは笑ってそう言い、オドアケルもにやりと笑う。
彼女たちは昨日結婚したというのに、もう熟年夫婦のような信頼を持っている。
それは彼らの明るさのためだろうか?
それとも刹那的に生きている人生が要因のものなのだろうか?
いずれにせよ私にはオドアケルとテッサロニケの仲の良さが羨ましかった。
私とソフィアはああなることはできないと思うと、悲しくなるくらいに羨ましい。
「じゃあ、そろそろ解散とするか」
昼食の時間も終わり、お喋りの種も尽きたのでオドアケルがそう提案。
この場の支払いはオドアケルが持ち、私たちは彼らと分かれた。
「またな、リンクスとその友達」
「うん。またね、オドアケル、テッサロニケ」
私たちは別れを告げて、それぞれの道を進む。
「そう言えばテオドラ。あなたが買いたいものって買えたの?」
「あ。まだだった! 寄り道していい?」
「ええ。暗くならないうちに済ませましょう」
私たちはテオドラの買い物のために、倉庫街の市場から中央広場の方を目指す。
そしてテオドラの目指していた目的地に到着した。
「ここは……本屋?」
「そう、私が買いたいものは本なんだ」
私たちが訪れたのは本屋であった。
古い紙の匂いとインクの匂いがする、そんなお店だ。
「どんな本を買うの?」
「そ、それは内緒だよ」
私が尋ねるのにテオドラはそう言って店内に入っていた。
「私たちも見て回りましょうか?」
「うん」
テオドラに続いて私とダフネも店内に入る。
……………………