TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──政治の時間//家族
リウィアとディオゲネスの結婚式は最後まで華やかなままに終わった。
結婚式が終わると、ウェディングドレスから着替えたリウィアが私たちの方にやってくる。
「リンクス。今日はうちに来るといい。一緒に夕食を食べよう」
リウィアはそう言って私たちを家に誘った。
「いいの……?」
「もちろんだ。これから私たちは家族になるのだからな。別々に暮らすとしても、一度くらいはともに食事をしておきたい」
私が戸惑うのにリウィアはそう言って誘った。
「ああ。我々は形だけとは言えど家族だ。リウィアのいうように一度は食事をともにしておきたい。ソフィアも一緒にどうだい?」
ディオゲネスもそう言って私に笑いかける。
「なら、お願いします」
私はリウィアたちに頭を下げて、彼女たちの申し出を受け入れた。
「では、屋敷に向かおう」
ディオゲネスはそう言って、用意していた馬車に私たちを案内するように使用人に命じた。
リウィアとディオゲネスは花嫁と花婿の乗る白い馬車。
そして、私たちはちょっと豪華な馬車だ。
リウィアとディオゲネスの屋敷はロンディウスの西の丘の方にあって、そこそこの広さだった。
当然ながら政治力があるアンドレアスやフィリッポスの屋敷よりは小さいが、私たちの自宅よりもずっと大きい。
立派な前庭が広がり、白亜の建物が広がる。
「これはふたりの新居?」
「ああ。ディオゲネスが相続した屋敷だ。古い家だが、手入れすれば使える」
私が問うのにリウィアはそう言って屋敷のエントランスを潜る。
確かに建物の節々からは年季が伝わってくるが、使えないほど古くはなさそうだ。
また調度品などは一新されたらしく、新旧のコントラストが描かれている。
「お帰りなさいませ、旦那様、奥様」
ディオゲネスとリウィアは使用人にそう傅かれて出迎えられ、私たちはそのまま食堂に通された。
食堂には長方形のテーブルがあり、人数分の椅子がある。
壁にはこの家の古い時代のそれを描いただろう絵画などが飾られていた。
「リンクス。お前も今日からこの家の子供だ。何かあれば、私たちを頼れ」
「我々も君の力になろう」
リウィアとディオゲネスはそう優しく言ってくれた。
私は彼女たちに何も返せていないのに、受け取ってばかりなのに。
「……よかったな、リンクス」
ソフィアもそっと私にそう笑いかけてくれる。
でも、彼女は少し寂しそうでもあった。
それから私たちは一緒に食事をした。
食前酒の白ワインと前菜が運ばれてきて、私たちはグラスを重ねる。
「リンクス。君は無詠唱で魔法が使える魔法使いだとリウィアから聞いたが、いつそれに気づいたのだい?」
「それは師匠と森で過ごしていたときだね」
ディオゲネスは尋ねてくるのに私は森にあった山小屋での暮らしを思い出した。
そのときは裕福でもないし、師匠以外から必要ともされていなかったけれど、満ち足りていた。
あの頃の生活が今も私は懐かしい。
でも、恐らくもうあの生活には戻れない。
「今日はめでたい日だ。しかし、同時にきな臭い話も聞こえてきている。君たちは聞いているか。西部連合が南方に派兵するという話を」
「……ああ。私たちにも声が掛けられている。派兵に応じよ、と」
「そうか。君たちもすでに……」
ソフィアが静かに言い、ディオゲネスが憂慮の表情を浮かべた。
「確かにリンクスという最大戦力を投じれば戦争は早期に決着するかもしれない。だが、お前たちは再び戦場に向かうということに同意しているのか……?」
リウィアは少し心配した様子でそう尋ねてくる。
「他に選択肢はないだろう。アンドレアスは借りを返せと迫っている。……だが、もし可能であれば派兵されるのは私だけにできないだろうか? リンクスはこのロンディウスに残ってほしい。安全なこの場所に……」
ソフィアはリウィアに対してそう訴えた。
「それは……私たちの力では可能かどうかは分からないが……本当にリンクス自身も望んでいることなのか?」
リウィアは問う。ソフィアではなく私に。
「私は師匠が派遣されるならば一緒に行くよ。私がここに残り師匠だけ危険な戦場にいかせるのは、嫌だ……」
ソフィアは私を守ろうとしてくれている。
だが、私はソフィアだけを戦地に送り、自分だけ安全な後方でのうのうとしているのは嫌だった。
それでソフィアを死なせたりしたら、私は一生自分を許せないから。
「やはりな。ソフィア、お前はリンクスに対して過保護すぎるぞ。リンクスはもうひとりで生きていける。そのことは私にも分かる。お前がいつまでも赤子のように庇ってやる必要はないのではないか?」
「それは……そうかもしれない……」
リウィアのその言葉にソフィアは視線を伏せる。
「リンクスのことは自分で決めさせてやれ。それが立派に育って弟子に対して師匠のやるべきことだ」
「ああ。分かった」
ソフィアはリウィアにそう言われて私の方をもし分けなさそうに見る。
「リンクス。お前がどういう決断をしても私はそれを受け入れよう」
そしてソフィアはそう言ったのだった。
私はこれから自分で決めていかなければならない。
そうでなければ、ソフィアの重荷になるばかりだ……。
* * * *
それから私たちは食事を終え、帰宅することに。
今も私たちには護衛が付いており、魔法使い4名が守ってくれていた。
「待たせたな。帰ろう」
「ああ」
ソフィアがそう声を掛け、魔法使いたちは応じる。
私たちはリウィアの家の馬車で帰宅。
道中、襲撃されるようなこともなく、私たちは無事に家に戻った。
「……南方への派兵か……」
家に帰ってからソフィアは呟く。
「帝国は崩壊寸前というわけか。西で南で反乱が起きている、と……」
西部連合との戦争が終わったばかりだというのに、すぐに次の戦争が起きた。
帝国は西でも南でも反乱を起されており、その統治基盤は弱っているように見える。
帝国はソフィアが言うように崩壊寸前なのかもしれない……。
「帝国が崩壊するのは、西部連合としても望むところではないのだろう。帝国の東部には魔族がいる。帝国は西部連合にとって魔族にとっての防波堤になる」
私はこのとき知らなかったが、帝国の東部の果てには魔族という人間とは異なる種族が生息しているらしい。
彼らはこれまで何度も帝国などの人類の生存圏に攻め入っていたが、ここ十数年は静かにしているということだった。
しかし、もし帝国が弱体化し、崩壊すれば魔族たちは容赦なく再び侵攻してくるだろうと予想された。
魔族は野生の獣より悍ましい存在で、殺し、奪うことしかやらないそうなのだ。
「しかし、リンクス。お前は自由に決めろ。お前はリウィアが言ったようにもうひとりで生きていける。このロンディウスで大勢の友人もできた。今やリウィアとディオゲネスという家族もいる。だから……」
ソフィアはそう言って視線を俯かせる。
まるでソフィアが私から自由を奪っていると思っているかのような、そんな罪悪感を感じさせる素振りだった。
「私は師匠と一緒にいたい。自由にしていいというのならば私はそれを選ぶよ。私は私の自由意志でソフィアといることを選ぶ……」
私は自分の自由意志でソフィアとともにいたいのだ。
決して誰かに強制されているわけではない。
私を救ってくれたソフィアとともにいたいということは、我がままなのだろうか?
「そうか。リンクス、お前がそういうのであれば今しばらくお前とともにいよう」
ソフィアはそう言い、小さく微笑んだ。
いつもの嬉しさと切なさの混じった複雑な笑みだった。
「少なくともお前が白ローブを纏うまでは時間的な猶予もある。それまではこのロンディウスでゆっくりと過ごすことにしよう……」
「うん」
私たちはそれからともにベッドで眠った。
私はソフィアの優しい香りに包まれているときは、少しだけ戦争や襲撃のことを忘れられた……。
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