TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
……………………
──競技会//訓練
私は自分の価値を証明するために、西部連合が開く魔法使いの競技大会に出場することにした。
そのための手続きはソフィアが行うことになり、私は事の次第をすでに動いてくれているダフネとテオドラにも説明することにした。
「それは悪くないアイディアね、リンクス。きっと西部連合の市民はあなたの実力を見て、帝国中央に渡すわけにはいかないと思うわ。きっとあなたのことを保護する動きが生まれるでしょう」
ダフネはそう言ってすぐに賛成してくれたが、テオドラの方は複雑そうだ。
「けど、それはどうだろう……。あんまり目立つと余計に政治に巻き込まれちゃいそうな気もするんだよね……。確かにリンクスちゃんを西部連合に留めたいって気持ちにはなるんだろうけど……」
テオドラはそう心配そうに言って私の方を見る。
確かに彼女の言うことも私たちは心配した。
目立ちすぎればアンドレアスだけではなく、他の議員からも自分の家の養子にという声が出てくるのではないかと。
「それについては師匠がイレーネ連盟長に掛け合っている。もし、私が有力だと示せれば連盟の方で私を保護してくれるって」
「連盟? 西部魔法使い連盟の? 彼女の養子になるとかではなく?」
「そう、連盟の保護。まだ確かではないけれど……」
ソフィアはイレーネが私の政治的背景になってくれるかもしれないと言っていた。
それを確実にするために私は競技会で実力を示すのだ。
私の価値を示し、連盟に売り込む。
「それなら少し希望が見えてきたのかな?」
「そうね。それに私も競技会には出るつもりよ、リンクス。私と競い合いましょう」
そこでダフネが意外な発言をする。
「ダフネも競技会にでるの?」
「ええ。これは多くの魔法使いたちが注目しているものだから、私もそこで魔法使いとして力を示したい。私も父に並ぶ魔法使いになれるのだということを示したい」
ダフネも私と同じように力を示したがっていた。
彼女の場合は父であるヨアニスに追いつける可能性を示すため。
「リンクスは帝国の出身だから競技会は初めてよね? 競技の内容について簡単に説明しておきましょうか?」
「お願い、ダフネ」
私は魔法の競技会というのがどういうものかを知らない。
ただ魔法の力を示すのであれば、私はそれを示せるだろうと思っていただけだ。
「競技会には3つの種目があるわ」
ダフネはそう言って説明を始める。
「まず飛行魔法の技量を競う飛行競技。指定されたルートを可能な限り速く飛び、最初にゴールについたものが優勝よ」
まずは飛行競技だが、私はこれには向いていないだろう。
私はそれほど飛行魔法に長けているというわけでもないし、無詠唱であるという長所が生かせない。
「次は攻撃魔法の威力を示すものである破壊競技。魔法で作られた目標をいかに効率的に破壊するかが問われる競技ね」
これはよさそうだ。私の実力を示すには爆轟魔法を展開するのが一番早い。
「最後は演出競技。どれだけ美しく、壮大な魔法が使えるかを示す競技よ。今回は水を使った魔法というテーマがあるわ」
「へえ……」
最後は意外なことに戦闘に全く関係のない競技だった。
しかし、水を使った魔法か……。
デメトリオスが出場したりするのだろうか?
「ダフネはどれに出場するの?」
「私は飛行競技よ。これには自信があるの。リンクスは?」
「私は……破壊競技かな」
私が一番力を示せるのは間違いなく破壊競技だ。
爆轟魔法以上の破壊力が発揮できる魔法は、そうそうないだろう。
あれを示せば間違いなく私の価値を証明できる。
「では、お互い頑張りましょう」
「うん」
ダフネはそう私を励ましてくれ、私たちは競技会に備えることにした。
* * * *
それから私はソフィアから出場の手続きが終わったという連絡を受けた。
「師匠。私は破壊競技に出ようと思う」
私がそう明かすとソフィアは少し考え込むように視線を伏せた。
「……爆轟魔法を使うのか?」
「はい。そのつもりだけれど、何か問題が……?」
ソフィアがそう尋ねるのに私は怪訝そうに首を傾げる。
「……競技会はこのロンディウスで開かれる。そして、爆轟魔法は一度この都市を襲っている。力は示せるかもしれないが……」
そうだった……。
私はロンディウスに向けて一度爆轟魔法を放っているのだ。
それは彼らにとって恐怖そのものだっただろう。
私が爆轟魔法で破壊競技を競えば……余計な軋轢を生むかもしれない。
「……そうだね。不味い、よね……」
「だが、大丈夫だ。お前には爆轟魔法以外にも長所がある。それを示せばいい」
私が肩を落とすのを慰めるようにソフィアがそう言った。
「競技会に備えて訓練をするか? ぶつけ本番というのも不安だろう。それに多くの出場者が事前に訓練をしているようだからな」
「そうするよ、師匠。私の価値を示さないと……」
本来、自分の自由は自分で勝ち取るものなのだ。
私はそれをずっとソフィアに守ってもらい続けていた。
今回ぐらいは自分の力でしっかりと勝利と自由を手にしたい。
「では、今日から訓練を始めよう」
「了解、師匠」
そして私たちはロンディウスの城壁の外で訓練に励むことにした。
すでに破壊競技で破壊する目標は示されている。
それは旧式化し廃船となる予定の船で、海上にあるそれを破壊するのだ。
「これでいいだろう」
ソフィアは地面の土を操り、船に似せた構造を作ってくれた。
これをいかに効率的に破壊するかだ。
「競技会では指定された制限時間である15分以内により多くの船を破壊し、完全に沈めた人間が優勝だ。1隻にあまり時間をかけずに次々に破壊していけ」
船を沈めるのは簡単ではない。
完全に沈ませるには船体を徹底的に破壊する必要がある。
多少穴を空けたぐらいでは船はすぐには沈まない。
こういうときこそ爆轟魔法が役に立つのだろうか、爆轟魔法が使えない。
魔力の矢かあるいは質量攻撃で沈めなければならない。
「リンクス。お前が得意なのは高威力の魔力の矢だ。それで船体を完全に破壊していけ。詠唱が必要ないだけお前の攻撃速度は速い。他の参加者たちより多くの目標を撃破できるだろう」
「分かった、師匠」
私は可能な限り高威力の魔力の矢を形成し、ソフィアの作った土の船に叩き込む。
船に向けて放たれた魔力の矢は船の半分を蒸発させたように消滅させ、完全に破壊しきった。
「悪くない。いいぞ、リンクス。あとは海上にある目標に向けて効率的に飛行していくことだ。飛行訓練も怠るな。一度でも海に落ちたら厄介だ」
私たちはそれから飛行しながら魔力の矢を目標に叩き込んでいく訓練を行った。
素早く低空を飛行し、確実に船に魔力の矢を叩き込む訓練だ。
私は飛行魔法は苦手ではなかったし、それに詠唱が必要ないので攻撃魔法と飛行魔法を同時に展開するのも苦ではない。
そういう意味では私には利があった。
「リンクス。今の時点ではお前が有利だが、油断はするな。大会には西部連合の正規魔法使いが多く参加する。正規魔法使いの強さはお前も理解しているだろう」
「うん。分かっているよ、師匠」
西部連合の正規魔法使いは強い。
リウィアたちがそうであったように。
油断していれば無詠唱の私であっても負けてしまうかもしれない。
「さあ、この調子で訓練を続けるぞ。本番までに動きを身体に叩き込んでおけ。そうすればいざ本番でも緊張せずに動くことができる」
ソフィアはそう言い、私たちは訓練を続けた。
飛行し、破壊し、また飛行する。そういう訓練を何度も繰り返した。
私はソフィアに言われたように、身体に動きを叩き込む。
競技会の開催日は着実に近づいてきている。
……………………