TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う   作:第616特別情報大隊

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渡河//パルチザン

……………………

 

 ──渡河//パルチザン

 

 

 パルチザン。

 敵の占領支配に対する抵抗を目的とした非正規軍のこと。

 非正規軍ということは、そこにいるのは軍人だけではない。

 そうソフィアは言った。

 

「……パルチザンの中には地元の市民が志願したようなのも含まれるだろう。だが、相手が私たちを殺しに来ているならば殺すしかない」

 

 口にするのも苦しげにソフィアはそう言った。

 

「分かった。任せて、師匠」

 

 私はそんな苦しそうなソフィアの役に立ちたかった。

 彼女を苦しめるようなものは徹底して排除したい。

 そう思った

 

「では、始めるぞ、リンクス」

 

 まずはソフィアが偵察のために飛行魔法で上空に高度を取る。

 敵がすぐには撃ってこないと分かってから、私がそれに続く。

 

「敵も優先順位と言うものを理解しているな。無闇に私たちを攻撃はしないか」

 

 今、敵が魔法などで私たちを攻撃すれば、その位置が私たちに分かる。

 そうなれば高所を取っている私たちの方が強いし、敵は渡河を妨害するという戦略的な目標を達せない。

 そういうことだとソフィアは説明してくれた。

 

「敵は粘るつもりだろう。ある程度は強引にいかなければならないな……」

 

「どうします?」

 

「私が低空で囮になるから、お前は上空から援護してくれ」

 

「囮なら私が……」

 

「攻撃の速度が速いお前の方が攻撃役を担った方がいい。これは合理的な判断だ」

 

 今回も危険な囮はソフィアが引き受けた。

 

『偉大なる精霊たちよ。願い奉る。どうか我が身をあらゆる悪意から守りたまえ』

 

 ソフィアは青緑色の魔力装甲を球状に展開すると、低空に降下して飛行を始めた。

 私はいつでもソフィアを援護できるように彼女の上空を飛び、地上に目を凝らす。

 

 地上の木々のすぐ上をソフィアは木々を揺らしながら飛行していくが、まだ地上からの攻撃は見られない。

 ソフィアはぐるりと周回しながら地上にいるはずのパルチザンを探る。

 

 この山林は流石にベトナム戦争中のトリプルキャノピーと呼ばれる環境ほど酷く視界が悪いわけではないが、敵が十分に隠れられる密度を有していた。

 私も上空からでは森の木々しか見えない。

 

 そのときだ。

 地上で青白い光が僅かにだが見えた。

 間違いない。魔法による攻撃の光だ。

 

「師匠!」

 

 私はその光に瞬時に反応し、その光に向けて魔法の矢を放とうとする。

 そうしなければソフィアがやられるとそう思ったのだ。

 

『待て、リンクス! そっちは囮だ!』

 

 ソフィアが念話でそう叫び、ソフィアが高度を一気に上げて私のそばに来る。

 すると私が視認した場所とは別の方向から青白い光が迫った。

 その光はバリスタの矢より大きく、その射線上にはソフィアが──。

 

「ぐっ……!」

 

 ソフィアは私の盾となって魔力の矢を受けた。

 幸い攻撃はソフィアの魔力装甲を抜けなかったが、衝撃が彼女を襲い、ソフィアはバランスを崩す。

 ソフィアの飛行魔法はまだ持っているが、彼女を守るはずの魔力装甲は減衰してしまい、次の攻撃はもう防げないだろう。

 私が次の攻撃を阻止しなければソフィアが危ない。

 ソフィアが、私に希望を与えてくれた唯一の愛する人が危ない……!

 

 だけれど、敵の姿は相変わらず見えない。

 森は未だ鬱蒼としていて、相手はそんな地上に隠れて私たちを視認している。

 空を飛んでいる私たちは敵から隠れられない。

 そんな相手を狙って攻撃するのは難しい。

 

 ……なら、()()()を纏めて薙ぎ払えば……?

 

 私は詠唱も魔法陣もなく、複雑な魔法が使える。

 それは武器だとソフィアも言っていた。

 なら、その武器を生かすのは、今において他ない。

 

 私はさきほど青白い光がちらついた地点を中心に狙いを定める。

 

「えい……!」

 

 そして、そこに炎を生じさせた。

 生活魔法とはレベルが違う魔法による急激な燃焼。

 ガスに引火したかのように魔力で炎が伝播する。

 それは音速を越えて爆轟に達し、強大な炎と衝撃波へと変わった。

 

 爆発魔法──。

 

 地上を衝撃が駆け抜ける。

 森の木々が焼き払われ、めきめきと音を立てて倒れ、あらゆるものが吹き飛ぶ。

 粉塵が舞い上がり、灰色の煙が大きく立ち上った。

 

「これは……」

 

 ソフィアが驚愕に目を見開く。

 

 爆心地のきのこ雲がゆっくりと晴れてゆくと、地上にくっきりと抉れたクレーターが刻まれているのが分かった。

 木々は完全になぎ倒され、爆心地を中心に大きな隕石でも落ちたみたいな光景が広がっていた。

 

 爆発前には聞こえていた鳥の声が途絶え、未だに燃える木々のぱちぱちという音だけが耳に入ってくる。

 

「師匠、やりましたよ」

 

 私がソフィアを安堵させるように微笑んでそう言う。

 もう大丈夫だ。ソフィアが狙われることはないと。

 

「……よくやった、リンクス。帰投しよう」

 

 私の言葉にソフィアは短くそう言い、私たちは工兵の下へと帰還する。

 私はソフィアの役に立てたのだろうか?

 ソフィアの表情はどこか複雑そうで、純粋に喜んでいるような様子はなかった……。

 私には彼女の表情の複雑さの理由が分からないまま。

 

「リンクス。お前があの場で使った魔法のことはあまり喋るな。あれはお前の利益にならないかもしれない」

 

「……異端者としては迫害されるから?」

 

「ああ。過ぎた力は敬意ではなく、恐怖を呼ぶ」

 

 ソフィアがそう言ったので私は自分の魔法について吹聴しないことを決めた。

 だが、そうあっても帝国軍にこのことが伝わるのは避けられなかった。

 あの爆発のあとを隠すことはできなかったのだから。

 

 

 * * * *

 

 

 それから工兵は架橋に成功し、帝国軍はブルガル川を渡河。

 第3軍は第2軍に遅れながらも西部連合の鎮圧に向けて前進を続けるはずだった。

 

 渡河ののちに私とソフィアは帝国軍司令官のクイントゥス将軍に呼ばれた。

 

「見事な働きだった、魔法使い」

 

 満足げなクイントゥス将軍からお褒めの言葉。

 

「しかし、だ。パルチザンの件は聞いたぞ。捕虜を得て情報を絞るべきだったな」

 

「そんな余裕はなかった。それにそれは私たちの仕事ではない」

 

 クイントゥス将軍がそう言うのにソフィアはそう突っぱねる。

 

「ふん。パルチザンが存在すると分かった以上、掃討作戦を行わねばならん。ましてパルチザンに魔法使いが混じっているならばなおのこと。我々は──」

 

「クイントゥス将軍! 大変です!」

 

 それからクイントゥス将軍が不満げに続けようとしたとき、兵士が駆け込んできた。

 

「我が軍後方で大規模な反乱が発生! 後方が断たれました!」

 

「なんだと……!?」

 

 慌てた兵士が大声で報告するのに、クイントゥス将軍は顎が地面に付きそうなほど口を開いて驚く。

 だけれど、ソフィアは全く動じず、クイントゥス将軍より冷静そうだった。

 

「何ということだ! パルチザンどもの仕業だな! 忌々しい連中め!」

 

 クイントゥス将軍が叫ぶ。怒鳴り散らす。

 

「すぐに引き返し、反乱を鎮圧する! 準備を急がせろ!」

 

「は、はい、閣下!」

 

 そしてやっと渡河した帝国軍はその成果を放棄して来た道を戻ることに。

 私たちが確保した橋頭保も橋も捨てて、帝国軍は逆戻り。

 

「やはり西部連合には地の利があるな。この戦争に帝国は勝てない」

 

 ソフィアは移動する馬車の中でそういう。

 確かに帝国軍が渡河する場所も、渡河した時も西部連合は把握していた。

 それからやっとの思いで川を渡った帝国軍を翻弄するように後方で蜂起。

 帝国軍は完全に手玉に取られてしまっている。

 

「本当に負けそうだね……」

 

「……私たちには関係のない話だ。前にも言ったがこの戦争に最後まで付き合う義理もない。負け戦ならばなおのことだ」

 

 ソフィアはそう言いながら馬車の後ろを徒歩で進む兵士たちを見た。

 若い兵士たちが多くいる。私たちのような傭兵もいれば、徴募された市民からなる兵士たちもいる。

 彼らを見るソフィアの視線には隠せない同情の色があった。

 

 彼らはこの無意味な戦争で死ぬことになるかもしれない。

 そう思うと私も彼らに僅かにだが同情した。

 だけれど、私たちは傭兵だ。

 戦争が仕事なのだ。

 

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