TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
……………………
──競技会//その価値
私が起こした爆轟の魔法。
その巨大な爆発を前に周囲は静まり返っている。
「お、おい。あれはロンディウスを攻撃した魔法じゃあ……」
観客席でそういう声が上がり、ざわめきが広がってゆく。
ミュロンやデメトリオスのときのように私を讃える声はなく、困惑と恐怖がゆっくりと感染症のように観客席に広がっていた。
「リ、リンクス、撃沈数は……」
審査員が慎重に読み上げてゆく。
集計自体がやや混乱していた。
今のロンディウス沖合はまさに船の墓場と化しており、炎上する船の残骸などが漂っている。
どれだけの船が沈んだのか、数えるのに苦労しているのだ。
「……撃沈数は48隻!」
その数は発表されると観客席が僅かにざわめいたが、すぐに静まって陸地に戻ってきた私の方に視線が向けられる。
困惑、恐怖、敵意、憎悪。
そういう負の感情の籠った視線が私を射貫く。
「あれって例の……」
「アンドロポリスの災厄……」
「どうしてここに……」
観客席からはそういうひそひそとしたざわめきが響いた。
否定や拒絶のざわめきだ。
「素晴らしいな」
しかし、そこでぱちぱちと拍手を鳴らす人がいた。
デメトリオスだ。
彼が笑顔で私に拍手を送っていた。
「あれだけの魔法を使える人間はこの大陸に早々いないだろう。そのような才能が帝国ではなく、我々西部連合の下にあるのは本当に素晴らしいではないか! 彼女の勝利を讃えよう!」
デメトリオスがそう言い、私に盛大に拍手を送るのを見て観客席からもまばらながら拍手が生まれた。
「リンクス。よくやったな」
私がそんな観客席の方に戻るとソフィアが私を出迎えた。
彼女は優しい笑みを浮かべて私の頭を撫でた。
私はその笑顔が見られただけで、さっきまでの敵意ある視線を忘れられた。
「けど、師匠。これで私のことが……」
「いずれは知られていた。気にするな。お前は力を示すべき人間にそれを示せた」
私はこれでロンディウスを襲撃した魔法使いだと知られるだろう。
これから学校や街で敵意や憎悪をぶつけられるかもしれない。
だけど、ソフィアはそれでも構わないと言ってくれた。
「それにお前を受け入れることの利点はあの男が示している」
そう言ってソフィアは僅かにデメトリオスの方に視線を向ける。
彼は私の方に笑顔でサムズアップしており、彼のその態度の周囲に滲んでいた敵意が薄まっていくのを感じる。
敵意や憎悪は薄まり、若干ながら敬意が生まれつつあった。
「リンクス! やったわね!」
「優勝だね、リンクスちゃん!」
そこにダフネとテオドラがやってきて私の手を握る。
ふたりとも自分のことのように私の勝利に喜んでくれていた。
ダフネはぶんぶんと握った手を振っている。
「ありがとう、ふたりとも」
私たちを拒絶する人がいたとしても、すでに受け入れてくれている人もいる。
そう思うと少しだけ楽になれた。
ここを私たちの居場所にしてもいいのだという気持ちになれて。
「おい、リンクスとかいう魔法使い」
しかし、そこで怒りの滲む男性の声が響く。
振り返れば、そこにいたのはミュロンだ。
彼が敵意に満ちた視線で私の方を睨んでいた。
「俺は認めないぞ。戦争が終わったからってお前が俺の戦友を殺したことに変わりはないんだからな……!」
敵意に満ちたミュロンの突き刺すような視線。
それを受けて私は思わず視線を伏せて、彼から目をそらしてしまった。
「やめろ、ミュロン」
そんな状況で彼を制止する声が聞こえた。
「リウィア隊長!」
「見苦しいぞ。リンクスに勝利したならばともかく、負けておきながらその言葉は。西部連合の正規魔法使いとして誇るならば、まずはそこを正せ」
「しかし、こいつは……!」
「……ミュロン。我々も帝国の兵士や魔法使いを殺してきた。だろう?」
「それは……」
リウィアに諭すように言われて、ミュロンが言葉を詰まらせる。
「戦争は終わったんだ。切り替えろ。いつまでも憎悪に囚われて目が濁っているならばその白いローブに相応しくない」
「……了解です、リウィア隊長」
ミュロンはそう言いながらも、私の方に敵意ある視線を僅かに向けていた。
本当は割り切れる人の方が少ないのだ。
私だってもしもソフィアを奪われた、奪った人間を一生憎悪するだろう。
いや、憎悪するだけでは済まない。
殺して、殺して、殺して、ばらばらにしてしまうだろう。
だから、ミュロンの気持ちは痛いほど分かる。
「リンクス。優勝おめでとう」
それからリウィアは私に小さく微笑んでそう言った。
「お前はよくやった。そのことでお前の才能を今日大勢が知った。お前のことを敵視する人間もいるだろうが、手放そうという人間はいないだろう。お前はお前の価値を示した」
「ありがとう、リウィア。でも……」
「ミュロンのことならば気にするな。根はいい男だ。いずれちゃんと理解する」
リウィアはそう言って立ち去って行った。
それから私たちは表彰式で表彰を受けた。
私が受け取ったのは三叉槍と錨のマークが交差した紋章が描かれた純金のメダル。
表彰式でも拍手はまばらだったけれど、皆無ではなかった。
僅かながら私を認めてくれた人々もいる。
それから大会は演出競技へと移った。
演出競技に出場するのは4名の魔法使いたち。
そこにはデメトリオスの姿もあった。
彼はどうやら演出競技にも出場するようだ。
彼がどのような魔法を披露するのかと私たちは観客席から見守る。
多くの魔法使いが小さな水柱を上げたり、水で輪を作ってそこを駆け抜けるだけなのに対して、デメトリオスのそれは豪快だった。
高層ビルのように巨大な水柱を彼はいくつも生じさせ、さらにはそれをシンクロさせて見事な演技を見せた。
観客席まで海水が飛んだが、誰もが笑顔でデメトリオスの演技を見ている。
彼は魔法によって破壊するだけではなく、創造することもできるのだと示しているようだった。
それは私には新しい視点だった。
「優勝はデメトリオス!」
もちろん優勝はそんなデメトリオスであり、審査員の間でも異論はなかった。
「ははは! これは私の優勝だ!」
彼は笑顔でメダルを受け取り、そのメダルを高らかと掲げる。
彼の優勝には私のときとは違って万雷の拍手が送られた。
私もデメトリオスの勝利に対して拍手を送った。
精一杯の拍手を。
* * * *
競技会は終わった。
閉会の挨拶をしたのはアンドレアスだった。
「諸君、今日魔法使いたちが示した力を見ただろう」
アンドレアスは大衆に語り掛けるように言う。
「西部連合の魔法使いたちは戦争を経ても未だ健在であるのだということが示された。我々は決して弱体化したわけではないと我々のことを外から見つめる人間たちも知ったに違いない」
ソフィアが言っていたようにこの競技会は、対外的に西部連合の実力を示す場でもあったようだ。
アンドレアスの言葉からもそう受け取れる。
「我々は再建を続ける。これから蘇るのは魔法使いだけではない。都市が、人々が、交易路が、再び西部連合を繁栄させてくれるのだ。今日示された魔法使いの復活は、その先ぶれである」
アンドレアスはそう言いながら私の方に視線を僅かに向けた。
彼はにこりと微笑んだように見えたが、気のせいだろうか……。
「さあ、諸君。今日健闘した魔法使いたちを讃えよう。彼らは我々の守護者となり、この国を守ってくれる!」
アンドレアスはそう締めくくり、出場した私たちに再び拍手が。
観客席から私を見る目は未だ好意的なものではないが、今は気にならない。
私は目的を達したはずだから。
これでソフィアと一緒に暮らしていけるはずだから。
観客席から拍手を送ってくれているソフィアを見て私はそう思った。
彼女の優しい微笑みは、私を安心させてくれる。
彼女のあの笑みを私は守りたい。
そのためならば私は他人から災厄だと呼ばれても構いはしなかった。
……………………