TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──平穏の終わり
リウィアの養子になったことで再びの襲撃事件は起きないだろうと判断され、私たちは軟禁状態を解かれて学校にまた通い始めた。
学校では私がリウィアの養子になったことはダフネとテオドラも知ることになった。
「以前テオドラから聞いていたけれど、正式にリウィア隊長の養子になったのね、リンクス」
「おめでとう……でいいのかな、リンクスちゃん?」
講義室で久しぶりに会ったダフネとテオドラがそう声を掛けてくる。
「うん。リウィアもディオゲネスも私を養子として迎えてくれたよ。ふたりともこれからは力になってくれるって」
「よかったわね。とても名誉なことよ」
私は彼女たちの言葉に頷き、ダフネが自分のことのように喜んでくれた。
「けど、リンクスちゃんたちが襲撃されたっていうのはもう大丈夫なの?」
「一応は。リウィアの養子になったから相手も迂闊に手出してこないと思う。けど、それよりも問題があるんだ」
「問題?」
「三月教徒の反乱の話は聞いている?」
私はそこでテオドラたちに三月教徒の反乱鎮圧に私とソフィアが動員される可能性が高いという話をした。
その話を聞いたふたりの反応はそれぞれ異なっていた。
ダフネは何か考え込むように、テオドラは心配そうにしていた。
「確かに三月教徒の反乱が大きな問題になっているのは聞いているわ。それに反乱鎮圧のために西部連合が軍を派遣するということも。しかし、それにリンクスが派遣されるというのは……」
「……戦争に行くの、リンクスちゃん?」
ダフネがそう言い、テオドラはそう尋ねてくる。
「……そうなると思う。西部連合に私と師匠を招いたアンドレアスには借りがあるから、それを返さなければいけない……」
「け、けど、まだリンクスちゃんは生徒だから……」
「うん。だから、私は近いうちに正式に西部連合の正規魔法使いになる。その上で派遣するってことになっているよ」
「えっ……。じゃあ、学校も……」
「そうだね。一応、卒業になるのかな……」
戸惑うテオドラに私はそう返して、改めて講義室の中を見渡す。
短い間だったが、ここに生徒ととして在籍できたことはよかった。
ダフネやテオドラと言ったような友人もできたのだから。
「リンクス」
そこでダフネが真っすぐ私を見てくる。
「私もテオドラもまだ戦場に行けるほどの技量はないから、戦地であなたを支えてあげることはできない。だけれど、それでも私たちは友人だから、困ったことがあったらすぐに言うのよ。いつでも力になるわ」
「……ありがとう、ダフネ」
私が帝国軍の傭兵として従軍したときは、信じられるのはソフィアぐらいだったけれど、今回は私たちの力になってくれる人々が大勢いる。
そう思うと少しだけ心が楽になった。
「私もお父さんに頼んでリンクスちゃんが戦争にいかないでいいように頑張ってみる。まだ諦めるには早いよね?」
「……そうだね」
テオドラはそう言ってくれたが、私が戦場に戻るのはもう避けられないだろうことだった。
アンドレアスに作った借りを返せと迫られたら、私たちは応じるしかないのだ。
彼には大きな借りがあるのに、私は彼の養子にならず、彼に借りを作ったまま。
政治家であり貸し借りを重んじているアンドレアスがそれを見逃すはずがない。
テオドラの気持ちは嬉しいが、私は覚悟を決めていた。
* * * *
それから7日後、私が正規魔法使いに任命されるという話が正式に聞こえてきた。
「競技会などの結果を見ても、リンクスさんはすでに正規魔法使いに相応しい技量を持っていると判断できるでしょう」
西部魔法使い連盟の連盟長であるイレーネが私とソフィアにそう言う。
「しかし、まだ学ぶことがあるというのならば、西部魔法使いの証である白ローブを授けるのは先送りにできますよ」
「……それは政治的に問題はないのか?」
イレーネがそう提案するのにソフィアは慎重にそう尋ねる。
「ないわけではありません。ですが、連盟としてはリンクスさんとソフィアさんを戦場に派遣するよりも、後方で教育や研究に携わってもらった方が我々としてはありがたいのです」
優秀な魔法使いであるならば、後進の育成に貢献してほしい。
優秀な人材を駒として戦場で消耗するというのは愚かであると。
そうイレーネは言っていた。
「それは確かにそうなのだろうが……。アンドレアスなどの政治家から圧力がかかっているのではないか?」
「……確かに圧力はありますよ。それは避けられないことです。アンドレアス議員を始めとする西部連合上層部は交易で富を築いていますから、今の三月教徒の反乱は彼らにとって1日でも早く鎮圧すべきものなのです」
三月教徒の反乱は西部連合の交易路も脅かしている。
三月教徒という宗教組織は金銭を得るために海賊を組織しており、それを取り締まるべき帝国軍も反乱で手が出せないため、南方の海は荒れているとのことだった。
そのせいでアンドレアスも他の議員も経済的損失を出している。
それが西部連合が三月教徒の反乱鎮圧のために軍を派遣する理由であった。
「ですが、それはリンクスさんたちを直接派兵せずとも成し遂げられるはず。西部魔法使い連盟としては派兵には反対です」
「その気持ちはありがたいが、これ以上アンドレアスに借りを作るのは困るんだ」
イレーネの言葉にソフィアは首を横に振ってそう返す。
私もソフィアと同意見だった。
政治家に借りを作るということを私たちはガイウス将軍で経験している。
そして、それは二度と経験したくないものであると認識していた。
アンドレアスは今でこそ友好的だが、いつ豹変するか分からない。
「そうですか……。そうであるならばその意見を尊重しましょう」
イレーネは説得を諦めた様子でそう言い、話はそこで終わりとなった。
それからイレーネの執務室を出てソフィアは私の方を見る。
「……リンクス。お前もこれでいいんだな……?」
「うん。私は師匠とともにいられればそれでいいんだ」
「……そうか」
私の言葉にそう言うソフィアはやはり罪悪感を見せていた。
彼女が感じるべき罪悪感などないというのに。
私は私の意志でソフィアとともにいるのだから。
* * * *
私に白いローブが授けられる日が訪れた。
ローブの授与は魔法学校の講堂で行われることになっており、私はそこに向かった。
普通の魔法使いであれば、それこそお祝いでもする日なのだろうが、私たちにとっては複雑な日であった。
「リンクス」
西部連合の正規魔法使いの証である白いローブを授けるのは、連盟長のイレーネだ。
彼女は白いローブをカリクレスから受け取り、そして私の方に広げる。
「ここにあなたを西部連合の正規魔法使いとして認定します。あなたは魔法使いとして西部連合に責任を持つ身になります。白いローブは権利であり、義務です。そのことを忘れないように」
「はい」
私はイレーネにそう誓い、白いローブを授けられた。
そして与えられた白いローブに袖を通すと、講義室に集まっていた生徒たちから拍手が送られる。
「おめでとう、リンクスちゃん」
「おめでとう、リンクス」
テオドラやダフネ、それにリウィアたちも講義室に集まり、私が正規魔法使いになったことを祝福してくれる。
「リンクス。これで正真正銘、一人前だな……」
ソフィアも私にそう言って頭を撫でてくれる。
私は白いローブをじっと見つめて考える。
このローブは権利であり義務である。
私にとってそれはソフィアを守ることのできる権利であり、彼女を守らなければならない義務だと認識していた。
「師匠」
「どうした、リンクス?」
私はソフィアに告げる。
「これからは私が師匠を守るよ」
そう、西部連合の正規魔法使いとして……。
そして、このローブが授与されてから7日後、私たちは三月教徒の反乱鎮圧のための遠征軍に加わったのだった。
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新章準備のため1週間ほどお休みをいただきます。