TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──政治の時間//背後関係
私たちが連れてこられたのは、衛兵の詰め所だ。
そこで調書を取ることになった。
私とソフィアは別々に取調室に入り、ミュロンから状況の説明を求められた。
「フィリッポス議員の家から帰宅している途中に襲われた、と。犯人について心当たりはないのか?」
苛立った様子でそう尋ねるミュロン。
「ないよ。ただ……」
「ただ?」
ミュロンが片眉を上げて問う。
「フィリッポスは私が国外の間諜に狙われているかもしれないと言っていた」
「国外の間諜、か。具体的には? 帝国か、それとも別の国か?」
「分からない」
彼が尋問するように問い詰めるのに私は首を横に振った。
私には襲撃者の正体など知りようもない。
彼らはいきなり襲ってきて、戦闘になったのだから。
「はあ……。では、情報らしい情報は一切ないのか? お前自身、これまで身の回りに気を使ったりはしていなかったのか? 襲われそうになったことはこれまで一度もなかったのか?」
「ここは安全だと思っていたから……」
戦場を離れてこのロンディウスに流れ着いた。
戦争は終わり、やっと平穏な日々が訪れたと思っていたのに、結局は私は誰かに命を狙われている。
私だけではない。ソフィアもまた狙われていた。
その事実が悔しくて私の目には涙が浮かんだ。
「泣くな」
そこでミュロンが鋭くそう言う。
「泣いても暗殺者や誘拐犯は手加減してはくれないぞ。ただお前が動揺し、付け入りやすくなったと示すだけだ。それが嫌ならば涙を拭け」
「はい……」
厳しくミュロンがそう指摘し、私はローブの袖で涙を拭った。
「しかし、アンドロポリスの災厄であっても涙は流すものなのだな……」
私の顔を見てミュロンはそう呟くように言った。
彼は暫くそうやって私の顔を見つめていたが、やがて咳払いして質問を続けた。
「お前を狙ったのは本当に国外の人間だと言えるか? 西部連合内でもお前の扱いを巡って不満を持つ人間はいたはずだ。お前は大勢の西部連合の人間を殺しているのだから」
「それは……否定はできないけど……」
「では、最初から国外の間諜の仕業と決めつけるわけにもいかんな」
事実私はミュロンから友人を奪っている。
それを理由に私を殺そうとする人間がいてもおかしくはないだろう。
それを考えるとこのロンディウスという街には私を殺そうとする理由のある人間が大勢いる……。
「フィリッポス議員の家では何をしていた?」
続いてミュロンがそう尋ねる。
「夕食を一緒に」
「話題に何か出たか?」
「……私の養子縁組の話」
「聞かせろ」
ミュロンは興味を持ったのか、問いを重ねてくる。
私は結婚するリウィアとディオゲネスの養子になる話をミュロンに聞かせた。
それを聞いた彼は何やら考え込んでいる様子であった。
「お前がリウィア隊長の養子か……」
複雑そうなミュロンの顔。
リウィアは彼にとって尊敬する人なのだろう。
そんな彼女の養子にミュロンの友人を奪った私がもらわれるというのは、彼にとってあまり好ましいものではないに違いない。
だが、彼はさっきまでの険しい表情を振り払うように首を振った。
「戦争は終わったというわけだな……」
ミュロンはそう言い、私の方を再び見つめる。
「暫くの間、お前たちに護衛を付ける。信頼できる部下だ。リウィア隊長との養子縁組が正式に発表されるまでは大人しくしておけ」
「私に護衛を付けてくれるの?」
「そうだ。お前がいくら優れた魔法使いであっても奇襲されたら敵わないだろう。忌々しい話だが、お前は西部連合にとって要人だ。このロンディウスの治安を担う人間のひとりとしてはお前が殺されるのは容認できない」
「だけど……」
私はミュロンの友を殺している。
彼はそれを許してくれたのだろうか?
「俺個人としてはお前を許すつもりはない」
ミュロンはそんな私の考えにそう断言する。
「だが、西部連合の魔法使いとしてはお前を保護すべき立場にある。それだけだ。俺は私情から職務に背くつもりはない。それはこの白いローブに相応しくないからな……」
彼はそう言い、自分の纏っている白いローブの袖に小さく視線を向けた。
「お前から聞けそうな話はもうなさそうだな。行っていいぞ」
そして、取り調べを始めてから30分程度で私は解放された。
30分ぐらいだったのに体感では3時間ほどに感じた。
「リンクス」
「師匠」
取り調べ室の外ではソフィアが私を待っていた。
「随分と時間がかかったが何を聞かれた?」
「いろいろと……」
「そうか。生き残った男の尋問が始まれば私たちが疑われることはないだろう。安心しろ、リンクス」
私が不安そうに見えたのだろう。
ソフィアはそう言って励ましてくれた。
「大丈夫だよ、師匠。それに西部連合が護衛を付けてくれるって」
私はそんなソフィアを安心させるようにそう言って微笑んだ。
「そうか。ならば、連中に守ってもらおう。我々としても24時間襲撃に備えることはできないからな……」
ソフィアもこれからのことを懸念していたらしく私の言葉に頷く。
私たちを狙ったのが国外の間諜だとしても、西部連合内部の不穏分子だとしても、昼も夜も関わらず狙われるのは困る。
だが、いつまでも西部連合が私たちを守ってくれるのだろうか……。
リウィアの養子になれば、これからずっと?
いや。彼女の負担になるだけでは、守ってはもらえない。
「師匠。私たちはいつまでここにいられるのかな……?」
私は気づけばソフィアにそう尋ねていた。
「……分からない。だが、できればここを終の棲家にしたいところだ」
私の心配にソフィアはそう言って視線を伏せたが、私の手を握ってくれた。
今はソフィアがいる。
だから、今は私も耐えられる。
* * * *
それからミュロンが約束したように私たちには護衛が付いた。
4名の魔法使いたちで、いずれも西部連合の正規魔法使いだ。
「全く、こんな対応を取るのは本当に要人を相手にするときだけだぞ」
指示を出したミュロンはそう不満げに言っていたが、護衛は文句を言わずに私たちを家まで送り、家の周りで警備を固めてくれた。
だが、その夜は私も不安で眠れなかった。
いつ命を狙われるのか分からない。
まして、ソフィアも一緒に狙われているのだ。
安心などできるはずがなかった。
「リンクス。眠れないか?」
ソフィアがベッドの隣で私に話しかける。
未だベッドは同じで、ローブを脱いで髪をほどき、ゆったりとした寝間着を纏った彼女が私の隣に横になっている。
「……うん。やっぱり不安で……」
私が起きたらソフィアがいなくなっているかもしれないと思うと不安だった。
眠ったらそのまま起きることがないのも恐ろしかった。
「私が起きているから安心して眠れ。お前のことは私が守る」
「ありがとう、師匠……」
私はソフィアにそう言われて眠るように努めた。
目を瞑るとソフィアの甘い石鹸の香りと彼女の温かさが伝わってきた。
それが私の心を安らげてくれたが、それでも今日は眠れそうにない。
それでも私は眠ろうと努力する。
* * * *
翌朝、私が目覚めるとソフィアの姿がなかったことに動揺する。
「師匠!」
私が慌ててベッドから起きるとソフィアを探して家の中を走る。
2階にソフィアの姿はなく、私の背中に嫌な汗が伝う。
1階に駆け降りると、ソフィアはいた。
「リンクス」
彼女は護衛だった正規魔法使いと話しているところであった。
私は彼女が無事だったということに安堵の息を吐く。
「さっきミュロンという私たちを取り調べた正規魔法使いから連絡があった。私たちを襲撃して捕まった男だが、雇い主は帝国中央ではないらしい。やつは三月教徒に雇われたと言っている」
「三月教徒……南方で反乱を起してるっていう……?」
「そうだ。どうして連中が私たちを狙ったか、だが……」
ソフィアはそう言い、護衛の魔法使いを見た。
「理由はまだ分からない。だが、西部連合が近いうちに南方に軍を派遣するのと関係あるだろう。西部連合は帝国中央と三月教徒の反乱鎮圧で手を結ぶことを決めた」
護衛の魔法使いはそう説明してくれた。
「そういうことで護衛は継続する。ミュロン副隊長の命令だからな。だが、この家からは出るな。外に出る用事は私たちがやっておく」
「助かる」
暫くの間はこの家にソフィアと缶詰のようだ。
「三月教徒なんてひとりも面識もないのに……」
「……リンクス。お前は力を示した。それは間違っていない。だが、言ったように過ぎた力は否定的な感情を呼ぶことがある……」
ソフィアはそう言って私の手を握る。
「だが、私だけはお前を……」
それから彼女は何かを言おうとしたが首を横に振った。
まるで自分を恥じているかのような態度だ。
「何でもない。私もまたお前を利用しているのだろうからな……」
寂しそうな彼女の表情。
それを見て私も悲しくなった。
ソフィアには笑顔でいてもらいたいのに、私にはそれすらできないのだ。
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