TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
……………………
──情報任務//敵指揮官
私たちは帝国軍と三月教徒が衝突するのを上空から見ていた。
帝国軍はまず弓兵と魔法使いが遠距離攻撃を放ち、無数の物理の矢と魔力の矢が三月教徒側に降り注ぐ。
それに対して三月教徒たちも反撃を始める。
そのような撃ち合いをしながら、両軍はじわじわと距離を詰めていく。
「アウルス将軍指揮下の魔法使いはたったの6名か……」
ソフィアは三月教徒と撃ち合っている魔法使いを見てそう言う。
アウルス将軍隷下の第4軍に所属している魔法使いはたったの6名。
西部連合の義勇軍だけでも12名の魔法使いがいることを考えれば、数は少ない。
それに加えて私たちにはコルネリアたち4名の帝国正規魔法使いもいるのだ。
「けど、師匠。火力は負けてないみたい」
私はその6名の魔法使いが、前線で数を揃えていた敵魔法使いと互角に撃ち合っているのを確認してそう指摘する。
彼らは決して撃ち負けてはいない。
むしろ、彼らの方が優勢なぐらいだ。
「そのようだ。練度の違いというものか」
ソフィアはそう呟き、使い魔を飛ばす。
先ほどからネストルとソフィアのふたりが使い魔を飛ばし、敵野戦軍指揮官の居所を探っていた。
この広大な平原で激突する万を超える人間の中から指揮官を見つけるのは大変だ。
「ミュロン隊長。それらしき人間を発見しました!」
と、ここでネストルがそう告げる。
「どこだ?」
「敵野戦軍後方です。他の三月教徒たちがぼろ布に略奪した鎧を纏っているだけなのに、こいつだけしっかりした装備をしています。それに近くには三月教徒の黒い太陽の軍旗が掲げられています」
「間違いなさそうだな。ソフィア、お前の方はどうだ?」
ネストルが後方を探るのに対してソフィアは前方を探っていた。
彼女は前方を使い魔で探り、それから首を横に振る。
「前方にそれらしき人間はいない。ネストルの見つけた人間が当たりだろう」
「よし。では、早速拉致しにかかるぞ」
ミュロンはそう言うと部下を従えてネストルが指揮官を発見した場所に向けて飛行。
地上から矢や投石が飛んでくるのを魔力装甲で防御しながら、私たちは敵指揮官を捕らえるべく後方に向けて飛行する。
「敵の魔法使いが上がってきます!」
ここで敵の魔法使いが要撃に動いた。
上空に飛び上がった赤いローブの魔法使いたち6名が、私たちに向けて突撃してくる。
「リンクス、ソフィア! 片付けろ!」
敵の魔法使いを片付けるのは私たちの仕事だ。
いつものようにソフィアが防御を担当し、私が攻撃を担当して前に出る。
「行くよ、師匠」
「ああ。思いっきりやれ」
私はソフィアにそう言い、ソフィアは魔力装甲を展開させた。
敵の魔法使いはこちらに向けて魔力の矢を放ちながら迫っている。
魔力の矢による攻撃を防ぎながら、私たちは敵の魔法使いに向けて反撃した。
「えい!」
もう私が無詠唱魔法使いであることは、帝国軍も西部連合も知っている。
隠す必要はないので、私は思いっきり無詠唱で敵に魔力の矢を叩き込む。
敵の練度が低いと言っていたガイウス将軍の言葉は正しかった。
敵の魔法使いはあっさりと魔力装甲を抜かれ、撃墜されてゆく。
「おおおおっ!」
しかし、それでも敵の魔法使いは撤退を選ばなかった。
彼らは直進し続け、私たちに肉薄しようとする。
恐らくは自爆に巻き込むためだ。
「近寄らせるな、リンクス!」
「了解、師匠!」
私は魔力の矢を叩き込み続け、迫る魔法使いを1名、また1名と撃墜した。
『偉大なる精霊たちよ──!』
コルネリアたち帝国軍の正規魔法使いたちも敵を撃墜した。
瞬く間に三月教徒の魔法使いは数を減らしたが、それでも1名が私たちに肉薄。
『唯一なる我らの神よ! 我らが敵を討つ力を──!』
敵の魔法使いの身体が赤く光る。
「てい!」
そこで私は魔力の刃を形成し、その真っ赤な刃を敵の魔法使いに向けて振るった。
魔力の刃は敵の魔法使いを真っ二つにし魔法陣も切断。
効果を失った魔法陣は発動することなく、自爆は阻止された。
ばらばらになった三月教徒の死体が地上に向けて落下していき、私たちはひとまず敵の脅威を退けた。
「ミュロン隊長。敵魔法使いの要撃を撃破した」
「よくやった。このまま敵指揮官の捕縛を目指すぞ」
ミュロンはそう言い、私たちは敵指揮官の下に急ぐ。
敵の指揮官が1万を超える野戦軍を放置して逃げるとは思わないが、万が一ということもある。
急ぐにこしたことはない。
私たちは敵隊列後方に迫り、ネストルの先導で敵野戦軍指揮官の下へ。
「いたぞ……!」
黒い太陽の軍旗。整った鎧。高価そうなマント。
あれが敵野戦軍の指揮官で間違いないだろう。
「指揮官の捕縛と周囲の雑魚はこちらに任せろ。リンクス、お前たちはさらなる敵魔法使いの攻撃に備えておけ」
「了解、ミュロン隊長」
ミュロンたちは指揮官の周りの警護を排除しながら、指揮官の捕縛を目指す。
「異教徒どもだ!」
「殺せ!」
敵指揮官の護衛は貧相な武装の兵士が数名であり、大した敵ではなかった。
ミュロンは魔力の槍を形成して、それらの護衛を排除し、敵指揮官の方を向く。
敵指揮官は中年の男性で、ミュロンたちに護衛が排除されると狼狽えていた。
「き、貴様ら! 私の首が狙いか!」
「あいにく首は取らん」
ミュロンはそう言い、魔力の鎖で敵指揮官を捕縛。
魔力の鎖で縛られた敵指揮官は、そのままミュロンと組んでいたネストルに飛行魔法で連れ去られる。
「敵指揮官を確保した。撤退だ!」
ミュロンはそう命じ、私たちは撤退を開始。
しかし、敵の指揮官が捕縛されたというのに敵野戦軍は動揺した様子がない。
帝国軍との戦闘を継続しており、士気が崩れる様子もなかった。
「……こいつは本当に指揮官なのか?」
そこでミュロンがそう疑問を呈する。
確かにそれは疑問だった。
私たちはこの男が実際に軍を指揮しているところを見たわけではない。
「はははっ! 私を捕えても無意味だ! 三月教徒は死を恐れない! 彼らは死ぬまで戦い続ける!」
「黙れ」
私たちの疑問に敵指揮官が高笑いするが、すぐに彼を運んでいるネストルに首へ一撃を入れられ気絶させられた。
「もう一度戦場を確認した方がいいかもしれないぞ」
「ああ。頼めるか、ソフィア?」
「分かった」
ミュロンにそう言われてソフィアが使い魔で上空から敵陣を探る。
「……やはり指揮官らしき連中はいない。となると、三月教徒たちはただ無差別に攻撃しているというのか……?」
三月教徒たちは指示を必要としていない……?
そんなのはもう軍隊ではなく、ただの暴徒だ。
「クソ。こいつがどこまで情報を持っているのか分からないが、敵指揮官であることは間違いないだろう。任務は終わった。こいつを連れて離脱だ。あとのことはアウルス将軍に任せればいい」
最終的にミュロンはそう判断し、私たちは戦場から離脱することを目指す。
「敵の魔法使いに追われてないか?」
「敵の魔法使いはいない。こいつは取り返すべき価値もない目標らしい」
ミュロンが確認するのにソフィアが首を横に振る。
指揮官だというのに放置された男を見て、私も本当に彼がアルダシールに繋がる情報を持っているのか、疑問になってきた。
そののち、私たちは戦場を離脱。
あとで聞いたところ帝国軍は数でやや劣勢だったが、指揮系統も何もなく無差別に攻撃を行う三月教徒を押し続け、包囲殲滅したそうだ。
1万2000名の三月教徒は最後のひとりまで戦い──全滅した、と。
私たちが相手にしているのは一体何なのだろうか……。
……………………