TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──反乱都市//反乱
私たちは後方に大きく退却し、反乱が起きた場所に戻ってきた。
反乱が起きたのは都市だった。
それも街道が交差する重要な都市だ。
人口は2万人ほどのこの時代では大都市に当たる都市。
ここを制圧されていると帝国軍は本国との後方連絡線が断たれてしまう。
「不味いな……」
この状況にソフィアもそう呟き、西部連合の軍旗が掲げられた都市の方を見る。
しかし、彼女は帝国軍がこのまま干上がることだけを懸念したわけではない。
「よりによって都市で反乱とは。これは地獄になるぞ」
ソフィアの言うことはいつだって正しい。
この戦いは地獄になった。
帝国軍は都市を包囲し、降伏を要求。
しかし、西部連合側はそれを拒否した。
帝国軍が送った軍使は殺害され、首だけになって帰ってきた。
「おのれぇ……! 忌々しい反乱軍め……! 皆殺しだ! この都市の反乱軍は根絶やしにする!」
帝国軍の司令官クイントゥス将軍は怒りを露わにして、都市への攻撃を命令。
都市を包囲している帝国軍は包囲戦から攻城戦へと移行した──。
「撃て!」
木材を集めて作られた投石器から石材が都市に放り投げられる。
石材は放物線を描き、都市の中に落ちたのが上空にいる私の目に見えた。
市街地に落ちた石材は家屋を破壊したが、幸いそれは無人の建物で、私の目には死者は見えなかった。
だが、都市には燃え盛る油なども投げ込まれており、一部では火災が生じている。
しかし、それよりも恐ろしいのが魔法使いの攻撃だ。
帝国軍の正規軍に所属する魔法使いが、この戦いには投入されていた。
「見ておけ、リンクス」
ソフィアは私と同じように飛行魔法で空を飛び、上空から地上を見渡す。
「帝国軍の魔法使いの戦い方というものを。お前はまだ学ぶべきことが多い」
私はソフィアの言葉に頷き、地上にいる魔法使いたちを見る。
地上では魔法使いたちによって魔法陣が描かれ始め、都市に立て籠もる反乱軍への攻撃準備が進められていた。
魔法陣をあそこまで準備するのは、かなり大きな魔法を使うためだ。
私はあんな魔法陣からどのような魔法が繰り出されるかを知らない。
確かに学ぶべきことになるだろう。
『偉大なる精霊たちよ──』
それから長い詠唱が始まり、魔法陣が青白く光る。
魔力による攻撃の兆候だ。
魔法陣から複数人の凝集された魔力が浮かび、それらが無数の矢になって都市の城壁に向けて降り注ぐ。
前にも言ったように威力を高めた魔力の矢による攻撃は、対物ライフルに使用される大口径ライフルのそれに匹敵する。
人体が砕ける。人体が爆ぜる。人体が消滅する。
西部連合の都市を守る兵士たちは一瞬で血の霧へと化した。
だが、それでも敵が全滅したわけではない。
「突撃!」
クイントゥス将軍の命令で作られた破城槌が前に出され、西部連合の守備隊が打撃を被っている間に城門を破ろうとする。
ただ魔法でこじ開けた突破口は、同じく魔法によって塞がれるということ。
破城槌が破ろうとした城門が魔力装甲に覆われ、破城槌の攻撃を弾く。
さらにはまさに矢のような放物線を描いて城壁内から魔力の矢が帝国軍を襲った。
今度は帝国軍がぐちゃぐちゃのミンチに変えられる。
当然ながら突破は失敗。
両軍の人間だった残骸だけが山のように積み上げられた。
「……これが魔法使いの戦争だ」
ソフィアは両軍の兵士の死体が片付けられてゆく様子を見て呟くようにそう言った。
死体の山になった兵士たちの中にはソフィアが行軍の最中に見ていた若い兵士もいたのだろう。
彼女の瞳の色は憂鬱な暗い色をしている。
……それからクイントゥス将軍はこのような無謀な突破作戦を3回は繰り返し、いずれも同じように阻止されると非常に不機嫌になっていた。
「閣下。ここは兵糧攻めにしては? 長期戦になれば利は我らにあります」
「ダメだ、ダメだ! いつまでもここで足止めを食らうわけにはいかない! 第2軍は今も進軍しているのだぞ!」
街道が交差する場所とは言えど、城壁の外にいる帝国軍は比較的飢餓に強い。
だが、城壁の中に閉じこもった西部連合はいずれ食料が尽きるだろう。
だから、クイントゥス将軍の部下が提言したことは正しい。
だけど、クイントゥス将軍はライバルのティベリウス将軍が今も進軍していることが許せず、迅速な攻撃によって都市を陥落させることに拘った。
「魔法使い! 何か案はないのか!?」
そう問われたのは私たちではなく、動員されている帝国軍の魔法使いだ。
名前はガイウスという中年の男性魔法使いである。
魔法使いの証である紫色のローブを身に着け、さらに帝国軍所属であることを示す黒いドラゴンの紋章を背中に入れていた。
「閣下。恐れながら申し上げますに、魔法使いの火力は向こうが上です。このまま撃ち合えば勝つのは向こうでしょう」
「帝国の正規魔法使いが反乱軍に劣ると言うのか!」
「いいえ、閣下。確かに練度は我々の方が上なれど、数が違います。こちらが動員した魔法使いがたったの6名で、敵側には10名以上の魔法使いがいます」
「むう……」
ガイウスが言うのにクイントゥス将軍は唸っていた。
「……練度の方も怪しいところだが」
ソフィアは私だけに聞こえる声量でそう呟く。
西部連合は資金力に言わせて国内外の傭兵を雇っていると言っていた。
それは帝国の正規兵より練度が高い傭兵もいる可能性を示している。
「いずれにせよ、我々はこの都市を奪還せねば移動はできん!」
そう言って椅子にどかりと座り込むクイントゥス将軍。
「魔法使いは引き続き攻城戦に従事せよ! 夜襲でもなんでも使って都市を落とせ!」
クイントゥス将軍はそう言い放ち、私たちを司令部から追い出した。
「いかんともしがたいですな、ご同業」
司令部の天幕を出るとガイウスが私たちにそう声をかけてくる。
ソフィアは肩眉をちょっと上げると、立ち止まってガイウスの方を見た。
「ご同業? 私たちは傭兵だが?」
「ですが、同じ魔法使いだ。何かいい提案はありませんか?」
ガイウスは物腰低く、そう尋ねてくる。
「これ以上、無意味に若い兵士たちが磨り潰されるのはお互い見るに堪えない。そうでしょう?」
「……私たちにできることはない。このまま包囲して、兵糧攻めにでもして、敵が降伏するのを待つ以外は」
「おや。それは違うのでは? ブルガル川の渡河作戦のあとで見たあのすさまじい爆発魔法。あれを使えば、状況を打破できるような気がするのですが」
ソフィアが首を横に振るのにガイウスがにやりと笑ってそう指摘する。
ソフィアはしまったと言う顔をして、ガイウスを睨んだ。
気づかれていたのだ。
私かソフィアがあの爆発を起こしたということは、とっくに。
「あれを市街地に使えと?」
「いずれにせよ、クイントゥス将軍は都市の住民を残らず反逆者として処刑するでしょう。死ぬのが今か数週間後かの違いです」
兵糧攻めにしても都市の住民は飢えて死ぬとガイウス。
「……考えさせてくれ」
「ええ。明日の朝までに結論をお願いします。そうしないと攻撃が再開されてしまい、まだ無意味な犠牲が出ます」
ソフィアはそう言い、私を連れて自分たちの天幕に向かった。
それから彼女は酷く考え込んでいた。
私が夕食のパンとチーズ、そしてスープを運んできてもそれに手を付けない。
本当に辛そうな彼女の表情は見ていられないほどだった。
「……リンクス。お前はどう思う?」
長い沈黙の末にソフィアは私にそう尋ねた。
「あれはお前の魔法だ。お前が行使する魔法だ。お前の意志を無視して強要するわけにはいかない。無理であれば無理と言っていい。私がどうにかする……」
そして、ソフィアは私の方をその物憂げな濃緑の瞳で私を見つめる。
「ソフィアが望むなら、やります」
「……そうか」
ソフィアが望むなら何だろうとやると決意した。
今さらそれを翻すつもりはなかった。
私は彼女に報いたい。まだ何も返せていないからなおのことだ。
「では、やるぞ」
ソフィアはそう言い、立ち上がった。
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