TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
……………………
──南方に向かって//因縁の再会
それから捕虜の三月教徒たちは激しい尋問を受けたと聞いた。
魔法は使い方によっては激しい拷問に使える。
そして、ミュロンはその手のやり方を知っている側の人間だった。
「捕虜の尋問で我々の仲間が連れ去られた場所が分かった」
捕虜の尋問は2日間かけて行われ、ミュロンは彼らから情報を引き出した。
「囚われた仲間たちはここから南東にある三月教徒の拠点に連れ去られたようだ。情報を照合したが、そこには確かに三月教徒の反乱を受けて放棄された砦があり、そこには以前から三月教徒が居座っているそうだ」
放棄された砦が今や三月教徒の拠点になっているという。
そこにソフィアたちは連れ去られた……。
「流石に我々だけで捕虜がいる要塞は落とせん。ここはまず予定通りに帝国軍との合流を目指す。やつらに加勢してもらおう」
「けど、それじゃあ……!」
その間にソフィアが殺されたりするのではないかと私は恐れた。
私は1秒でも早くソフィアを助けに向かいたかった。
「身代金を要求するつもりなのだ。殺しはしない。我々がここでしくじれば、それこそ助ける見込みはなくなるぞ。理解しろ、リンクス」
「はい……」
悔しいけれどミュロンの言っていることは正しい。
私たちがたった6名で砦攻めをして、失敗すれば私たちもソフィアも死ぬだろう。
そうなるのは最悪だ。
「我々はここから東部にある帝国軍の陣営を目指す。交易会社が船を準備してくれた。それに乗って向かうぞ。次は嵐に遭わないといいのだが」
嵐さえなければ私たちは全員が無事に帝国軍の下に到着していたのだ。
魔法でも天候は操作できないため、私はただ苛立ちを感じた。
それから私たちは港湾都市に一度戻り、そこから船で東部を目指す。
海は今回は穏やかであり、安全な船旅が行われた。
そして、私たちが到着したのは異国の雰囲気が漂う港湾都市。
帝国軍の竜の軍旗を掲げた船が停泊しているのを見なければ、帝国領ではないと思うぐらいにそこは異国であった。
人々の服装も、漂い匂いも、建物の作りも全てが異なる。
「ここが帝国軍の拠点であるタラシアだ」
私たちを乗せた船はその港に入り、私たちは桟橋に降りる。
そのタラシアの港で私たちを出迎えたのは、予想外の人間だった。
「ようこそ、西部連合の皆さん。私は司令官のガイウスです」
ガイウス将軍だ。
彼がこの帝国軍が拠点としている港湾都市にいたのだ。
「ガイウス……将軍……?」
「おや。リンクスではないですか。久しぶりですね」
私が狼狽えるのを見て、ガイウス将軍がにこりと笑う。
実に胡乱な笑みだ。
「知り合いか?」
「……一応は」
「そうか……因縁がありそうだな」
私が俯いて告げるのにミュロンは事情を察したようだ。
私とガイウス将軍の間に確執があることを。
「ガイウス将軍。早速だが頼みがある」
「まあ、待ってください。詳細は司令部で聞きましょう」
ミュロンが申し出るのにガイウス将軍はそう言って私たちを司令部に案内する。
司令部はアンドロポリスのときと同様にタラシアの市庁舎に設置されていた。
「私はここの軍政長官も任されていましてね。さて、話を聞きましょう」
ガイウス将軍は椅子に座ってそう尋ねてくる。
「我々の仲間が三月教徒の捕虜になった。救出のために人手が借りたい」
ミュロンが乗っていた船が嵐のせいで難破したことと、その現場から三月教徒たちが仲間を攫ったことについてガイウスに説明した。
「ほう。そのようなことが。どうりで今いる魔法使いが少ないわけです」
ガイウス将軍は納得したように頷く。
「いいでしょう。我々としても西部連合の魔法使い戦力には大いに期待していましたから。救出に手を貸します」
「ありがとう、ガイウス将軍」
ガイウス将軍はそう言い、ミュロンが安堵の表情を浮かべた。
しかし、私は少しだけ心配していた。
あのガイウス将軍が見返りも求めずに人助けをするだろうかと。
しかしながら、この場ではガイウス将軍は何かしらの見返りは要求せず、軍を準備させると言い、従卒に私たちをこのタラシアにある帝国軍の宿舎に案内させた。
宿舎はタラシア内の宿屋が割り当てられており、私たちはその宿屋に入る。
宿屋は高級なそれではないが、清潔な場所であった。
私がその宿屋のベッドで横になり、ソフィアが無事であることをただただ祈る。
* * * *
「リンクス」
宿屋で待つこと半日ミュロンに呼ばれた。
「ガイウス将軍から呼び出しだ。司令部に行くぞ」
ミュロンはそう言い、私たちは司令部となっている市庁舎に向かう。
司令部に向かうのは私とミュロン、そしてワシを連れたネストルという魔法使い。
「ミュロン隊長」
私はガイウス将軍と話し合う前にミュロンに警告しておくことにした。
「気を付けて。ガイウス将軍は軍人というよりは政治家だから……」
「……そうか。分かった。気を付けよう」
ミュロンは私のその言葉だけで、ガイウス将軍に対して気を付けるべきことを理解した様子だった。
それから私たちは市庁舎に向かい、番兵の誰何を受けたのちに中に通された。
市庁舎の中ではガイウス将軍と部下が、地図を見下ろしていた。
それはソフィアたちが連れ去られた要塞付近の地図のようだが……。
「来ましたね。早速ですが、救出作戦にかかりましょう」
ガイウス将軍は相変わらずの怪しい笑みでそう言い、私たちに机に広げている地図を見るように促す。
「放棄された要塞の位置はここです。見ての通り、周囲には遊牧民が使う街道があるだけで、ほとんどが何もない荒れ地です。だからこそ、帝国軍はこの要塞を守ることに固執せず、放棄したのですが」
要塞の周りには街があるわけではない。
ただ砂漠と荒野の真っ只中にその要塞はあり、周囲には守るべきものは特に存在しなかった。
「かつてこの要塞はこの地を治めていた国のものだったのですが、その国が滅び、国とともに街も滅びてからは治安維持のための小規模な拠点や遊牧民の避難所として維持されていました」
この荒野はかつては国が存在していたが、帝国に滅ぼされた。
今は砂漠と荒野の中に特に意味のない要塞が残るのみだ。
「三月教徒たちはここを再拠点化し、立てこもっています。我々帝国軍にとっては価値のない目標ですが……そちらには叩くべき目標となっている。そのことをまずは理解していただきたい」
ガイウス将軍はそう言ってミュロンの方に視線を向ける。
これは貸しだぞというような視線だ。
「西部連合の魔法使いたちを当てにしていたのだろう? ならば、その救出はそちらにとっても必要なはずだ。そちらにとってもこの要塞は叩くべき目標だと思うが?」
「なるほど。確かにその通り。失礼しました」
ガイウス将軍は思ったよりあっさりと引いた。
さっきのはミュロンがどのような反応をするのか試したのだろうか?
だとすれば、相変わらず性格が悪い。
「さて、作戦ですが魔法使いを主力として行おうと考えています。こちらの正規魔法使いと傭兵を動員します。西部連合側も魔法使いを提供してください。魔法使いの機動力と火力によって相手に対応する暇を与えずに制圧する。それが作戦の要です」
ガイウス将軍はミュロンにそう語る。
確かに歩兵でこの荒野と砂漠を行軍していたら、すぐに敵に察知されてしまう。
そうなれば敵は守りを固めるだろうし、捕虜の身も危ない。
「合理的だな。了解した。こちらは全ての魔法使いを動員する。そちらは具体的にどれだけの魔法使いを出してくれるのだ?」
「正規魔法使いを4名、傭兵を6名です。我々は他の戦線でも魔法使いを必要としていますので、これ以上は出せません」
「ふむ。まあ、それだけあれば十分だろう」
三月教徒の反乱は南方地域に広く広がっているということだった。
そのため帝国軍の魔法使いも各地に分散しており、この救出作戦に動員できるのはこれだけということであった。
「無事に捕虜が救出できるようにお互い努力しましょう」
にこりとガイウス将軍は笑って言う。
彼はそれから私の方に視線を向けた。
「ところで、リンクス。私たちの再会を祝って、あとで食事をしませんか?」
「……遠慮する」
「そう言わず。謝りたいこともあるのです」
私はガイウス将軍にそう言われてミュロンの方を見た。
ミュロンは戸惑った様子だが、すぐにガイウス将軍の方を見る。
「こいつはすでに西部連合の正規魔法使いだ。それを踏まえた上で食事に誘っているのだな?」
「ええ、ええ。引き抜いたり、殺そうとしたりはしません。帝国中央は西部連合との関係悪化を望んでいませんから」
「そうか……」
ガイウス将軍の言葉を受けてミュロンは私の方を見る。
「だそうだ。どうする?」
「……はあ。分かった。食事を一緒にするだけだよ」
ミュロンが問い、私はため息交じりにそう答えた。
「決まりですね。では、行きましょう、リンクス」
ガイウス将軍はにこにこの笑みでそう言い、私を連れて市庁舎の食堂に向かった。
……………………