TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──救出作戦//タラシアにて
ソフィアたちを無事に救出した私たちはタラシアへと帰還した。
「やあやあ。全員、無事なようで何より」
馬車がタラシアに戻るとガイウス将軍がそれを出迎えた。
ガイウス将軍の姿を見たソフィアは少しだけ険しい表情をする。
「ソフィア。お久しぶりです。あなたが無事に助かってよかった」
「……ああ。そうだな」
ガイウス将軍がにこにこと不気味なほど上機嫌に笑って挨拶しても、ソフィアの警戒は解けることはなく、表情は険しいままだ。
「ミュロン隊長。暫くの間、捕虜となっていた方々は病院に移しましょう。療養が終わったら、捕虜となっていた間に何か聞いていなかったか聴取したい」
「分かった」
ガイウス将軍はそれから捕虜になっていた西部連合の魔法使いたちをタラシアの病院に収容し、ソフィアもそこで療養することになった。
ソフィアたち捕虜は魔法が詠唱できないように捕虜になっていた間、ずっと猿轡をはめられていたため、水分も食事もとれていなかった。
疲弊の原因はそれにもあり、まずは白湯の摂取から治療は始まった。
長期間、空腹だった直後に重い食事をするのは消化器官の負担が大きいそうだ。
「師匠。歩けそう?」
「ああ。もう大丈夫だ」
入院から2日。
ソフィアたちの体力は徐々にだが回復しつつあり、ソフィアも以前のように杖を使って歩けるようになっていた。
「今日はもう食事を自由にしていいって言われたから、リンゴを持ってきたよ」
「ありがとう、リンクス」
「剥いてあげるね」
医師からソフィアたちに食事の許可が出たので消化のいい食べ物として私はリンゴを持ってきた。
果物ナイフで皮をむき、ソフィアに差し出すと彼女は美味しそうにそれを食べた。
しゃくしゃくと小気味いい音を立ててソフィアはリンゴを咀嚼する。
「……お前には心配をかけたな。すまない、リンクス」
「気にしないで。私もずっと師匠に心配をかけてきたから……」
ソフィアが申し訳なさそうに言うが、私はそれを否定した。
私の方がずっとソフィアに心配をかけていた。
弟子にしてもらったときから、ほぼずっとだ。
だから、私はソフィアのことを大事に思っている。
私たちがそんな言葉を交わしていたとき、病室の扉が開いた。
「やあ、ソフィア、リンクス。少しいいかね?」
病室に入ってきたのはガイウス将軍とミュロンだ。
彼らは病室に入り、ソフィアのベッド脇に座る。
「……何だ?」
「三月教徒の捕虜になっていたときのことについて知りたい。彼らから何かを聞いたりしなかったかな?」
「ふむ……」
ガイウス将軍が尋ねるのにソフィアは考え込む。
「これと言った情報はないが、連中は私たちと交換で身代金を得るためにアルダシールという男と連絡を取らなければと言っていた。私が聞いた固有名詞はそれぐらいだ」
「アルダシール、ですか。その男がどこにいるかは?」
「いいや。流石に捕虜の前でべらべらと喋るほどやつらも馬鹿じゃなかった」
「それもそうですな」
ガイウス将軍はアルダシールという人名に何か引っかかるところがあるのか考え込んでいる。
「……アルダシールは三月教徒の指導者のひとりと目されている男です。アルダシールの居場所が分かれば本当によかったのですが……」
「要塞から地図などの情報は回収していないのか?」
「捕虜の救出が最優先でしたので」
そう言ってガイウス将軍はミュロンの方に僅かに視線を向けた。
「ネストルが僅かだが地図などを回収した。だが、拠点の位置情報などはあいまいだ」
三月教徒が要塞に残していた地図や命令書の一部をミュロンの部下であるネストルが回収していたものの、地図自体の精度がいまいちなうえ、詳細な情報もなかったそうだ。
「まあ、情報に関してはこれから追々集めていきましょう。今はゆっくり休まれてください。全ては全員の体力が回復してからです」
ガイウス将軍はそう言い、ソフィアの病室から出ていった。
「……三月教徒の指導者か……。一体どういう理由で反乱を起したのだろうな……」
ソフィアはそう呟くように言った。
彼らは犯罪奴隷が反乱を起したと言っていたけれど、奴隷制度に反対したり、神々と精霊への信仰をやめるように求めたり、ただの金銭的利益だけで動いているようには思えない。
彼らがなぜ反乱を起したのか。
それは私にも気になることであった。
* * * *
ソフィアたち捕虜だった魔法使いが完全に体力を回復させたのは、それから1週間後のことだ。
それから私たち魔法使いは司令部である市庁舎に集まり、そこでガイウス将軍と会合の場を持った。
「皆さん、回復されたようで何よりです」
ガイウス将軍はいつもの胡散臭い笑みでそういう。
「さて、現状を説明しましょう。我々は三月教徒の有力な指導者と目される人物アルダシールを追っています。彼を拘束し、殺害することはこの反乱に対する手痛い一撃になるはずですので」
「暗殺か……」
ガイウス将軍の言葉にソフィアが小さく呟く。
反乱の指導者を暗殺して、その勢いを削ぐ。
つまりはそういうことだ。
「しかしながら、現状アルダシールがどこにいるのかの情報はさっぱりありません」
そう言って肩をすくめるガイウス将軍。
「まずは情報収集が必要であると考えます。私は配下の密偵に情報を集めさせていますが、三月教徒はなかなか情報を掴ませません。というのも、彼らは神々と精霊への信仰を捨てたものとしか交渉しないからです」
「どういうことだ?」
ガイウス将軍の言葉にミュロンが怪訝そうに尋ねる。
「そのままの意味ですよ。彼らははっきりと棄教した人間しか認めていません。これまで大勢が虐殺されていたのをあなた方も見たのでは? それは棄教を拒んで殺害された人間たちです」
どうにもアンバランスだと思っていたことが、はっきりした。
奴隷制度廃止を訴える一方で虐殺にも手を染めていた三月教徒。
その虐殺の理由は改宗を拒んだことが理由だった。
「三月教徒の内部に潜り込み、情報を集めるには彼らが課す棄教と改宗の儀式に参加しなければなりません。しかし、我々は神々と精霊への信仰をやめることなど恐ろしくてできない。それゆえに内部情報が手に入らないのです」
「……すでに三月教徒となっている人間を買収するというのは?」
ガイウス将軍の言葉にソフィアがそう提案する。
「それも考えましたが、ダメです。一度三月教徒となればそこにしか居場所はない。だから、彼らはなかなか仲間を裏切りません。それに買収しようと交渉しようにも、三月教徒でなければ交渉人が殺されてしまいます」
お手上げですとガイウス将軍は両手を上げた。
「というわけでして、我々は捕虜から情報を得ようと考えています。しかし、ただのそこらの雑魚では大した情報は手に入りません。それなりに地位のある三月教徒を捕虜にしなければなりません」
ガイウス将軍はそう言って続ける。
「三月教徒の軍指揮官ならば、多少は情報を持っているでしょう。そこで我々は現在南東にて集結中の三月教徒の軍勢と野戦に臨み、そこで軍勢を指揮している指揮官を捕虜とすることを目指したいと思います」
これは魔法使いと使い魔による航空偵察で手に入れた情報ですとガイウス将軍。
「というわけでして、あなた方にもその野戦に参加していただきます。捕虜を得るのはあなた方です。くれぐれもうっかり間違って捕虜を殺さないようにお願いしますね」
ガイウス将軍はそう命令を下した。
「敵野戦軍の規模は?」
「1万から1万2000名。練度はそう高くありません。ほとんどは脱走した奴隷たちです。魔法使いに関しても同様で、犯罪奴隷や借金奴隷だった魔法使いが反乱に参加しています」
「ふむ。具体的な魔法使いの規模は分からないのか?」
「あいにくですが。ですが、そう数は多くないはずです」
ミュロンが尋ねるのにガイウス将軍はそう言う。
「なぜそう言い切れる?」
「あなた方もご覧になったのでは? 敵は魔法使いを文字通り使い捨てにしています。自爆させることによって」
ああ。そうだ。敵の魔法使いは自爆戦法を使ってくるのだ。
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