TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──政治の時間//晩餐会
翌日の夕方。
私とソフィアはテオドラの案内に応じて、テオドラの家を訪れた。
案内はテオドラの家の使用人が行ってくれ、私たちはその使用人が手綱を握る馬車で彼女の家へ。
「いらっしゃい、リンクスちゃん」
テオドラの家はアンドレアスの屋敷ほどではなかったが、かなり立派なものだった。
流石は議員の屋敷と思わせるような広くて、前庭には池があるぐらいだ。
私たちはそんな屋敷のエントランスでテオドラに迎えられた。
「今日はよろしく、テオドラ」
「うん。夕食まで少し時間があるから、私の部屋で待ってよう」
そう言いテオドラは私とソフィアを彼女の部屋に案内した。
テオドラの部屋は女の子の部屋らしい部屋で、綺麗に片付けられており、綺麗な敷物や可愛らしい小物で彩られていた。
「リンクスちゃん。話に聞いたんだけど……結婚が嫌なの?」
テオドラは少し遠慮気味にそう尋ねてくる。
私は少し躊躇ったのち、沈黙したまま頷いた。
「そっか。前に言っていたもんね。もう好きな人がいるって」
テオドラはそう言い、深く頷いた。
私はソフィアのことが好きだ。
ソフィアとともにいたい。
だから……他の誰かと結婚したくはなかった。
「我がままだってことは分かっているけれど、それでも私は……」
私はソフィアがいい。
私を救ってくれた彼女とともにいることだけが私の望みだ。
それからテオドラの部屋の扉がそっとノックされた。
ノックとともに姿を見せたのはテオドラ家の使用人である。
「お嬢様、お客様方、夕食のお時間です」
「分かった」
それから私たちは食堂に移動。
食堂もまた広くて立派なものであり、ロンディウスの景色を描いた絵画などが飾られ、長い机には真っ白なテーブルクロスだ。
そして、そこにはすでに招かれていたのだろうテオドラの家族以外の人たちが4名ほどおり、談笑していた。
「リウィア?」
私はそこに意外な人物を見つけた。
リウィアだ。
いつもと同じ白いローブの下にドレスを纏った彼女が食堂にいた。
その隣には白いローブながら知らない男性だ。
「ああ、リンクス。お前のことで話があると言われたので来たところだ」
「そっちの人は……?」
私はリウィアの隣にいて、彼女の手を握っている人物を見た。
凛々しい顔つきをした長身瘠躯の男性で、彼も私の方に好奇の視線を向けていた。
「私の夫となる男だ。ディオゲネスという」
「初めまして。君がリンクスか」
ディオゲネスと紹介された男性はそう言って私に握手を求める。
私はその握手に応じ、彼と手を握った。
「噂はリウィアから聞いている。アンドロポリスの災厄であり、今は西部連合が保有する最大戦力であると。そして、その存在を誰もが奪い合っているとも」
「そうなりますね……」
「しかし、聞いていたよりも幼いな。リウィアから話を聞いたときはもっと年上だと思っていた。才能があるとはいえど、こんな幼子の取り合いとは……」
嘆くようにディオゲネスは首を横に振る。
彼は私に同情してくれているのか、それとも私と取り巻く状況に呆れているのか。
どちらとも取れるような態度であった。
「ディオゲネスは古い魔法使いの家の出でな。それなりの名家だ」
「よしてくれ、リウィア。とっくに落ちぶれた家だよ」
リウィアがそう紹介するのにディオゲネスは苦笑していた。
それから私たちは勧められた席に座る。
私の席はテオドラとソフィアの間だ。
「ようこそいらっしゃった、お客人方」
私たちが席に着くと、この屋敷の主人でありテオドラの父であろう人が姿を見せる。
目元がテオドラに似ていて優しい雰囲気をした、そんな中年男性だ。
彼は使用人の準備した椅子に座り、私たちを見渡す。
「さて、今回は初めましてのお客人もいるね。私はフィリッポス。連合議会の議員の任を授かっている」
その人はフィリッポスと名乗った。
「そちらにいるのはリンクス君とソフィア君だね。今日は歓迎しよう」
にこりと私たちに微笑みかけるフィリッポス。
「今日、皆さんを夕食に招いたのは、まさにリンクス君の話をするためだ。リンクス君の現状について簡単に説明しておこう。我々の認識が共通しているかどうかを確認するためにも」
それからフィリッポスは私がアンドロポリスの災厄と呼ばれる魔法使いであることや、先の競技会で優勝したこと、私を巡ってアンドレアスや諸外国が私を巡って争奪戦をする可能性があることを告げた。
「我々の認識は一致しているかな?」
フィリッポスが尋ねるのに列席者たちが頷く。
私とソフィアも間違っていないと頷いた。
「私がアンドレアス議員とも親しいし、先の競技会でリンクス君の実力も見ている。彼がリンクス君を手に入れたいという気持ちは分からなくもない」
まずフィリッポスはアンドレアスに理解を示した。
フィリッポスはアンドレアスに説得されて、私に養子縁組を勧めるつもりだろうか?
そのために今日私たちを……?
「だが、他の議員たちが懸念していることも分かる。リンクス君の力は──強すぎる。それを議員のひとりが握るというのは、西部連合の政情にとって決していい結果にはならないだろう」
フィリッポスはこれまでの笑みを消してそういう。
そのときワインと前菜が運ばれてきて、私たちの前に置かれた。
前菜は野菜と魚介のマリネ。食前酒のワインは白だ。
「リンクス君の力は西部連合にとって諸外国への抑止力となると同時に、下手をすれば国内の政情へ不安を呼ぶ要因でもある。我々が帝国に勝利して独立を手にした今において、次に危惧すべきは内乱だ」
フィリッポスはそう言い、ワインのグラスを口に運ぶ。
それから私たちもワインを口にした。
「故にリンクス君の扱いには慎重にならなければならない。私はアンドレアス議員に一任するというのは、同じ志の政治家としても認めがたい。それは他の派閥の妬みや疑念を招いてしまう」
「私としても同感ですね。それはあまりにも危うい」
フィリッポスの言葉にリウィアがそう応じる。
リウィアは私と戦ったことでこの場の誰よりも私のことを知っているだろう。
その彼女の発言にフィリッポスたちも頷く。
「だが、どこかの養子にでもならなければリンクス君を保護し続けるのは難しいのも現状だ。事実、帝国中央や他の国の間諜たちが、このロンディウスでリンクス君を探していると聞く」
フィリッポスは重々しくそう言う。
間諜──スパイがすでに動き出しているということは、初めて聞かされた。
私たちの家ももう見つかってしまっているのだろうか……?
「間諜たちはリンクス君を奪取できなければ、殺害しろという命令を帯びているとも聞いた。手に入らなければいっそ、という考えが相手にあるということも警戒しなければならない」
諸外国は私を殺すということも考えている……。
私はいつ狙われるか分からないということに僅かに手が震えた。
私だけならばまだいいが、ソフィアまで狙われたらと、そう心配したのだ。
「よってリンクス君とソフィア君の保護は緊急の課題だ。先延ばしにはできない。この件について私はイレーネ連盟長などとも相談した。彼女が提案したのは、あまり政治的に有力ではない家の養子にするというものだった」
「アンドレアス議員はその点で除外されますが、どの家に?」
フィリッポスの言葉にディオゲネスが尋ねる。
「私は君たちの家にと考えている、ディオゲネス君。まさに今度結婚する君たちの養子にしてはどうかと」
「私たちの養子に、ですか」
フィリッポスの言葉にディオゲネスが僅かだが狼狽えるのが分かった。
「分かっている。動揺はするだろう。しかし、君たちこそ最善だと私も考えている。君たちはまだ若く政治的にはそこまでの力はない。だが、君もその妻となるリウィア君も名声は轟いており、決して無視できないものだ」
それから、とフィリッポスは続ける。
「リンクス君はすでに思い人がいるようなのだ。それを考えると無理な政略結婚を求める家にはやれない。君たちならば自分の子を結婚させることができるから、リンクス君を無理に婚姻させる必要もないだろう?」
一応フィリッポスも私が結婚を拒んでいるという事情を汲んでくれたようだ。
リウィアとディオゲネスはこれから結婚して子供を作るだろうから、確かに私を無理に結婚させる必要もないが……。
「あの、それだと私はリウィアとディオゲネスの負担になるだけのような気が……」
私はそれが気がかりだった。
人は見返りもなく助けてくれないと教えられたばかりだから。
「私は構わないぞ、リンクス。お前を娘として迎えられるのは数奇な運命だとは思うが歓迎しよう。ディオゲネス、あなたはどうだ?」
「私も異論はない。ただあまりの責任の重大さに震えそうだよ」
リウィアが問うのにディオゲネスはそう言って苦笑した。
「さて、あとはリンクス君の同意が得られれば決まりのようだが?」
フィリッポスがこちらを見てくる。
ここから先は私が決めなければならない。
いつまでもソフィアや他の人に決めてもらうわけにはいかないのだ。
これは私の人生でもあるのだから。
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