TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う   作:第616特別情報大隊

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競技会//圧倒

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 ──競技会//圧倒

 

 

 最初に破壊競技に挑むのはミュロンだ。

 私に戦友を殺されたことで、私を憎んでいる西部連合の正規魔法使い。

 彼は長い槍を手にしてスタート地点に立つ。

 

「では、スタート!」

 

 制限時間15分の中で可能な限り多くの船を沈める。

 それがこの競技だ。

 

 スタートの合図と同時にミュロンは素早く飛び立ち、沖合の船に向けて飛ぶ。

 その速度は飛行競技に出ていた西部連合の正規魔法使いより速い。

 彼は瞬く間に最初の船に肉薄すると──。

 

「はあああっ! 『偉大なる精霊たちよ──!』」

 

 手にしていた槍に魔力が宿され、それが魔力の剣ならぬ魔力の槍となった。

 その魔力の槍は船に斜めに突き刺さり、その竜骨を破壊したようだ。

 船は自重でへし折れてゆき、海底に没する。

 

「次!」

 

 なるほど一撃必殺の技で的確に一隻ずつ沈めていくのが彼の作戦のようだ。

 その一撃で確実に船を沈めていく技を前に、観客席からも歓声が上がる。

 

「いいぞー! やれーっ!」

 

「頑張れー!」

 

「もう1隻だあ! もう1隻撃沈だー!」

 

 ミュロンは人気なのだろう。

 彼を応援する声はとても大きなものだった。

 老若男女を問わず歓声が湧きたち、観客席は盛り上がっていた。

 

「どうだ、ミュロンの戦いぶりは」

 

「リウィア」

 

 ここで観客席から声を掛けてきたのは意外なことにリウィアだった。

 彼女がいつの間にか観客席側に立っていた。

 

「あれは私が鍛えた魔法使いのひとりだ。剣ではなく槍というのはやつ個人の拘りだったがな」

 

「リウィアが鍛えた魔法使い……」

 

 どうりで彼は白兵戦向けの魔法を使っているか。

 リウィアが魔力の剣で戦うことを得意とするように、ミュロンもまた魔力の槍という近接戦闘に向いた魔法で船を次々に破壊していっている。

 その戦いぶりはリウィアやヨアニスとの激戦を思い出させた。

 

「戦争で多くの魔法使いが失われたが、あいつのような魔法使いが生き残っていれば西部連合も再建できるだろう。ただ……」

 

 リウィアはそう言って目を少し細める。

 

「まだ戦争の傷が消えてなくなったわけではない。あいつもアンドロポリスの戦いで戦友をふたり失っている。結婚するはずだったふたりで、あいつが仲人をするはずだったんだ。その恨みはあるだろう……」

 

「…………」

 

 リウィアの言葉に私は何も言えなかった。

 私が奪った人たちの人生に触れるたびに胸が苦しくなる。

 もし、戦争がなければ違った結末があったのだろうか……。

 違う形で彼らに会えていたならばと、私はそう思う。

 

「だが、戦争は終わった。そのことを誰もが理解しなければな」

 

 リウィアはそう呟くように言い、立ち去った。

 それから入れ替わるようにソフィアがやってきた。

 

「リンクス。どうだ? お前ならば上回れそうか?」

 

「……分からない。西部連合の正規魔法使いは、やはり強い……」

 

 私には今現在すでに10分で6隻の船を破壊したミュロンの記録を上回れるか、まだ自信はなかった。

 私が無詠唱で魔力の矢を連射したとしても撃沈できる船舶の数はミュロンのそれより多いかどうかは分からない。

 ここで結果が示せなければ私たちは居場所を失うというのに。

 

「……そうか。だが、いつも通りにベストを尽くせ。この際、勝敗は気にするな。競技そのものに集中するといい。そうすれば道は開けるはずだ……」

 

 ソフィアはそう言い、私の手をそっと握った。

 その手の温かさが私を安堵させた。

 

「ミュロン、撃破数10隻!」

 

 そして制限時間が訪れ、完全に沈んでいた船の数が数えられる。

 ミュロンは10隻の船を沈めていた。

 これならば私でもまだ追いつける可能性がある。

 そう思っていた。

 

「やったな、ミュロン!」

 

「流石だ!」

 

 ミュロンは陸地に戻ってくると仲間たちの歓迎を受けていた。

 彼は本当に仲間に愛されているのだろう。

 彼を讃える声は絶えず、彼は大勢に魔法使いたちとハイタッチを交わしてく。

 それから彼は挑戦的な視線で私の方を見た。

 まるで『そのままのお前には俺は超えられない』と言うように。

 そして、『超えたければ化け物としての姿を見せろ』と言っているようだった。

 

「続いてデメトリオス!」

 

 それから次にデメトリオスがスタート地点に余裕を持って立つ。

 彼はミュロンの活躍を見た後でも、全く緊張した様子がない。

 それが私には少しばかり恐ろしく見えた。

 

「スタート!」

 

 号令と同時にデメトリオスが上空に高く飛び立つ。

 彼はぐんぐんと高度を取ると、上空から設置されている標的船を見下ろす。

 

『偉大なる精霊たちよ。我が呼びかけに応じてこの大海を平伏させたまえ──!』

 

 そしてデメトリオスがよく通るオペラ歌手のような声で詠唱すると、海面が蠢いた。

 海面の蠢きはやがて巨大な渦を発生させ、その渦の中に標的船が次々に飲み込まれてゆく。

 その様子に観客席も呆気に取られていた。

 

 標的船は1隻、また1隻と渦に巻き込まれて海底に消えて行き、15分という制限時間など無意味であるかのように船を沈没させてゆく。

 

「凄い……!」

 

 私が発せたのはその言葉だけだった。

 デメトリオスの魔法はそれだけ圧巻だった。

 海上に存在していた船はほぼ全てが沈み、観客席も沸き立っていた。

 

「すげえ!」

 

「こいつはたまげた!」

 

 デメトリオスが示したそれに人々は驚愕し、そして興奮している。

 海は彼の領域なのだと、そう示された気がする。

 

「デメトリオス、撃破数……24隻!」

 

 圧倒的だった。

 ミュロンの2倍以上の撃破数だ。

 私でもこのままでは追いつけないことは明白であった。

 そう、このままでは私はデメトリオスに勝てない……。

 

「……流石は西部連合の正規魔法使いだな……」

 

 ソフィアもデメトリオスが示した戦果を見て、そう呟く。

 

「師匠。私は全力で暴れるよ。それでいいかな……?」

 

「……お前の決断を尊重しよう。この試合の結果がどうあれ、私がイレーネ連盟長と交渉する。だからお前は自由にやってこい。それでいいんだ」

 

「分かった。ありがとう、師匠」

 

 ソフィアはこの時点で分かっていたのだろう。

 私がこのままでは勝てないと思い、これまでソフィアと練習してきたこととは違う手段を取ることに。

 そう、私は魔力の矢で一隻ずつ撃沈していく方針を土壇場で変えた。

 

 ここで勝利しなければ私もソフィアも居場所を失う。

 どうしても私はここで勝たなければならないんだ。

 

「続いてリンクス!」

 

 私の名が呼ばれ、私は前に出る。

 ミュロンからの敵意ある刺すような視線。

 デメトリオスからの試すような視線。

 観客席からの未知のものへの期待を感じる視線。

 

 そういう視線を背中に感じながら私は前に出た。

 

「用意はいいかね?」

 

 審査員が私に声を掛けるのに私は頷く。

 

「では、スタート!」

 

 そして私は大空に飛び上がった。

 すでに新しい標的船が配置されており、私はそれらの船の中心部に向けて高度を取りながら飛行する。

 魔力の矢で途中に存在する船を攻撃しはしない。

 その必要はないからだ。

 

「……私は私の価値を示す……!」

 

 私は船団の中心部上空で停止し、そう決意した。

 

 それから不意に静寂が訪れる。

 観客席の大きなざわめきも、港に打ち付ける波の音も、空を飛ぶ海鳥の鳴き声も全てが止まったかのように遠くに感じるようになった。

 

 そして、小さな炎が船団の中心部に生まれた。

 

 その炎がお化けのように一瞬で拡大し、音速を越えて爆轟に達する。

 炎が海面を駆け抜けて行き、衝撃はそれに伴って船をなぎ倒す。

 船が次々に炎に呑まれ、衝撃波に呑まれ、その姿を消していく。

 炎は沿岸ぎりぎりにまで到達し、衝撃波は軽く標的船以外の船も揺さぶった。

 水蒸気がきのこ雲を形成し、遠くからでもそのきのこ雲を見ることはできた。

 

 そして、爆発の前に感じていた静寂は、爆発のあともそのままだった。

 海鳥たちは沈黙し、観客席は静まり返っている。

 

 私は力を示した。

 ロンディウスを破壊した力を、再び。

 

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