TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──特別な感情//本の感想
私は翌朝、いつものようにソフィアとともに魔法学校に通う。
丘の上から海を見ながら学校に通えば、また学校での生活が訪れる。
「おはよう、ダフネ」
「おはよう、リンクス」
いつものように私はダフネに挨拶する。
しかし、私の視線は自然にテオドラの方に向けられていた。
テオドラはダフネの隣で教科書を広げていて、いつも通りだが……。
彼女は私が昨日読んだ本を読んでいる。
テオドラのダフネに対する気持ちは、ただの友情なのだろうかという疑問が私の中に生じていた。
「リンクス。昨日の本は面白かったかしら?」
「う、うん。面白かったよ」
私は不意にダフネにそう問われて動揺。
テオドラのことを考えれば、あの本の内容は明かせないなと思っていた。
「テオドラ」
「な、何、リンクスちゃん?」
「あとで少し話があるんだけどいい?」
「……いいけど」
テオドラは警戒した様子で頷く。
彼女は私を完全に拒絶することはなくなったが、未だ私のことを不審には思っているようだった。
「じゃあ、あとで」
私はテオドラに聞きたいことがある。
* * * *
それから朝一番の講義が終わり、私とテオドラは空いている講義室にやってきた。
「……ねえ、リンクスちゃん。ダフネちゃんも外して話がしたいって何……?」
「テオドラ。昨日、この本を買っていたよね?」
そう言って私は昨日本屋で買った本を見せるとテオドラが目を見開き、耳まで真っ赤になった。
「ど、ど、どうしてそれを……」
「ねえ、テオドラ。テオドラとダフネってただの友達という認識でいいの? もしかして、この本の内容みたいに、その、テオドラはそれ以上の関係を求めてるんじゃないかって思って……」
慌てるテオドラに私はそう問いを重ねる。
テオドラは少し戸惑った様子ながら、じっと私の方を見る。
「……他の人には言わないって約束してくれる?」
「もちろん誰にも言わないよ」
テオドラが声を低めてそう言うのに私は頷く。
「……別にあの小説みたいにダフネちゃんのことを思っているわけじゃないよ。だけど、ダフネちゃんのことを思うと心臓がきゅっとなるっていうか、どきどきするんだ。これって何なんだろうって自分でも考えている……」
それから彼女は私にそう告白した。
私もソフィアのことを思うと特別な気持ちになる。
私とテオドラは似ているのかもしれない。
「……これってやっぱりおかしいよね? 女の子が女の子を思うなんて……」
「そんなことはないよ。私はおかしいとは思わない。ただ世間がどう思うかは分からないけれど……」
私は女性同士が思い合うことも、男性同士が思い合うこともおかしいとは思わない。
私の前世の世界はそういうものに寛容だった。
だけど、この世界がどうかは分からない。
ああいう小説が存在するということは完全な禁忌というわけではなさそうだが、実際のところはどうなんだろう……?
「……そうだね。女の人は男の人と結ばれる。それが当たり前だと思うし、世界はそうあるべきって作られているだって思う。だけど、それでも私はダフネちゃんのことを友人以上に感じているんだと思う……」
「テオドラ……」
そう語るテオドラはとても悲しそうで、見ている私まで胸を締め付けられた。
彼女は私と同じなのかもしれない。
私がソフィアに踏み込むことで逆に距離ができるのを恐れているように、テオドラもまたダフネに踏み込むことで距離ができるのを恐れているのかも。
「……その気持ち、分かるような気がする。私も好きな人がいるけれど、その人と結ばれることはできないと思うんだ。世界がそれを許してくれないって。それにもし、私がより深く踏み込んでしまったら、その人に拒絶されてしまいそうな気がするから……」
「リンクスちゃんも……」
私もテオドラが告白したのに応じて、事情を明かす。
ソフィアへの思いは単純な憧れから変わりつつあった。
私はソフィアを私に生きる希望をくれた人としてだけではなく、師匠としてだけではなく、彼女個人として、ひとりの女性として思い始めている。
「私、リンクスちゃんのこと誤解していたのかも……。リンクスちゃんは私たちとは全然違う怖い子だと思っていたけれど、私たちと同じこともあるんだね……」
テオドラはそう言うと私の手を握った。
「改めて友人になろう、リンクスちゃん。これまではごめんね……」
「気にしないで」
テオドラの言葉に私はそう返し、その手を握り返した。
私たちは同じ悩みを抱える人間同士だと認識したのだ。
「それでさ。リンクスちゃん、小説の方は面白かった?」
「うん。はらはらする展開だったね。どうかふたりをそっとしておいてあげてってところでも、お家の事情が出てきて妨げられて。なかなかふたりが幸せになれないのは、可哀そうにすら思ったよ」
「うんうん。そうだよね。けど、そうやってはらはらどきどきで、焦らされるのが面白いんだよね。すっとすぐに幸せになるより、いろいろと苦労した方が幸せもより引き立つっていうか」
「なるほど。深いね……」
テオドラの説明に私は頷く。
「似たような作品もあるから、よければ今度貸してあげるよ」
「本当? ありがとう、テオドラ」
私を同好の士として認めてくれたのか、テオドラは笑顔でそう提案してくれた。
「けど、リンクスちゃんが好きな人って……?」
「それは……今は言えない……」
「そうだよね。人に簡単に言えることじゃないよね」
「いつかは明かすよ。そのときが来たら……」
私はそう言い、テオドラに力なく微笑んで見せた。
ソフィアに私が思いを秘めていることは、今は明かせない。
それは今は私の心の奥に秘めておかなければならないのだ。
* * * *
それから私とテオドラの仲は良好なものとなった。
今や私たちは恋愛の本を貸し借りし、お互いに感想を述べあう仲だ。
「ふふ。リンクスとテオドラも打ち解けたのね」
そんな私たちを見てダフネも嬉しそうだった。
テオドラはそんなダフネの言葉の頬を赤らめる。
「それでも私の一番の友達はダフネちゃんだよ!」
「まあ、ありがとう」
ダフネはそれをリッピサービスだと言うように受け取っていたが、今の私はテオドラがダフネをどう思っているのか知っている。
テオドラはダフネのことが好き。友人以上に。
そう思ってふたりを見るとすれ違いを感じる。
ダフネの愛情は友人としてのもので、それ以上ではないのだから。
「さて、今日も講義を頑張りましょう」
「そうだね」
私たちは今日も魔法陣に関する知識や、詠唱に関する知識を得ていく。
私は特に魔法陣に興味があった。
魔法陣は魔導書を構成する重要な要素だ。
魔導書があれば、一般の人でも魔法で炎を起こしたり、水を出したりできる。
その魔導書をどのようにして作るのか。
それに興味があった。
「魔導書の作成に必要なのは第一に魔法陣に関する正確な知識」
魔導書の講義を受け持つ講師がそう言うのを私たちは聞く。
「次に正確な魔導書の魔法発動のための詠唱」
魔導書であっても詠唱は必要だと講師は言った。
「それから魔導書が効果を長く発揮するための特殊な鉱石の素材が含まれたインクだ」
ただのインクでも魔導書は効果を発揮するが、長持ちはしないと彼は言う。
特殊なインクを使えば魔導書は何年でも効果を発揮するそうだ。
私の他にもこの講義を熱心に聞いている生徒は多くいた。
というのも、魔法使いとして生計を立てるもっともいい手段が魔導書の制作だと知られているからだ。
魔導書が作れるのはその知識がある魔法使いだけで、魔法使いの専売特許である。
だから、その商売は非常に儲かるらしい。
私も講義を聞きながらソフィアと魔導書のお店を開くことを夢見たりなどした。
きっとそれは平和な日々になるだろうと。
そして、平和な日々の中であっても私に価値が付くことになるだろうと。
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