TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──政治の時間//襲撃者
リウィアとディオゲネスの養子になるのか、否か。
私は決断を迫られている。
「……養子になってもソフィアと一緒にいることはできますか?」
私はフィリッポスとリウィアたちにそう尋ねる。
「君の保護者はソフィアからディオゲネス夫婦に移るが……」
フィリッポスは困惑した表情で、リウィアとディオゲネスの方を見た。
「我々としては構わない。リンクスにとってソフィアは大事な師匠なのだろう? それは仮初の親子の絆よりも強いはずだ。それを無理やり引き裂こうとは思わない」
「そうだな。私もリウィアの言葉に同意だ。リンクスがソフィアとともにいたいのならば、それを引き裂く気はない。この養子縁組は我々の名前をリンクスに付与するだけのものにすぎないのだから」
リウィアとディオゲネスはそれぞれそう言う。
「しかし、私としても聞きたいことがある。本当に私たちの養子でいいのか? 私たちの家はずば抜けて裕福というわけでもないし、政治的に高い地位にあるわけでもない。アンドレアス議員の養子になった方が、待遇としてはいいと思うが」
ディオゲネスは私にそう問う。
「構いません。私はただ……師匠と一緒にいたいだけなんです」
私の願いは裕福な暮らしでもなく、平和な暮らしでもなく、ただソフィアと過ごせる日々なのだ。
それ以外のものは、何もいらない。
「ならば、それを尊重しよう。私とリウィアが結婚した暁には君を養子にする」
「ありがとうございます」
ディオゲネスとリウィアは私の意向を尊重してくれる。
それだけでありがたかった。
「では、今日はリンクス君の養子入りが決まったことを祝して乾杯といこう」
フィリッポスはそう言い、今度は使用人に赤ワインを持ってこさせるとそれで私たちは乾杯した。
正式に養子入りするのは、リウィアとディオゲネスが結婚してからになるが、養子縁組自体はこの場で決定した。
私がリウィアの子供になるというのは……不思議な感触だ。
それから晩餐会が終わり、私たちは馬車で自宅に戻ることに。
リウィアとディオゲネスはもう暫くフィリッポスと話すようで、彼らは別室へと移動していった。
「またね、リンクスちゃん」
「うん。また明日、テオドラ」
私はテオドラに別れを告げて馬車に乗り込み、自宅へ。
「よかったな、リンクス。これで一安心だ……」
ソフィアは馬車の中で私にそう言う。
彼女は本当に嬉しそうだったが、少しだけ寂しそうな色もあった。
私がリウィアの養子になるというのに、少し距離感を覚えたのだろうか?
「師匠。私がリウィアたちの養子になっても、私にとって一番大事なのは師匠だよ」
「……リンクス……」
私がソフィアにそう言うのに、ソフィアは戸惑いを見せた。
「……私はお前を縛り付けてはいないか? お前はもっと自由であっていいんだ。より裕福な暮らしを望んでもいい。私のような孤独で、何も持たない人間に付き合う必要はないんだぞ」
「そんなことは……!」
ソフィアが視線を伏せて言うのに私は彼女の手を掴んだ。
そのときだ。馬車が急停止して私たちは激しく揺さぶられた。
それから悲鳴が上がり、ソフィアがその表情を険しくする。
「まさか襲撃か……!」
ソフィアはそう言うと正面に向けて魔力装甲を展開し、それから馬車を降りる。
私も続いて馬車を降りると、まず目に入ったのは殺害されたテオドラ家の使用人。
馬も魔力の矢だろう高威力の魔法でばらばらにされており、緊張が走る。
「リンクスとソフィアだな」
それから暗闇の中からフード付きのローブで顔を隠した男たちが3名現れる。
この男たちが使用人を殺し、馬車を襲撃した人間だろう。
「何者だ」
「それを知る必要はない。我々と一緒に来るか、または死ぬかだ。選べ」
ソフィアが鋭く問うのに、男のひとりがそう言った。
フィリッポスが言っていた誘拐か殺害を目的とした間諜だろうか。
「残念だがお前たちと一緒に行くつもりも、殺されるつもりもない」
「ならば死ね。『偉大なる精霊たちよ──!』」
男たちはすぐさま魔力の矢を形成して、私たちに向けて叩き込んでくる。
『偉大なる精霊たちよ。悪意あるものの手から我々を守りたまえ──!』
ソフィアは魔力装甲を拡大して私と自身を守る。
青白く光る魔力の矢が魔力装甲に波紋を生じさせ、魔力の弾ける音が響く。
「手早く片付けるぞ。長居はできない」
「了解」
男たちはそう言葉を交わすと私たちに向けてさらに強力な魔力の矢を放つ。
それは魔力装甲を大きく揺さぶり、ソフィアの表情が苦悶に歪んだ。
「師匠、応戦していい!?」
「ああ。やれ、リンクス。この状況だ。罪には問われないだろう」
「了解!」
ソフィアから反撃の許可をもらったが、ここは市街地だ。
爆轟魔法で敵を吹き飛ばすわけにはいかない。
私も魔力の矢を形成して男たちに向けて叩き込んだ。
私の放った魔力の矢は敵の魔力装甲を貫き、その先にいる男を殺害。
「噂通りの強さだな……! クソッタレめ!」
「だが、所詮は子供だ……!」
残った男たちはそう言い、私たちと魔力の矢の応酬を繰り広げる。
相手は……なかなかの魔法使いらしい。
私が放っている魔力の矢を魔力装甲で受け止めながら、ソフィアの魔力装甲を揺るがす攻撃を放っている。
私の方が周辺に被害が出るのを恐れて全力で魔力の矢が放てないというのも理由のひとつだろうが、いずれにせよこのままでは埒が明かない。
「師匠、白兵戦をやっていい?」
「いいぞ。付き合おう」
「じゃあ、行くよ!」
私は飛行魔法で加速し、男たちに肉薄。
そのフードで隠された顔が見える位置まで迫った。
まだ若いが、どうにもロンディウスにいる人種の顔立ちではない。
「なっ……!」
そんな男たちが狼狽えるのが私に伝わり、私は魔力の剣を形成した。
憤怒を示すような真っ赤な刃が形成されて、まずはひとりの男を襲う。
ここまできては男にできることはなく、私の刃は敵の魔力装甲を引き裂き、その向こうにいた男をばらばらにした。
「次」
私は魔力の剣を次の男に向けて掲げる。
「クソ……! 流石に給料以上の仕事になる……!」
男はそう言うと飛行魔法で飛びのき、そのまま飛び去ろうとする。
このまま逃げるつもりだろうか。
私はどうするというようにソフィアの方を見た。
「逃がすな、リンクス。せめて背後関係を吐かせたい」
「分かった」
私はソフィアとともに男を追い、ロンディウス上空を飛ぶ。
すると闇夜の空の中に複数の強い明かりが見えた。
それは魔法で生み出した光を手に、上昇してくる西部連合の要撃の魔法使いだ。
「止まれ! 許可のない飛行魔法は禁止されている!」
そう声を上げたのは──ミュロンだ。
私とは因縁のある彼とその部下たちが、私たちと逃げようとする襲撃者を包囲するように布陣した。
「クソ!」
襲撃者は包囲されたことで抵抗を諦めたらしく、両手を上げる。
「お前は……リンクス……? ここで何をしている!」
ミュロンは私の姿に気づき、鋭く刺すような目で見てきた。
「待て。我々はこいつとその仲間に襲撃されたんだ」
「襲撃だと?」
「場所を教える。そいつは恐らく外国の間諜だ。リンクスの誘拐または殺害を狙っていた。逃がさないようにしてくれ」
ソフィアは困惑するミュロンにそう説明。
「……分かった。襲撃があったという場所に案内しろ」
ミュロンは部下に男を拘束させ、それから彼と数名の部下が私たちが襲撃された場所まで向かった。
私たちが襲撃された場所には人だかりができており、殺された使用人や私が殺した魔法使いの死体を前に市民が震えていた。
「これか。虚偽の申告ではなかったようだな」
ミュロンはそう言い、まずは私が殺した襲撃者の死体を調べる。
「こいつら、何者だ……?」
彼はそう呟きながら、襲撃者の身元を特定できそうなものを探す。
しかし、それらしきものは何もなかったのか、彼は首を横に振った。
「一応調書を取る。一緒に来てもらうぞ」
「分かった。応じよう」
ミュロンは私たちにそう求め、ソフィアがそう応じた。
それから私たちは西部連合の魔法使いに囲まれ、連行されるように連れていかれた。
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