TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──競技会//洋上飛行
競技会が近づいている。
西部連合の国家を挙げて行う大会であり、大勢の優れた魔法使いが参加するだけあって、ロンディウスの街も盛り上がり始めていた。
競技会開催を知らせる張り紙が酒場や食堂に貼られ、人々はその張り紙を見て誰が優勝するだろうかと話をしている。
学校にも参加者を募る張り紙があり、生徒たちも競技会の話で盛り上がっていた。
この場は、学校からは誰が出場するんだろうとか、参加するだろう正規魔法使いに生徒が勝てるかなとか、そういう噂話で持ちきりだ。
「リンクス。調子はどう?」
私がそんな生徒たちの様子を見ていると、ダフネがそう話しかけてきた。
いつものようにテオドラと一緒の彼女が、私の方へ歩み寄ってくる。
「悪くないよ。師匠と訓練を重ねてる」
「私も訓練を続けているわ。もう少しだものね。今日は洋上で飛行練習をするのだけれど、一緒にやらないかしら?」
「洋上飛行か……」
ダフネの提案に私は考える。
私たちの訓練はこれまでずっと地上を飛ぶもので、本番である洋上飛行の訓練はしていない。
一度は洋上飛行を行い、慣れておくべきなのかもしれない。
「分かった。一緒にやろう。どこに集まればいい?」
「お昼に港へ。カリクレス先生が監督してくれるわ」
「了解。あとで合流しよう」
ダフネの言葉に私は頷く、私はお昼にはソフィアとともに港に向かうことに。
* * * *
私たちはロンディウスの港にやってきた。
一度は私が爆轟魔法で破壊した場所には、すでに立派な桟橋が整備され、何隻もの船舶が停泊する賑やかな場所になっていた。
西部連合や異国の商船からはいろいろな交易品が積み降ろされたり、逆に積み込まれたりしている。
私はそんな港でダフネたちの姿を見つけて、駆け寄る。
「お待たせ、ダフネ」
この場にはダフネとテオドラ、そしてそれを監督するカリクレスがいた。
「リンクス。来たわね。では、始めましょう」
ダフネは早速やる気満々だった。
「テオドラもやるの?」
「いいや。私は応援だけだよ。ダフネちゃんもリンクスちゃんも海に落ちないように気を付けてね。昼食はお弁当作ってきたから、あとで食べよう」
「ありがとう、テオドラ」
テオドラは微笑んでそう言い、私とダフネは洋上飛行の訓練に臨む。
「両名ともテオドラ君の言ったように海に落ちるのには気を付けたまえ。優れた魔法使いでも一度海に落ちると再び浮上するのには時間がかかる。落ちたときはまずは慌てずに、冷静に飛行魔法を再行使するようにするんだ」
「はい、カリクレス先生」
海に落ちた場合の何が危険なのかといえばパニックになることだ。
水で口が塞がれて詠唱できないと、浮上できず、溺死してしまう。
だから、普通の魔法使いに必要なのはまずは落ち着き、それから身体で浮上することを目指す。
海難事故のときと同様にばたばたと無駄に暴れるのは逆効果。
落ち着いて身体が自然に海に浮かぶのを待つ。
それが重要だ。
「いざとなれば私も助けに向かう。心配はするな」
続いてソフィアが私とダフネを安心させるようにそう言う。
「では、始めよう。ついて来たまえ」
私たちはカリクレスに続いて飛行することになる。
生徒だけで無闇にロンディウスの港上空を飛行させる許可は下りなかったようだ。
以前、私たちによってロンディウスが空中から奇襲されたのを思えば当然か……。
『偉大なる精霊たちよ──』
カリクレスとダフネは詠唱し、私は無詠唱で空に浮かび上がる。
停泊している船舶のマストにぶつからない高度まで上昇して、それから私たちは沖へと向けて飛行した。
沖合にも大型船がまさにロンディウスに入港しようとしており、ロンディウスの海は実に賑やかだと思わされた。
「岬まで飛行する。ここからは高度を少し落とすぞ」
カリクレスが念話でそう指示し、私たちは高度を落として岬の方に飛行する。
速度を徐々に上げてゆき、私たちは岬に向けて飛んだ。
岬には小さな灯台があり、それが船を導くのだ。
そう言えばコルネリアたちが破壊した灯台がどうなったのだろうと思い、そちらの方に視線を向ける。
あの巨人の灯台は破壊されてなくなっていたが、それとは違う大きな灯台がすでに建造されていた。
この世界は魔法があるだけあって建築速度が文明水準より早いのだろう。
飛行魔法を使えば石材だって簡単に運べるから、重機がなくともいいのだ。
だから、建築作業の効率は下手すると私のいた前世より早いのかも。
私はそんなことを考えながら飛び、速度を上げていくカリクレスとダフネに続く。
ダフネはこれほど長い飛行は初めてなのか、うっすらと額に汗を浮かべている。
呼吸も若干乱れているが、それでも彼女は前を向いている。
一方私は地上ならばこれぐらい飛んだことはあるので、問題はない。
ただ、何のランドマークもなく、一度自分の位置を見失えば陸地に戻れなくなるだろう海上は少し怖かった。
やはり地面の方が本能的に落ち着くのだろう。
海は私たちを吸い込んでしまいそうなほどに広い。
「岬に到着したら、一度休憩だ」
カリクレスはそう言い、私たちは速度を上げて灯台のある岬に到着。
岬に到着すると私たちは速度を落とし、ゆっくりと着地した。
「どうだね? 本番とほぼ同じ距離を飛行したことになるが」
「ええ。やはりこれだけ長距離の洋上飛行は緊張します……」
カリクレスの問いにダフネが汗を拭ってそう返す。
「リンクス君は平気そうだな。流石というべきか……」
私の方を見てカリクレスはそう言う。
私も洋上飛行には緊張したが、さほど疲れてはいない。
戦争ならば敵に狙われることも考えて魔力装甲を同時展開しながら飛行しなければならないが、それがないだけ楽とも言えた。
「やはりリンクス、あなたは強いわね」
ダフネは好敵手を讃えるような笑みでそう言った。
「では、帰るとしよう。帰りは沿岸を飛行する」
「はい、先生」
帰り道は洋上ではなく、沿岸を飛んだ。
沿岸には漁に出ている船などがあり、その船の母港だろう小さな漁村も点在する。
いつも私たちが食べている魚介はああいう漁船で獲られているのだろうかと思い、私は海に思いを馳せた。
一部には白い砂浜が広がる場所があり、夏場は海水浴が楽しめそうだなとも思った。
それから沿岸での飛行は陸地が近いためか、私もダフネもそう緊張しなかった。
私たちはロンディウスに近づくと高度を上げて、港の上空に向かう。
そこで不意にロンディウスの方から魔法使いが4名、上がってくるのが見えた。
ソフィアたちではないようだが……?
「止まれ!」
魔法使いは西部連合の白いローブ──正規魔法使いだった。
彼らは殺気だった様子で私たちを制止する。
「ロンディウス上空の無許可飛行は禁止されている! 所属を述べよ!」
「魔法学校の教職員カリクレスだ。飛行許可は得ている。確認してくれ」
どうやら私たちを敵と勘違いした西部連合の要撃だったようだ。
彼らはカリクレスの人相などを念話で後方に報告している。
「……申し訳ない。確認が取れた。生徒の引率ですか?」
「ああ。彼女たちは次の競技会に出場するんだ」
「それは何より。アンドロポリスの災厄によって多くの優秀な魔法使いが失われました。その傷が癒えることを同じ魔法使いとして願っていますよ」
要撃に上がってきた正規魔法使いはそう言い、踵を返して戻っていった。
「やはりあの襲撃のあとで防空体制は強化されたな……」
カリクレスは彼らが去っていくのを見てそう呟く。
私たちがロンディウスを襲撃してからという意味だろう。
私たちがやったような襲撃が再び行われることを西部連合は警戒している。
しかし……アンドロポリスの災厄によって多くの魔法使いが失われた、か……。
私が残してしまった西部連合への傷跡に今になって罪悪感を覚える。
あのときは戦争だったから仕方ないとしても、私は殺してきたのだ。
大勢を……。
「帰りましょう、リンクス。テオドラたちが待っているわ」
「了解、ダフネ」
そんな私の手をダフネが握り、私は少しだけ安堵した。
私が全てを破壊してしまったわけではないということに。
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