TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う   作:第616特別情報大隊

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南方に向かって//襲撃前夜

……………………

 

 ──南方に向かって//襲撃前夜

 

 

 私たちは一度拠点である港湾都市に戻った。

 そこで作戦を立てるのだ。

 ソフィアたちが連れていかれたかもしれない集落への侵入作戦を。

 

「ミュロン隊長! 戻られましたか。心配しましたよ」

 

「ああ。俺たちは大丈夫だ」

 

 私たちが何日も戻らなかったせいで、彼の部下たちは心配していた。

 ミュロンはすぐに交易会社の倉庫に入り、地図を広げる。

 

「先の捜索で船の残骸から人間が移動した痕跡を発見した。しかし、その移動先が問題だ。黒い太陽の軍旗が掲げられた集落に、その痕跡は続いていた」

 

「三月教徒の……!」

 

 ミュロンの知らせに魔法使いたちがどよめく。

 

「もし、仲間が捕虜になっているのだとすれば、救わなければならない。そのためにはまず情報が必要だ。慎重にやらなければ犠牲者が増える」

 

 彼は冷静にまず情報を集めると言った。

 

「この街で集落に関する情報を集める。市井の情報屋からこの交易会社の社員に至るまで集められる情報を集めるんだ。地図や人口といった情報から、今どれほどの三月教徒の勢力が存在するのかまで」

 

 そう言い彼は部下たちを見渡す。

 

「さあ、分かったらすぐに情報を集め始めろ! ぐずぐずしている暇はないぞ! かかれっ!」

 

「了解!」

 

 ミュロンが指示を出し、部下たちは慌ただしく情報を集めに向かった。

 指揮所に残ったのは私とミュロンだけ。

 

「……お前には情報を集めてこいとは言えないな。どうにも頼りない。情報を集めさせても偽情報を掴まされて終わりそうだ」

 

 ミュロンは私を見てそう言う。

 確かに私はこの手の情報集めでは役に立てないだろう……。

 

「今は休んでおけ。だが、救出作戦の際には最前線で戦ってもらうぞ。役立たずを養っておけるほど今の状況は甘くない」

 

 ミュロンはそう言い、私を指揮所内にある仮眠室に向かわせた。

 私はそこで休むことにしたが、ソフィアのことを思うと眠ることはできなかった。

 

 

 * * * *

 

 

 私は可能な限り眠ろうと努め、身体を休めたのちにミュロンから声がかかった。

 

「情報が集まった」

 

 彼はそう言い、私に指揮所に来るように促す。

 

「集落はそう大きなものではなく、付近で農業をしている村人が30名程度集まったものらしい。把握できた集落の構造は、このようなものだ」

 

 そう言ってミュロンは紙を広げる。

 紙には集落の情報が書き込まれており、建物の位置やその建物が何なのかについての情報も記されていた。

 

 集落は民家が7軒ほどあり、さらに集落の中心部には小さな神々の神殿があるということであった。

 

「さらに我々は三月教徒の斥候がこの集落を占拠しているとの情報を得ている」

 

 集落にはやはり三月教徒という存在がいる。

 私が知っている三月教徒というものは、帝国中央に歯向かい、西部連合のように独立を求めるだけではなく、帝国中央を打倒しようと考えている人々だということ。

 実際に彼らが何を崇拝し、なぜ戦っているのかは知らない。

 

「占領されたのは2、3日ほど前だそうだ。あくまで斥候の規模であり、敵の数はそう大きなものではないと思われる。そうだな、ネストル?」

 

 ここでミュロンはまだ若い魔法使いにそう尋ねた。

 その魔法使いは男性で、青みがかった黒髪と日に焼けた肌を有し、男性としてはちょっと小柄だった。

 そして何より大きなワシを手に止まらせ、従えている。

 

「はい、隊長。間違いありません。念のために使い魔でも偵察しましたが、敵の規模は大きくても20名前後です」

 

「魔法使いの有無は?」

 

「それは分かりませんでした」

 

「そうか……」

 

 魔法使いが混じっているならば、20名前後の敵でも脅威だ。

 だが、それが分からない。

 肝心なところが分からず、ミュロンが考え込む。

 

「奇襲が必要だな。人質を盾にされても厄介だ。奇襲を以てして速やかに集落を制圧し、三月教徒たちから同胞を救い出す。本当に同胞が囚われているとすれば、だが」

 

 そうなのだ。

 まだ確証がない。

 三月教徒の占領する集落まで痕跡は続いていたものの、それが本当に私たちの仲間の痕跡なのかは不明なままだ。

 だが、見つけられた痕跡はそれひとつしかないというのも事実。

 だから私たちはやるしかなかった。

 

「では、作戦の指示を出す」

 

 ミュロンは作戦を指示し始めた。

 

「敵の反応のなさからして敵はまだ我々に気づいていない。よって深夜に四方に回り込んで複数方向からの同時攻撃を仕掛ける」

 

 ミュロンは集落の地図に印を付けていく。

 

「アルファ、ベータ、ガンマ、デルタの4個の班に我々は分かれる。それぞれ2名1組になり、攻撃と防御を担当し合いながら集落を迅速に制圧することを目指す」

 

 私はそこでちょっと気づいた。

 西部連合はいつの間にか私とソフィアがやっていた攻撃を担当する魔法使いと防御を担当する魔法使いに分かれるという戦法を執っていたのだ。

 

「意外か?」

 

 そこでミュロンが私の疑問に気付いたのか、そう声を掛けてきた。

 

「お前たちが魔法学校で教えていた内容は当然我々の耳にも入っている。そして、それが効率的だと認めたから取り入れた。それだけだ」

 

 ミュロンは内心は気に入らないという顔をしてそう言う。

 しかし、彼はどこまでも職務に忠実なのだろう。

 この任務に関してもソフィアを探すことに全力を挙げてくれているし、敵であった私たちの戦法も導入している。

 彼は……強い。

 

「全員が配置についたら念話で知らせろ。攻撃の合図は俺が下す」

 

 そのままミュロンは指示を続ける。

 

「決して合図の前に飛行魔法以外のものを使うな。それからこれは夜戦になる。敵味方識別は慎重に行え。条件反射で攻撃することがないように」

 

「了解」

 

「では、作戦開始だ。位置につけ!」

 

 ミュロンは魔法使いたちに指示を出し、それに従って魔法使いたちが配置につく。

 2名1組が3組と……。

 

「リンクス。お前は俺と来い。お前は目を付けておかないと何をするか分からん」

 

「……了解」

 

 確かに今の私はソフィアの姿が見えたら、それだけで独断で行動してしまいそうだ。

 ミュロンが目を付けておかなければならないというのも自分で理解できた。

 

「分かったなら行くぞ。夜までもうあまり時間はない」

 

 ミュロンはそう言い、私は彼に続いて交易会社の倉庫を出た。

 

 

 * * * *

 

 

 私たちは砂漠と岩場と灌漑された農場の上を飛び、集落を目指した。

 私とミュロンは北からの攻撃を担当しており、集落が見える位置につく。

 

「……今のところ、内部の様子に変化はないか」

 

 ミュロンは使い魔を飛ばしているネストルから念話でそう連絡を受けて呟く。

 

「ここから見える限りでは武装した人間の数は12、13名程度だが……」

 

「ローブの姿の人間はいないね」

 

「ああ。だが、魔法使いが必ずローブを着ているわけではない」

 

 魔法使いがローブを着ているのは、単にその地位を示すものであって、魔法の行使には特に必要ない。

 だから、一般人に偽装するためにローブを脱いでいる可能性も否定はできなかった。

 

「クソ。本当に魔法使いの規模が分からないのが厄介だが、こうなっては仕方がない。このまま手出しせずにいて援軍でも呼ばれたら面倒だ。ここで仕掛けるぞ」

 

 ミュロンはそう言って襲撃を決意した。

 

「全部隊、味方と捕虜、民間人に注意して攻撃しろ。攻撃前には敵味方識別を厳密に行うように」

 

 彼は再度そう命じ、私の方を見る。

 

「お前も理解できているだろうな、リンクス?」

 

「うん」

 

 民間人に死者を出すのは、ソフィアが嫌った無駄な殺しだ。

 私は決してそのようなことはしないと決めていた。

 

「よろしい。では、防御は俺が担当する。お前は攻撃に回れ。何かあれば役割を交代するが、基本はこれだ。いいな?」

 

「了解、ミュロン隊長」

 

「ふん。では──やるぞ」

 

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