TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──養子縁組//友人たち
それからソフィアは次にイレーネに私の保護を頼みに行き、私はテオドラに相談することにした。
「ねえ、テオドラ」
「……どうしたの、リンクスちゃん?」
私が昼休みにテオドラに声を掛けるのに彼女は怪訝そうに応じる。
恐らくは私の顔に深刻さが見て取れたのだろう。
「少し話があるんだ。いいかな?」
「いいけど……」
テオドラはそう応じてくれ、私たちは昼休みで生徒がいなくなった講義室へ向かおうとする。
だが、そこで私たちを呼び止める声が。
「リンクス、テオドラ? 何しているの?」
「ダフネちゃん」
ダフネが私たちのあとを付いてきてそう声を掛けてきたのだ。
テオドラは『どうする?』というように私の方を見る。
「ダフネも一緒に話を聞いてくれる? 少し相談したいことがあるんだ」
「ええ。もちろんですわ」
私たちはダフネも加えて空いている講義室に入り、そこで話をすることに。
私はアンドレアスに養子縁組を迫られていることと帝国中央が私を狙っていることを、テオドラとダフネに語った。
「それは……あんまりだわ!」
私の話を聞いたダフネが声を荒げる。
「リンクスはひとりの人格を持った人間なのに、それを駒のように扱うなんて……! それに帝国中央はリンクスが捕虜になったときには助けようとしなかったのに、今さらになって自分たちの下に呼び寄せようとが都合が良すぎるわ!」
ダフネはそう言って私の悩みに共感してくれた。
だが、テオドラの方は考え込んでいた。
「……アンドレアス議員の言うことも分かるよ。魔法使いも政治家も婚姻で関係を構築する。私にも家の事情で婚約者がいるって分かったから……」
「……テオドラにも……?」
「まだ完全に決まったわけじゃないけど、同じ魔法使いの家系の人でちょっと年上。私だってできれば結婚する人は自由に選びたかったけれど、私たちは魔法使いだからそれは許されないのかもしれない……」
私が驚くのにテオドラは僅かにダフネの方を見た。
彼女が淡い恋心を抱いているダフネの方を切なそうに見ていた。
ダフネを思っていた彼女にも、それを引き裂くような戦略結婚の話が持ち上がっていたとは……。
「……テオドラ。あなたはそれを受け入れたの?」
「そうするしかないってことはずっと前から分かってたから……」
「そう……」
テオドラも我慢している。
彼女だってダフネのことが好きなのに、家のために政略結婚を受け入れているのだ。
私は……我がままなのだろうか……。
「けどね。リンクスちゃんはアンドレアス議員のために養子になる必要はないよ。アンドレアス議員から恩を受けたかもしれないけど、彼の家を支えなければいけないほどのものじゃないでしょう?」
「そうかもしれない……」
「そうだよ。私は自分の家のためだけど、リンクスちゃんは無関係の家だから。どうにかできないかお父さんに相談してみるよ。お父さんはアンドレアス議員と親しいから、何か手を打ってくれるかもしれない」
「……ありがとう、テオドラ」
私は友人たちに深く感謝した。
ダフネもテオドラも私のことを思ってくれている。
そのことがとても嬉しかった。
「同じ小説の愛読者だからね。これぐらいはしないと」
そう言ってテオドラはにこりと微笑んだ。
「私にもできることはないかしら? 私の家に政治的な力はあまりないけれど、今でも西部連合の魔法使い社会では発言力があるわ」
「なら、アンドレアス議員にリンクスちゃんを養子にしなくても、魔法使い社会との繋がりができるって示せないかな。そうすればアンドレアス議員が求めていることは達成されると思うから」
「そうね。やってみるわ」
ダフネもそう言って私の問題を解決するのに力を貸してくれることになった。
「けど、問題は帝国中央だよ。今の西部連合と帝国中央の関係は微妙だから、西部連合としても帝国中央と再び戦争になるような関係悪化は防ぎたいはず。だから、帝国中央がリンクスちゃんを強引に手に入れようとしてるならば……」
「西部連合の方はあまり強く対処できない、ということね」
「うん。そういう意味でもアンドレアス議員の養子になる以外に政治的な後ろ盾が必要だと思う。どうやっていいのかは分からないけれど……」
テオドラの言葉にダフネが頷き、テオドラは懸念を示す。
「何か手はあるはずよ。だから諦めないで、リンクス」
「うん。私も諦めない」
ダフネが私を励ましてくれ、私もそう決意した。
まだ諦めるわけにはいかない。
* * * *
それから私とソフィアは彼女の講師室で合流した。
「イレーネ連盟長も手を尽くしてくれるそうだ。西部連合にとってお前は失うわけにはいかない人間だと認識されている。その姿勢は西部魔法使い連盟としても同じであり、変化はないということだった」
「こっちもテオドラとダフネが協力してくれる。だけど、テオドラは帝国中央の手から逃れられる政治的後ろ盾が必要だって言っていたよ。そうじゃないと帝国中央が手を出してくるって」
「そうだな。帝国中央がガイウスから報告を受けるなどしてお前の無詠唱魔法に気づいているならば、多少強引な手を使ってもお前も手に入れようとするだろう……」
ソフィアは私の言葉にそう物憂げな瞳をする。
「イレーネ連盟長が政治的な背景になってくれればいいのだが……。現時点ではどこまで期待していいのか分からないな……」
西部連合は私を必要としている。
ただそれだけの理由で誰もが帝国中央と再び敵対してくれるかは分からない。
そういうことであった。
「私がもっと価値を示したら、彼らは守ってくれるかな……」
「価値を示す、か……。そう言えば近いうちに魔法の技術を競う競技会があるそうだ」
「本当に?」
「ああ。西部連合が正式に独立を果たしたことで、余裕が生まれたのだろう。魔法使いたちの技量を高め、国家として団結するためのものだ。その場でお前が優秀な成績を残せば、もしかすれば……」
好都合なことに西部連合で魔法の競技大会が開かれるという。
その大会で成績を残せば、西部連合の魔法使いたちにより私の価値を示せる。
そうすれば魔法使いたちも私を庇ってくれるかも……。
「なら、その大会に出よう。私は力を示すよ。私の価値を証明する」
「……よし。では、参加できるように手配しておこう」
ソフィアはそう言い、私は魔法競技会に参加することに。
「……師匠。少し聞いていい?」
そこで私は疑問に思っていたことを聞くことにした。
「師匠の帝国中央での日々はどうだったの?」
「……そう面白い話ではないぞ」
「聞かせて。私、師匠のことを全然知らないから……」
私はソフィアにそう求める。
私は少しでも知りたいのだ。ソフィアについて。
それは彼女の後悔の思い出であったとしても、それを受け止めたい。
「帝国中央の魔法学校はこことは違っている。もっと派閥争いが明白で、どこまでも殺伐していた。生徒同士、教職員同士、激しいライバル関係が存在していた。そんな中で私は魔法を学んでいた」
ぽつりぽつりとソフィアはそう語り始める。
西部連合の魔法学校では確かに学業成績で競い合うことはあっても、派閥で争うようなことはなかった。
それに西部連合の魔法使いたちは比較的仲が良く団結している。
だが、帝国中央はそうではなかったそうだ。
生徒たちも教職員たちも派閥に属し、その派閥のために無意味な争いをしていた。
いじめやそれ以上の暴力沙汰、賄賂などの裏取引は珍しくなく、学校は腐敗していたとソフィアは語る。
「私は派閥争いに無関係でいようと思っていた。当時の私にはそれが可能であると思っていたんだ。愚かだった。帝国中央で成り上がろうというのに、帝国中央を支配する派閥争いを避けれると思うなどとは……」
また強い後悔の色を滲ませるソフィア。
「ティトゥス長官から声がかかったのは、私が優秀な魔法使いであることを学校で示してからだった。あらゆる分野で独力で主席を勝ち取った私にティトゥス長官は援助の申し出をしてきた。私はティトゥス長官がどの派閥に所属しているのかも知らず、その申し出を受け入れてしまった」
それからソフィアはティトゥス長官に利用されたのだろう。
皇帝暗殺のための駒として。
「私がティトゥス長官に付いたと分かると嫌がらせが起きた。皇帝派閥や軍部派閥に所属する生徒や教師たちからの嫌がらせだ。私はそれから身を守るために、よりティトゥス長官に庇護を求めた。ティトゥス長官も私に派閥のための仕事をやらせた」
「派閥のための仕事って……?」
「ちっぽけな破壊工作から要人の接待までいろいろだ。学業とは関係のない、ただただ政争のためだけの無価値なことをやらされた」
私の問いにソフィアはそう答える。
「そうやってずぶずぶと派閥に取り込まれてゆき、私は自主性を失っていった。私のためと派閥のための境界はあいまいになり、私は自分でも何を望んで生きているのか分からなくなっていった……」
ソフィアが語っていた魔法使いがしがらみに縛り付けられて自分の人生がなくなってしまうということの意味が、私にはよく分かった。
彼女の人生はまさにそういうことで失われてしまったのだ。
「リンクス。お前は私と同じ轍を踏むな。お前は自由に生きろ……」
ソフィアはそう言い、私の頭をそっと撫でたのだった。
その仕草からは彼女の優しさと同時に後悔と物悲しさの色も感じた。
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