TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──ロンディウスの休日//恋の話
私たちはテオドラに続いて本屋に入った。
書店は所狭しと本棚が並び、そこにはぎっしりと本が。
「こんなにたくさんの本、初めて見た……」
「あら? 図書館とかに行ったことは?」
「……ないね」
少なくとも今世ではこれだけの本が集まった場所は初めて見た。
前世では本屋や図書館には当然行ったことがあるけれど、ここはその雰囲気とはまた違っていた。
何というか本がとても高価なものとして扱われている感じだ。
「テオドラは何の本を買いに行ったんだろう?」
「教科書、ではないわね。教科書なら学校のそばの本屋で買えるから」
「ふむ」
教科書以外の本となると娯楽作品だろうか?
私はこの世界に転生してから、この世界にどういう娯楽作品があるかを知らない。
前世では身体が弱かったので本ばかり読んでいた私だが、今世ではさっぱり本に興味を示していなかったことに気づく。
まあ、当然と言えば当然だろう。
スラム街の生まれでは本など手の届くものではなかったのだから。
ようやく人生にゆとりが生まれたということなのだろう。
「気になるね」
「ええ。少し気になるわね」
テオドラはどんな作品を買うのだろうか。
私たちはそれが気になってこっそりテオドラのあとをつける。
テオドラが本を探しているのは、ちょっと安っぽい装丁の本が並ぶ場所だった。
恐らく低価格帯の本なのだろう。
大きさも文庫本サイズであり、表紙には──重なりある彼岸花のイラスト……?
そんな本をテオドラは何やら頬を赤らめながら選んでいる。
「もしかして……エッチな本……?」
「そ、それは不健全だわ……」
私が呟くように言うのにダフネも頬を紅潮させた。
「でも、普通そういう本は未成年の目の届かないところに置いてあるはずだし……」
「そ、そうよね。普通の本……よね?」
店主である老人が私たちの様子を見ているが、子供が近づいても大丈夫な本らしく老人はぼんやりと手元のパイプを弄っていた。
「あ。カウンターに持っていったよ」
「私たちも見てみましょう」
テオドラがカウンターに本を持っていったのと入れ違うように私たちはテオドラが見ていた本のコーナーに向かう。
「『乙女と彼岸花』? どういう内容なんだろう?」
本にはあらすじなどは書かれておらず、立ち読みするわけにもいかない。
立ち読み禁止と店内に書いてあるからだ。
「エッチな本ではなさそうね」
「うん。でも、どういう内容なんだろう? 気になるな……」
私は本を手に取り、値段を見るとやはり比較的安かったことを確認する。
生活にゆとりが生まれて娯楽に興味が生まれてきた。
ここは前世のように読書を趣味にするのもいいのかもしれない。
「私もこれを買うよ。手が届きそうな値段だし」
「そう? 面白かったらあとで感想を教えてね」
「了解」
私もテオドラが店を出てからカウンターに同じ本を持っていき、購入した。
「おや? お嬢ちゃんも同じ本を買うのかい? 学校で流行っているのかね……」
店主の老人はそう言いながら丁寧に本を紙に包み、私に差し出してくれた。
私がそれを受け取ってダフネとともに店を出ると外ではテオドラが待っていた。
「さて、今日の用事はこんなところかしら?」
「そろそろ暗くなるね。寮に戻ろう、ダフネちゃん」
「そうね。門限を過ぎてしまうわ」
テオドラが促すのにダフネが頷く。
確かに太陽は海に向けて傾いており、もう少しでオレンジ色の夕日になるだろう。
「では、また明日、リンクス」
「うん。また明日ね、ダフネ、テオドラ」
私たちは本屋の前で別れ、それから私は自宅へと帰った。
購入した小物などが入った袋を飛行魔法で抱えて、自宅への道を歩いていく。
「ただいま、師匠」
「お帰り、リンクス。楽しかったか?」
ソフィアは私を玄関で出迎えてくれた。
彼女は私が笑顔で戻ってきたのに、嬉しそうに微笑んでいた。
「うん。いろいろと買ってきたよ」
そう言って私は小物をダイニングのテーブルの上に広げる。
コップや皿、ちょっとした敷物と言った小物を私は購入してきた。
「そのリボンも買ったのか?」
「そう。師匠と一緒のポニーテイルだよ。似合う?」
「似合っているぞ。よかったな……」
ソフィアはそう言い、私の方を慈しむようにじっと見つめた。
その表情には愛情だけのように見えながら、どこか切なさも感じられた。
私が遠くに行ってしまったかのような、そんな表情だ。
「師匠。オドアケルにまた会ったよ」
「ああ。あの傭兵隊長か……」
「昼食を奢ってもらった。それから彼は結婚していたよ」
「ほう。傭兵が結婚か。それはまた難儀な……」
私の言葉にソフィアは苦笑してそう返した。
「……師匠は結婚しようと思ったことはないの?」
私は気になっていた。
ソフィアがこれまで男性と結婚しようとしたことがあったのかを。
孤独な人生だと言っていた彼女だが、恋したことはあるのだろうか……?
「……ないわけではない。だが、私の場合は報われないものだったからな……」
ソフィアはそう言うにとどめ、それ以上自分の身の上を語ろうとはしなかった。
彼女の言う報われない恋の話と言うのはどういう話だったのだろうか……。
やはり私はソフィアのことを全然知らずにいる。
「さて、夕食の準備をしなければな」
ソフィアはそう言い、朝購入した食材で料理を始めた。
私は早速買ってきた皿やコップを使って、料理の盛り付けを手伝った。
今日はパンとチーズ、そして魚介のスープだ。
「美味しいね」
「ああ」
ダフネたちとの賑やかな食事もいいけれど、ソフィアとのふたりきりの静かな食事も、私は大好きだった。
山小屋での生活から続く、ふたりきりの時間だから。
私たちは静かに食事を済ませ、食器を片付けてから寝室に戻る。
寝室には買ってきたランプが置かれ、ろうそくの光がそれを輝かせていた。
私はその明かりで買ってきた本を開く。
「本を買ってきたのか、リンクス?」
「うん。友人が買ってたんだ。興味があったから私も買ってみた」
「そうか。たまには娯楽作品も楽しまなければな……」
私はソフィアの隣で本を読む。
内容は……。
「へえ……」
内容はとある貴族の女性が恋をする話だった。
ただし、相手は同じ女性であり、しかも対立する家の女性だ。
そのお相手の女性は男勝りな勇敢さであり、そこに主人公は憧れていく。
しかし、ふたりが愛し合う一方で、家同士の争いは激しさを増していき……。
……という感じのストーリーであった。
しかし、テオドラがこういう本を読んでいるとは思わなかった。
完全にこれは百合──ガールズラブの本だ。
もしかして、テオドラがダフネに抱いている感情は友情だけではないのだろうか?
いや、考え過ぎか。本1冊で人の嗜好が完全に分かるわけではない。
だけれど、この物語を読んでいるとテオドラとダフネが連想されてしまった。
ダフネは確かに勇敢だし、テオドラも彼女を大事に思っているから。
「そろそろ寝るぞ、リンクス」
「はい」
ソフィアはそう言って魔法でランプの光を消し、私たちは同じベッドに潜る。
ベッドの中でも本の内容とテオドラとダフネのことが気になってしまった。
彼女たちが本のような愛情を持っていて、それが許されたとしたら……。
私はそっとソフィアの寝顔を見る。
ソフィアの顔はやはり美しく、私は見惚れてしまう。
すっと通った鼻筋や形のいい唇。眠っていても美しい。
許されるのだとすれば、私もソフィアの特別な人になりたい。
彼女が唯一愛する人になりたい。
だけど、それを求めたことでソフィアとの距離が離れてしまうならば、私はそれを求めない。
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