TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──競技会//彼女たちの思い
最初に行われる競技はダフネが出場する飛行競技。
すでにロンディウスの港とその沖合には目印となる船が西部連合の国旗を掲げて待機している。
出場するのはダフネを含めて8名の魔法使い。
西部連合の正規魔法使いが4名、独立魔法使いが3名、そして生徒がひとりダフネだ。
彼らは埠頭に一列になってスタートの合図を待っている。
「頑張れ、ダフネ」
私はダフネに向けて後方の客席から声援を送る。
それが彼女に聞こえたかは分からないが、彼女は小さく微笑んでいた。
「それでは──」
競技の審査員が手を上げる。
「スタート!」
その声が合図となり、一斉に魔法使いたちがスタートする。
ダフネは……少し出遅れたみたいだ。
他の魔法使いたちが我先にと先頭を進むのに、彼女はやや後方から迫っている。
先頭で最初のチェックポイントを通過したのは西部連合の白いローブだ。
ダフネは最後尾で、まだ先頭には追いつけていない。
ただ高度だけは誰よりも上空を飛んでいた。
どうしてだろう? 高度制限はないけれど無意味に高く飛ぶ必要はないのに……?
それから次のチェックポイントも西部連合の正規魔法使いが先頭で通過し、ダフネはまだまだ後ろだ。
やはり西部連合の正規魔法使いを相手にしては難しいのだろうかとそう思っていたとき──突如としてダフネが速度を上げた。
彼女はじわじわ稼いでいた高度を一気に下げて加速。
魔法使いも飛行機も、降下するときは速度が上がる。
ダフネはそれを理解していたのだ。
「おおっ!」
「あの魔法使い、凄い加速だ!」
加速がついたダフネは一気に後方から先頭に躍り出る。
しかし、先頭集団と同じ高度に入ったことで、加速は止まり、追い抜くのが難しくなってきた。
先頭は今正規魔法使い2名とダフネが先頭を争っている。
「ダフネ、頑張れ!」
私は沖合を飛ぶ彼女に向けて精一杯の声援を送る。
彼女はそんな私の声援に応えるにしてさらに加速し、船の甲板ぎりぎりの低空を飛んで先頭集団を抜けてトップに躍り出た。
「あの子、凄いぞ!」
「あのローブは魔法学校の生徒だな。流石にやるなぁ……!」
生徒である彼女が正規魔法使いを追い抜くという偉業を見せるのに、観客たちがざわめき盛り上がる。
「まさか正規魔法使いが……」
「いや。まだ勝負は決まったわけではないぞ」
思わぬ番狂わせに私の周りの魔法使いたちもどよめく。
このままトップを独走できるのか、それとも……。
ダフネはそのままトップとして加速し続けたが、西部連合の正規魔法使いのうちひとりが猛烈な追い上げでダフネに迫る。
しかし、ダフネの方は少し集中力が切れてきたのか、高度が上がったり下がったりと安定しない。
そうしている間にも後方から着実に正規魔法使いが迫り、その差はほんの僅かなものになってしまっていた。
最後のチェックポイントまではもう少しだが……。
「ああ……」
最後のチェックポイントを最初に抜いたのはダフネではなく、正規魔法使いだった。
ダフネはほんの僅かだが遅れてチェックポイントを通過した。
「よしっ!」
白いローブをはためかせて通過した魔法使いがゴールと同時に歓声を上げた。
2位に終わったダフネは肩で息をし、そして高度をゆっくりと落としていく。
それから彼女たちはスタート地点であった埠頭に戻ってくる。
「まさか正規魔法使いを抜いて魔法学校の生徒が2位になるとは」
「連盟長が言うように新しい芽が育ってきているようだ」
魔法使いたちは満足そうだったけれど、2位の表彰を受けるダフネは無表情だった。
きっと彼女は悔しいのだろう。
これまでどれだけ彼女が優勝を目指して練習してきたかを私は知っている。
それだけあって、2位という結果は落胆しても仕方ないものだった。
「ダフネちゃん!」
表彰が終わり、ダフネが観客席の方に戻ってくるとテオドラが彼女を出迎えた。
ダフネは何も言わずテオドラに抱き着き、そして静かに涙を流した。
「大丈夫。頑張ったよ、ダフネちゃん……」
そんなダフネをテオドラはそっと抱き返し、赤子をあやすように頭を撫でる。
その抱擁はとても美しいものに見えた。
「……ありがとう、テオドラ」
それからダフネは顔を上げて涙を拭った。
「結果はどうあれ私は万全を尽くしたわ。悔いはない」
ダフネはそう言い、いつもの凛々しい顔つきに戻った。
「リンクス。あなたも悔いのないようにね」
「うん」
私もダフネと同じように練習を積み重ねてきた。
それを発揮すれば、未来は掴み取れるはずなんだ。
* * * *
それから破壊競技の準備が始まる。
廃船となる予定の古い船が沖合に一定間隔で並べられ、無人で放置される。
その多くは小さな船であり、私たちがアンドロポリスの戦闘で乗り込んだような大きな船は少ない。
だが、皆無ではないし、当然大きな船を沈めた方がポイントは高い。
「リンクス、と言ったな」
私が沖合に広がってゆく標的船を見ているのに声を掛けてきたのはミュロンだ。
アンドロポリスの戦いで私と戦った彼が依然敵意ある視線で私の方を見ていた。
「どういうつもりでこの大会に参加しているかは知らないが、西部連合の魔法使いをあれだけ殺しておきながら人畜無害だとでもいうような顔をしやがって。俺たちがお前が化け物だってことを暴いてやるからな……!」
ミュロンはそう吐き捨てるように言い、他の選手の下に向かった。
ミュロンも私と同様に破壊競技に出るようだ。
選手たちと準備を進めている。
「リンクス」
そこで観客席の方からソフィアがやってきた。
彼女は先ほどのミュロンの言葉を聞いていたのか、心配そうな顔をしていた。
「……連中のことは気にするな。お前はこれまで通りにやればいい。そうすれば西部連合はお前を認めるだろう。それで私たちの目的は達成される……」
「……了解、師匠」
ソフィアが優しく私を励ましてくれるのが、私はミュロンの方を見ていた。
彼はかつてのリウィアがそうであったように私のことを憎んでいる。
私が彼の大事な友を奪ったから。
私が仮に西部連合に認められても、その事実は変わらない。
そう思うと暗澹たる気分になる。
だが、ここで成果を示せなければ私もソフィアも居場所を奪われる。
そうなることだけは絶対に避けたい。
私たちはやっとこの場所に居場所を見出したのだから。
たとえかつて敵だった人たちと隣り合う居場所だったとしても。
「吹っ切れたようだな。盛大に暴れてこい、リンクス。お前はそうするだけでいい」
ソフィアはそんな私の気持ちを察してくれたのか、そう言って私の頭を撫でる。
「うん。任せて、師匠」
私はそこでようやく気持ちを切り替えて、他の選手たちとともに準備を始めた。
この破壊競技は飛行競技と違って全員が一斉にスタートするものではない。
選手がそれぞれひとりずつ挑戦し、撃沈数を競うのだ。
参加するのは3名。
私、ミュロン、それからデメトリオス。
私以外は西部連合の正規魔法使いだ。
彼らが強敵だということは、私もよく知っている。
彼らとは戦場でやりあったのだから。
しかし、デメトリオスの魔法は知っているがミュロンの使う魔法は想像が付かない。
リウィアの部下だったということは、彼女と同様に魔力の剣による戦闘を行うのか。
魔力の剣は魔法使い同士の白兵戦でこそ強いが、船を沈めるという火力が必要とされる競技には向いていないだろうけど……。
そうなるとミュロンはどう動く?
「抽選の結果、選手の出場順番が決まりました」
審査員がそう宣言する。
「1番、ミュロン。2番、デメトリオス。3番、リンクスの順です」
私は最後。
もっともプレッシャーがかかる一番でなかったのはよかった。
事前にふたりの動きを見て、私も作戦を立てたい。
「それではミュロンから、位置について!」
そして、競技が開始された。
ここで私は価値を示さなければならない……。
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