TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──政治の時間//結婚式
それから私とソフィアは学校にも行かず、買い物にも行かず、家で閉じこもるようにして過ごした。
買い物は護衛の魔法使いが代わりにやってくれ、若い彼らは私たちに興味がある様子であった。
「アンドロポリスの災厄っていうけど、普通の女の子に見えるな」
「そうだな。だけど、競技会じゃあデメトリオスさんより船を沈めたらしいぞ」
「へえ。そのときは当直だったから見れなかったんだよなぁ」
そんな話をしているのが、家の中にいる私たちにも聞こえてくる。
「ねえ、師匠」
「どうした、リンクス?」
私たちはやることもないので、本を読んだりして過ごしていた。
そんな中で私は本の向こうからソフィアに視線を向ける。
「リウィアとディオゲネスはいつ結婚するのかな?」
「そうだな。人にもよるが……婚約を発表しているならば近いだろう」
「そうか……」
リウィアとディオゲネスが結婚して、私が彼らの養子になればこの軟禁生活も終わるのだろうか?
いや、でもその場合はソフィアはどうなるのだろう?
私はソフィアのことも同じくらい守ってもらいたい。
「リンクス。大丈夫だ。私は自分でどうにかできる。大人だからな……」
私のそんな気持ちを察したのか、ソフィアはそう言葉をかけた。
大人だからと言って暗殺者たちから守られるわけではないのに、それでも彼女は私を安心させるためにそう言ってくれた。
だが、その優しさが今の私には辛い。
私はまた彼女から与えられているだけなのだと認識してしまうから。
それに今回の件の原因は私だ。
やはり競技会で爆轟魔法を使ったのは間違いだったのではないかと思わされる。
私にもっとちゃんとした力があれば……。
「そう思いつめるな」
ソフィアはそう言って私の手を握る。
「お前は間違ったことはしていない。間違っているのは、悪意を持ってお前を奪おうとしている人間たちだ。お前自身に瑕疵はない……」
ソフィアはそう言ってその濃緑色の瞳で私を見つめる。
私はそのどこまでも優しい眼差しに救われた気がした。
それからリウィアとディオゲネスが結婚式を挙げるという知らせを受けたのは、私たちが襲撃を受けてから4日後のことだった。
私たちもその結婚式には招かれることになっていた。
* * * *
リウィアとディオゲネスの結婚式は街の中心部にある神殿で盛大に開かれた。
リウィアの家もディオゲネスの家も、歴史があるだけで力はないと言っていたのだが、結婚式には大勢が訪れていた。
そこにはフィリッポスの姿もあったし、アンドレアスの姿もあった。
「やあ、リンクス君」
そのアンドレアスが声を掛けてきたのには私たちは少し警戒した。
私たちは結局のところ、彼からの申し出を断って、リウィアの養子になることにしたのだから。
彼は私たちを恨んでいるかと思った。
しかし、彼は意外なことに笑顔であり、私たちを恨んでいる様子はない。
彼は私たちの方に笑顔のままやってくる。
「三月教徒の雇った傭兵に襲撃されたと聞いたが、大丈夫かね?」
「はい。こうして西部連合の魔法使いが護衛についてくれていますから」
今も私とソフィアには4名の魔法使いが護衛についている。
彼らは周辺を警戒しながら、私たちの動きに付いてきていた。
「それならよかった。リウィア君とディオゲネス君に君を取られたのは残念だがね」
「それは……」
やはりアンドレアスは不満に思っていたのだろうかと、そう思い私は不安になった。
「気にする必要はない。政治家は別に婚姻だけで関係を結ぶわけではないのだ。貸し借りも政治家の取引のやり方だ。君の件で私は大きく譲歩し、他の政治家に貸しを作った。いずれはその貸しを返してもらい、私の役に立てるとも。ははは!」
アンドレアスはそう言って愉快そうに笑っていた。
彼は根っからの政治家らしい。
政治的な利益が得られれば、他はどうでもいいようだ。
「それよりも君たちに聞いてほしいことがある」
不意に笑顔を消して、アンドレアスが言う。
「西部連合が三月教徒の反乱鎮圧のために派兵するという話は聞いただろう。我々は魔法使いを中心に軍を派遣するつもりだ」
アンドレアスは続ける。
「そのことで君たちの力を借りたい。早速だが西部連合の守護者として、その力を振るってほしいのだ」
アンドレアスの求めは三月教徒の反乱鎮圧への協力。
そして、すでに私たちは三月教徒に命を狙われている。
「それは西部連合としての正式な申し入れか?」
ソフィアがそう尋ねる。
「ああ。リンクス君を正規魔法使いに任じると同時に発表されるだろう。君たちは断ることもできるが、あまりいい結果にならないと言っておこう。君たちはその力を買われて、この西部連合に移籍したのだから」
「そうだな……」
アンドレアスの言葉にソフィアが呟くように言う。
私たちは誰の養子になったとしても、魔法の力を買われてこれまで好待遇を受けていたことには変わりない。
それにアンドレアスの養子にならなかったことも、私たちが借りを返せていないことを意味している。
「考えておこう。派兵する兵の規模は?」
「そこまで大きなものではない。主力は帝国軍だからね。私たちはあくまで交易路の安全を確保したいだけだ。西部連合にとって厄介なのは交易路を脅かしている三月教徒の海賊たちだ」
「そうか」
そう言えば戦争中も西部連合は海賊対策に艦隊を分散させていたっけ。
「では、よい返事を期待しているよ」
アンドレアスはそう言って立ち去って行った。
「……三月教徒、か。これまで聞いたこともなかった勢力だが、さて……」
ソフィアはそう言って考え込むように手を顎に置く。
「師匠。今はリウィアたちを祝おう?」
「あ、ああ。そうだな。今考えることではないな。すまない、リンクス」
私がそう言うのにソフィアはちょっとだけ慌てていた。
珍しい彼女の表情を見れた。
それから私たちはリウィアとディオゲネスの結婚を祝いに、式場に入る。
「来たか、リンクス」
リウィアは白いウェディングドレス姿で私たちを出迎えた。
白いドレスを纏った彼女はとても綺麗だった。
「結婚おめでとう、リウィア」
「ありがとう」
私が買っておいた花束を差し出して言うのに彼女は笑顔でそれを受け取った。
彼女の結婚は祝福されているのだろう。
花嫁の控室にはすでに多くの花束が置かれ、花の香りで満ちていた。
「しかし、リンクス。命を狙われたとミュロンから聞いたぞ。大丈夫だったのか?」
「ええ。何とか……。それにこれからリウィアの養子になるわけだし、もう手出ししてこないかもしれないよ」
私がそう言うのにリウィアは複雑そうな表情をしていた。
「私とディオゲネスにそこまでの政治力があればいいのだが……」
彼女は政治力が低いからこそ私の預け先に選ばれた。
政治力が高い人間が私を手に入れたことで独裁を始めないように。
だけれど、それはこれから私を守り切れるか分からないことも意味する。
リウィアとディオゲネスは政治的な背景になってくれるが、それが諸外国が手出しできないほどのものかは分からないということだ。
「……リンクスのことは私も守る。お前は名を貸してくれるだけでいい」
「そういうわけにはいかないさ、ソフィア。私もリンクスの親となるのだからな」
ソフィアが静かにそういうのにリウィアは苦笑して首を横に振った。
「さあ、結婚式が始まる。行こうか」
「ええ」
それから結婚式が華やかに行われた。
ウェディングドレス姿のリウィアが父親とともに赤絨毯の上を進み、神々の神殿の司祭の下で待つディオゲネスの下に向かう。
そこで彼らは神々の石像を前に結婚を誓い、宣誓が行われると集まった招待客から花弁がわあっと撒かれた。
拍手も同時に鳴り響き、リウィアとディオゲネスの結婚は祝福された。
とても美しい光景に私は思わず見入ってしまった。
けれども、リウィアが本当にこの景色に一緒に臨みたかったのは、やはりルフスなのだろう。
私がそれを奪ったから彼女はディオゲネスとともにここにいる。
私もまた本当に好きな人とは結ばれないことは分かっている。
ソフィアは恐らく私の好意を受け止めてはくれない。
私の好意には障害が多すぎるから。
私はただリウィアとディオゲネスが抱擁し合うのを見て、自分とソフィアの姿を重ねてみた。
それだけで今は十分だ……。
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