TS魔法使いさんは師匠のために今日も戦う 作:第616特別情報大隊
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──エウドキア急襲//作戦開始
ガイウス将軍の陰謀に巻き込まれたと語るコルネリアは、魔法使い派閥のことについて口にした。
「……ああ。聞いているが、まさか派閥のメンバーになれとでも言われたのか?」
「まさにその通りですよ……。彼は本気で元老院や軍部、そして皇帝と渡り合おうと思ってるんです……」
そのために魔法使いたちを次々に彼の陰謀に誘っているとコルネリア。
例にもれずコルネリアたちも魔法使い派閥に誘われ、組み込まれたと彼女は言う。
「私たちは特に戦争の英雄として看板になるらしく、帝国中央をあちこち引っ張り回されて。パーティやら元老院での演説やら。けど、不味いですよね……? 元老院、軍部、皇帝と対立することになるんですから……」
「不味いと言えば不味いだろうな」
魔法使い派閥の独立は他の三大派閥を敵に回す行為だ。
暗殺を含めた陰湿な政治闘争を繰り広げている帝国中央で、そのような争いに巻き込まれるのは私から見てもいいこととは思えない。
「魔法使い派閥から抜けられないの?」
「無理ですよ、リンクス。だって、ガイウス将軍は今や魔法官にも息のかかった人間を据えています。魔法使い派閥は絶対的とはいえずとも、それなりの影響力があって、裏切れば報復を覚悟しなければいけないんですから……」
「そっか……」
政治や派閥争いというのは、本当に不毛なことのように思える。
最低限の政治は必要だろうけど、政治のための政治というのはどうなんだろうと。
「いっそコルネリアも西部連合に来る?」
「それはちょっと。私は家族が帝国中央にいますから」
私が半分冗談で誘うのにコルネリアも苦笑してそう返した。
政治亡命というのはそう簡単に決められることではない。
「それで、です。ガイウス将軍は魔法使い派閥の力を強めるために様々な陰謀を張り巡らせているようなのです。具体的に彼が何をしようとしているのかは末端の私たちには分かりませんが、もしかすると暗殺とかそういうことも企んでいたりするかも……」
「それは……不味いな……」
ソフィアもティトゥス長官の皇帝暗殺を巡る陰謀に巻き込まれて、流浪の身となった経験がある。
だから、彼女はコルネリアの言葉にとても険しい表情を浮かべていた。
「けど、今は帝国中央を離れられていますし、その手の陰謀とは暫く無縁でいられるはずなんです。後方の帝国中央より前線の南方の方が安全だなんて皮肉ですよね……」
コルネリアはそう力なく笑う。
「コルネリア。私は大したアドバイスはできないけど、本気で危ないと思ったら逃げて。帝国中央の政治闘争に命を懸けるほどの価値があるとは、私には思えないから」
「ええ、リンクス。危ないと思ったら逃げます!」
私がそう言うのにコルネリアはぐっと拳を握ってそう宣言。
「それで、リンクスたちはどうでした? 西部連合の捕虜になってから……」
「西部連合ではよくしてもらったよ」
私はコルネリアに西部連合であったことを話す。
私とソフィアが魔法学園に迎えられたことや、ダフネのような友人ができた話。
そんな話を私はコルネリアに聞かせた。
「よかった……。捕虜として酷い目に遭っていたらどうしようって思ってたんです。でも、全然心配いらなかったみたいですね」
私の話を聞いたコルネリアは安堵の息を吐く。
「それじゃあ、お互い頑張りましょう」
「うん」
コルネリアとはそこでお茶を終え、私たちは別れた。
それから宿舎で作戦開始までの時間を過ごし、数日が過ぎた。
そして、ついに作戦開始が知らされた。
* * * *
「事前の予定通り、我々は帝国海軍の艦船で密かにエウドキアに向かいます」
ガイウス将軍は市庁舎ではなく、埠頭の倉庫でそう説明。
「作戦に使うのはあの軍艦──フルメン号です」
彼はそれからそこそこ大きなガレー船を指さした。
「このタラシアからエウドキアまでは途中で補給をしながら4、5日程度の距離になります。船旅は面倒でしょうが、我慢してください」
「エウドキア襲撃後の離脱もあの船で?」
「ええ。ですので、フルメン号が失われないように気を付けてください」
ソフィアが尋ねるのにガイウス将軍はそう言う。
しかし、4、5日に船旅か……。
今から少しげっそりする。
「もし、途中で我々がエウドキアを目指していることに気づかれたらどうする?」
「その場合は作戦中止です。別の手を考えますよ。ですが、可能な限りエウドキアへの攻撃は察知されないようにしてください。そうそう別の手は思い浮かびませんから」
次にミュロンが尋ね、ガイウス将軍はそう肩を竦めて答えた。
今回動員されるのは船員を除けば私たち魔法使いだけだ。
だから、奇襲に成功しなければエウドキアの港湾施設を叩き切るのは難しい。
「では、皆さんの健闘を祈ります。頑張ってください」
ガイウス将軍はそう言い、私たちに手を振った。
* * * *
それから私たちはフルメン号でエウドキアを目指した。
私はまた天候が荒れて、船が難破することを恐れたが、幸い天候は良好だった。
「お前も船旅には随分と慣れたようだな、リンクス……」
「うん、師匠。もうそこまで辛くないよ」
船の揺れにも汚物や汗の臭いにも慣れてきた。
嵐さえなければ何の問題もないだろう。
私と師匠は照り付ける南方の太陽の下で、船がエウドキアに到着するのを待つ。
しかし、事態が急変したのは航海開始から3日目のことだ。
「前方に所属不明船4隻!」
船の見張りがそう叫び、フルメン号内に緊張が走る。
「さ、三月教徒の軍旗が見えます!」
それからすぐにその4隻の船が三月教徒の黒い太陽の軍旗を掲げているのが分かった。
あれは三月教徒の軍艦だ。
「どうする、ミュロン?」
ソフィアがそこでミュロンに尋ねる。
「クソ。沈めるしかない。連中の目的はこの船に対する海賊行為だろう」
「気づかれる可能性があるぞ」
「その場合はガイウス将軍が次の計画を考えるだろうさ」
ソフィアの指摘にミュロンはそう少し自棄になってそう答えた。
「ソフィア、リンクス、そしてネストル。お前たちはついてこい。あの船を沈めるぞ」
「了解」
私はソフィアと、ミュロンはネストルと組み、私たちは船から飛び立った。
敵の船の大きさはフルメン号と比べてもそう大きくなかったが、それでも三月教徒の兵士を多く運んでいる。
あの船が私たちの船に近づき、兵士たちが乗り移ってくるのは阻止せねば。
「ミュロン隊長、敵の魔法使いが船から上がってきた!」
私はそこで船から3名の赤いローブの魔法使いが飛び立ってくるのを視認。
三月教徒の魔法使いたちが迫る私たちの要撃に動いたのだ。
敵魔法使いたちは私たちに向けて急接近する。
「数でこっちが上だ。撃墜するぞ。続け!」
ミュロンとネストルが先頭に立ち、私とソフィアがそれに続く。
敵の魔法使いは私たちに向けて魔力の矢を叩き込み始め、私たちはそれを魔力装甲で弾いていく。
「リンクス、近接させるな。自爆するつもりのようだからな……!」
ソフィアが睨むように敵魔法使いを見て言う。
敵の魔法使いは攻撃よりも私たちに肉薄しようと急いでいるように見えた。
あれは私たち相手に自爆攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。
「了解、師匠。接近させる前に落とすよ!」
私は爆轟魔法の狙いを定め、三月教徒の魔法使いたちに向けて放った。
一瞬の静寂ののちに大きな爆発が三月教徒の魔法使いたちを、そして敵の船の1隻を巻き込み、炸裂した。
「いいぞ。このまま船を沈める」
敵の魔法使いが排除された今、敵の船は私たちに抵抗する術を持たない。
ミュロンは魔力の槍を形成し、敵船の竜骨を破壊。
竜骨を破壊された船は脆くも自壊して沈んでいく。
全ての船を瞬く間に撃沈したミュロンとネストルは私たちの元に戻ってきた。
「リンクス。少し派手にやりすぎだ。あれだと敵に合図しているようなものだ。これは一応は隠密作戦なのだからな。以後、気を付けろ」
「ごめん、ミュロン隊長」
「まあ、お前のおかげで面倒な戦闘が避けられたことは確かだが……」
ミュロンは私を褒めるでもなく、貶すでもなく、そう言いフルメン号に戻った。
作戦中止の指示はなく、エウドキア急襲作戦は進行中だ。
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