TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う   作:第616特別情報大隊

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南方に向かって//海難事故

……………………

 

 ──南方に向かって//海難事故

 

 

 私たちは三月教徒の反乱鎮圧のために南方に向かうことになった。

 出発はロンディウスの港で、そこから南方に向けて船旅になる。

 そして、正規魔法使い15名からなる遠征軍の指揮官は──。

 

「……リンクス。お前も遠征軍に参加するとはな」

 

 ミュロンだ。私とは少なからぬ因縁のある彼が、遠征軍の指揮官だった。

 

「……よろしく」

 

「ふん。お前もその白いローブを纏い、西部連合の正規魔法使いとなったのだ。せいぜい使い倒してやるからな」

 

 ミュロンはそう言い、すぐに私から離れていった。

 

「……ミュロンの態度は気にするな。あいつもお前の価値は理解しているはずだ」

 

 ソフィアは私にそう言い、私たちが乗る船に向かう。

 船はやはりガレー船であり、沿岸に沿うように進みながら、目的地である南方を目指すことになっている。

 

 私は以前の最悪な船旅を思い出してげっそりしたが、これを避けることはできない。

 この時代でもっとも早く移動できるのはこれしかないのだから。

 この時代には車も、鉄道も、飛行機もないのだ。

 そう考えると酷く不便な時代だ。

 

「全員乗り込め! 出港するぞー!」

 

 船員がそう声を上げ、私たちは船に乗り込む。

 ここからは南方に到着するまでできることはない。

 私たちはそう思っていた。

 

 

 * * * *

 

 

 空から降る雷。

 吹き荒れる風雨。

 

「クソ。ここまで天候が荒れるとは……」

 

 雷鳴の中で船員がそう愚痴るのが聞こえた。

 そう、私たちを乗せた船団は嵐に遭遇していたのだ。

 

「師匠……これ大丈夫かな……?」

 

 私は船酔いに参りながらも、ソフィアに尋ねた。

 このまま船が沈没してしまうのではないかと私は心配だった。

 

「分からない。私もこれほどまでの嵐の中を船で移動するのは初めてだ」

 

「師匠も……」

 

「もしかすると船が難破する可能性もある。備えておけ、リンクス」

 

 ここにきて新しいトラブルだ。

 嵐による難破の危機。

 私たちは沿岸を進んでいるものの、こんな嵐に襲われたら敵わない。

 

「本当に天気が荒れている……。どうなることか……」

 

 そう呟く船員。

 船は波で揺さぶられ、今にも押し流されてしまいそうだ。

 海の色は今や漆黒のそれであり、その下に何があるのか想像もできない。

 そんな揺れの中で私たちは海に振り落とされないように掴めるものに掴まる。

 

「波が来るぞー!」

 

 船員がそう叫んだ次の瞬間、船が大きく揺れた。

 船が横転しそうなほどの波で甲板を海水が押し流していく。

 

「師匠! 師匠、大丈夫!」

 

「私は大丈夫だ、リンクス! そっちはしっかりと掴まっていろ!」

 

 私たちの船はまるで川に落ちた木の葉のように揺さぶられ、そして──。

 

「次の波が来るぞ!」

 

「あれは船が転覆する……!」

 

 船員たちが叫ぶ中、私たちの乗っていた船はついに転覆した。

 私もソフィアも海に投げ出され、そのまま私たちは──。

 

 

 * * * *

 

 

「──おい! しっかりしろ、おい!」

 

 私が意識を取り戻したとき、目の前にミュロンがいた。

 

「やっと目を覚ましたか」

 

 ミュロンは私が目を覚ましたのをみると、少し安堵した表情を浮かべている。

 

「ここは……」

 

 私は砂浜に流れ着いていた。

 白い砂浜で破壊された船の破片なども同じように流れ着いていた。

 しかし、ここにソフィアの姿はない。

 

「ソフィアは!?」

 

 私は取り乱して、ミュロンに詰め寄る。

 

「分からん。我々の船団は嵐にやられた。私が見つけたのはお前と数名だけで、お前の師匠はまだ見つかっていない」

 

「そんな……」

 

 私はソフィアが死んだかもしれないと思い、全身から血の気が引くのが分かった。

 足から力が抜け、私は地面にへたり込んでしまった。

 

「しっかりしろ。まだ死んだと決まったわけではない。これから捜索隊を編成して本格的な捜索救難を始めるつもりだ。お前もそれに加わってもらう。今現在動ける魔法使いの数はそう多くないんだ」

 

「……分かった」

 

 ミュロンが私を叱咤し、私は何とか立ち上がる。

 それから私はミュロンたちが臨時の拠点としている場所に向かった。

 それは港湾都市にある西部連合の交易会社の倉庫で、ミュロンたちはそこに間借りして指揮所を設置していた。

 指揮所には生き延びた西部連合の正規魔法使いが6名いた。

 出発したときは15名いた魔法使いが……。

 

「我々は船の残骸を探す。生存者がいるとすれば船の残骸とともに流れ着いたはずだ。ただひとつだけ問題がある」

 

「問題?」

 

「すでにこの付近には三月教徒の反乱が波及している」

 

 ミュロンが険しい表情でそういう。

 

「この街で情報を集めたのだが、三月教徒の海賊たちがこの付近にも出没するようになったということであった。よって、万が一の場合は三月教徒との交戦も覚悟しなければならない」

 

 ミュロンが言うのに魔法使いたちは思案するように唸った。

 

「すぐに捜索を始めよう。私も協力するから」

 

 だが、私には三月教徒がいるならば、より早くソフィアを探し出したかった。

 今すぐにでも飛行魔法で空から沿岸部を探り、ソフィアを探したい。

 そうしないとソフィアが死んでしまったりしていたら、私は……。

 

「ああ。ここは敵地であると考え、2名1組で行動するぞ。リンクス、お前は俺と来い」

 

「了解」

 

 そして、私たちは生存者の捜索を開始しに向かった。

 

 

 * * * *

 

 

 一面の白い砂浜。

 平時ならば美しいと思うのだろうが、今はソフィアのことで頭がいっぱいで美しさなど感じている余裕はなかった。

 

「船の残骸がある。高度を落とすぞ」

 

「了解」

 

 私たちは船の残骸を見つけては高度を落として捜索を行う。

 しかし、生存者は、ソフィアは見つからない。

 ただ残骸が転がっているだけであったり、死体があるだけだったり……。

 私は魔法使いの死体を見るたびに、それがソフィアでないことを祈っていた。

 

「クソ。これは……望み薄か……」

 

 ミュロンがそう愚痴るのを私は聞いた。

 

「まだだよ。まだ探そう。きっと師匠は生きている……!」

 

 私はミュロンが捜索を切り上げるのではないかと思い、そう縋った。

 

「ああ。俺もそう簡単に諦めるつもりはない。捜索を続けるぞ」

 

 ミュロンと私はそれから昼夜を問わずに飛び、捜索を続けた。

 しかし、やはり船の残骸はあっても死体しかない。

 そのように思われたときだ。

 

「リンクス。見ろ、足跡だ」

 

 ミュロンが船の残骸があった場所から複数の足跡が続くのを見つけた。

 

「誰かが生きてて、歩いて浜を離れた……?」

 

「ああ。そう考えるのが妥当だろう。この足跡を追うぞ」

 

 ミュロンはそう言い、私たちは足跡を追う。

 足跡は砂浜を離れて、その先にある砂漠の方に伸びていたが、そこで馬の蹄と車輪の轍が交わった。

 

「馬車で移動した、か? どこに向かっているやら……」

 

「追おう」

 

「当然だ。ついてこい」

 

 私たちは低空飛行で今度は馬車の轍を追う。

 轍は砂漠を先に先にと伸びて行き、そして──。

 

「あれは集落か。不味い予感がしてきたぞ……」

 

 ミュロンは渋い顔をして、集落の方を見つめる。

 集落には軍旗のようなものが翻っていた。

 黒い太陽をかたどった紋章の入った軍旗だ。

 

「クソ。やはりか。あれは三月教徒どもの軍旗だ」

 

 忌々し気にミュロンが吐き捨てる。

 集落を制圧しているのは三月教徒たちであり、そこに馬車の轍が続いていたということは、つまりソフィアは……。

 

「助けに行こう! すぐに!」

 

「ふたりでか? 自殺行為だ。ここは戦力を整えてからだ」

 

「けど……!」

 

「焦れば全員が死ぬぞ。理解しろ」

 

 ミュロンはそう厳しく私に告げた。

 

 そうだ。落ち着かなければ。

 私たちが失敗すれば私が死ぬだけではなく、ソフィアも命を落とす。

 何としても確実に救助しなければいけない。

 

「一度拠点に戻るぞ。そろそろ全員戻っているはずだ」

 

 ミュロンは冷静にそう言い、私たちは一度港湾都市に戻った。

 

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